033「ドワーフ娘、内政チートを押し付けられる」幕間B

ミカドワがやったのは、労力の特化だ。

職人が、同じ動作を続けていれば、洗練し、効率がどんどん良くなる。

それを利用し、ドワーフ達は柄や爪など、ひたすら同じ物を作り、別のドワーフは組立作業だけをする……この流れをひたすら繰り返す事で、次々と備中鍬が場に量産されていく。

最初は、1時間ごとに10本の鍬しか作れなかった。

だが、最初の一日が終わる頃には、効率が良くなって100本。

三日目になる頃には、1時間で300本の鍬が作れた。

睡眠時間すら削り、仕事に打ち込む事で……見事に、彼女達は成し遂げたのだ。

10トンの鉄の塊は綺麗さっぱり消費され――四日目の朝。工房の外に、一万本の備中鍬が積み上がっている。

オマケで、アイアンメイデン、三角木馬、特性ミカドワ・フィギュア(1/1サイズ)も場に出来上がった。

工房の中には、過労で倒れ、死体のように眠っているドワーフ達が転がっている。小さい姉御さんのために、彼らは犠牲となったのだ。


「どうだい!

アタイ達は、旦那の試練をっ!見事に達成したよ!

給金を弾んで欲しいねぇ!」


ミカドワは三日徹夜した高いテンションで、小さな胸を誇らしそうに逸らす。

彼女の目の前には、信じられない表情で佇むシルバーがいる。


「うわ、ようじょしゅごい!」


『きゃわわわっ!しゅごい!』

『この合法ロリ、しゅごい!』

『備中鍬一万本!?あんな設備で作れるのか!?』

『ちょおまwwww明らかにwwww森一つ消えるレベルで、薪が消費されてるぞwwww』

『うむ……大雨が降ったら、崖崩れが発生しそうだな……』


ネットの皆も、シルバーも、備中鍬が一万本も転がる風景に、感動する様子を見せた。

その有様を見たミカドワは、眠気を抑えながら、自分たちの仕事の成果を宣伝する。


「アタイ達は見事に『仕事』をやり遂げたよ……?

これが職人の意地って奴さねぇ。

どうか部下達を褒めてやって欲しいよ」


「凄いな……この仕事量で、他のドワーフは倒れているのに、ミカドワだけが立っている時点でやばいな……

三日で何でも作るドワーフって、評判は本当だったのか……」


ショタ妖精の疑問に、ミカドワは笑顔で答えた。


「アタイは、筋力がないからね!

現場仕事は、男たちの仕事さ!

アタイの仕事は全体を見て、仕事を効率よく分担したりする頭脳労働が仕事だよ!」


『オラも、簡単に小さくて若い上司と仕事したいお……』

『なんて素敵な女親方なのだろうか……職場に小さい娘がいたら、逆に人間関係が悪くなりそうなのに凄いな……』


「なるほど……ミカドワは優秀な現場監督という事か。

分かったよ、給金は弾ませてもらうよ」


「ありがたいねぇ。

アタイ達も、良いお客に巡り会えて幸福――」


ミカドワが言い終わる前に、シルバーはその言葉を遮って――


「じゃ!次はこれを作ってくれ!

ミカドワなら、きっと作れるよな!」


腰のホルスターにあるワルサーP38という、黒光りする自動拳銃を、ミカドワに渡した。

その精巧な作りに、ミカドワは驚愕する。

20世紀の科学技術の塊すぎる結晶を見て、冷や汗を流した。


「は、はいっ?

こ、これをどうしろと……!?」


『ちょwwww妖精さんwwww』

『無茶いうなよwwww』

『ドイツの科学力は世界一イイイイイイイイイイイイイ!!!って事を知らんのかぁー!このショタ妖精がぁー!』


ショタ妖精は躊躇しなかった。

自分が職人じゃないから、遠慮なく無茶を通り越して、無理な仕事を、ミカドワに押し付ける。


「次、これの量産を頼む!

あ、火薬と薬莢も作ってくれ!」


『おいこらwwww工作機械なしで、高精度な機械作れとかww無茶いうなwww』

『せめてロバーツ施盤くらい用意しろよwwww

ハンマーじゃ作れんぞwwww』


無理難題すぎて、ミカドワは絶句した。恐怖した。体が震えて、涙が出そうだ。

ワルサーP38はドイツ製の傑作銃。

銃の構造は単純といえども、規格化した部品を量産するには、高度な工作機械が必要となる。

つまり、機械を作るための機械すらない状況じゃ、ワルサーの製造は、困難すぎるにも程があった。

いや、銃はまだマシだ。職人芸でごまかせる。問題は――


(薬莢とか……どうやって量産すれば良いんだい!?)


産業革命イベントを起こして、巨大な工場を作らないと、薬莢(弾丸)は量産できない。

とてもじゃないが、30人程度の人数じゃ、量産体制を確立するのは困難すぎる。

時間があれば、ものづくりの才能で、何とかなるかもしれないが、そのための膨大な金がない。

税金を民衆から搾り取りまくる、優秀な官僚機構が必要だ。


「ど、どうやって作ればいいんだい!?

さすがのアタイ達も、先史文明の遺産を作るのは無理だよ!?」


「え、作れないのか?

じゃ、化合弓を作ってくれ」


『弓なら、矢を補給できるからワンチャンス』

『銃より弓で良いじゃない』

『うむ……矢なら補給できるから、兵站の問題を考えても効率がいいな……』


ミカドワは、また驚愕し、頭が痛くなる。

化合弓。それは競技用の弓だ。

エネルギーを効率よくホールドするための滑車がついていて、子供の筋力+短時間の修練で、遠距離の目標を、狙撃できるようになるメリットがある。

つまり、ガチムチの筋肉マッチョじゃない人でも、弓兵として運用できるのだ。

しかし、化合弓は、余計な部品が付いているから……軽い合金素材が必要だ。そうじゃないと弓本体が重くなりすぎて、実用に耐えない代物になる。

正直、銃を作る方が難易度が低いかもしれない、それほどまでに高度な工業製品だ。


「そ、そっちの方が無理だよ!

化合弓は軽くする事が難しいんだ!

作ったとしても、歩兵じゃ扱うのが難しい重さになるよ!」


『ちょおまwwww転生者がこんな所にもいるぞwww』

『なんでこのロリ娘ドワーフが、化合弓の詳細を知っているのwwww』


「え?化合弓も無理?

じゃ、どんな遠距離武器なら作れるんだ?」


シルバーは、空気のような軽い気持ちで言った。

ミカドワは、目の前にいるショタ妖精が、恐怖の支配者だという事を、改めて思い知らされた。


(確か、こいつは暗黒王子っていう化け物だったねっ……!

ア、アタイを限界まで試しているという事かっ……!

先史文明の遺産を、空間から作り出せる能力を持っている時点で、とんでもない化け物だねぇっ……!)


頭の中で、ミカドワは、いろんな武器を思い浮かべる。

構造が単純で量産しやすい武器。

針打ち銃?ボルトアクション式後装ライフルなんて無理だ。

火縄銃?これしかない。規格がいい加減でも、前装式の銃は弾丸を放つ事ができる。


「こ、構造が単純な、単発式の火縄銃なら何とか……?」


「よし!それ作って量産してくれ!

作ったら給料弾むから!

骸骨戦士に持たせるから、骸骨の手でも扱える感じに作って、1000丁ほど量産してくれ!」


シルバーはそう言って、仕事を頼んできた。

その目は純粋で無邪気で、明らかに三日以内に作ってくれと言っているようにしか思えない。

さすがに銃は、鍬と違って部品数が多すぎる。部品にネジがあるから、工作機械を作らないと量産は難しい。

そんなものを三日で量産するのは無理だ。火薬の供給ルートすら現時点では存在していない。


「ま、待ってくれ!旦那!

アタイは火薬の作り方を知らないんだ!

だから、無理――」


「はい、これ!

英語なら読めるよな!」


シルバーは問答無用で、ネット通販から、火薬の作り方が書かれた中古本を購入。

ミカドワに渡した。すると彼女は目をカッと開いて驚いた。


「せ、先史文明の本!?

げ、現存してたのかい!?

確かにこれがあれば、作れるような……?

でも、研究する必要があるから、一ヶ月……いや、三ヶ月待って欲しいね!」


『さすがはミカドワ』

『仕事の納期が、常に3でござる』 

『いや無理だろwwwww火薬の製造とかwwwこんな少人数で出来る訳ないだろwwww』

『妖精さん、無茶言い過ぎwwww』

『こらwwww妖精さんは中世ヨーロッパの一諸侯程度の国力もないんだぞwww無理な事をやらせすぎwwww

銃はめちゃくちゃ金がかかるんだぞwww』


ミカドワは、とんでもない客を持ってしまった。そう思った。なんかノイズ混じりの電波まで聞こえて怖い。

だが、目の前にいるショタ妖精は、物作りをひたすら堪能させてくれる上客だ。

依頼内容がむちゃくちゃすぎたが、資源も、本も、異常すぎる手段で、すぐに用意してくれる。

その点を考えれば、無茶であっても、無理ではない。

銃は基本的に構造が単純な代物。火薬は最悪の場合は、排泄物から作れば良い。

なにせ、ミカドワには、観察系お姉さんから与えられた物作りの才能があるのだ。

無茶を現実にする奇跡の力が――あっても、体は一つ。小さくて可愛い姉御肌な女ドワーフに過ぎない。


(アタイ、過労死するかもしれない……。

でも、巨大兵器を作る夢を、ここでなら叶えられるかも……。

なら、アタイはやるだけだよ。自分の仕事って奴をね)


『妖精さんがブラック上司すぎる!』

『なんて有能な合法ロリなんだ!』

『ミカドワちゃんに、紅と白の縞々パンティーをプレゼントしたら、10万円あげるお!』


大金を貰えると聞いたシルバー。最近、貯金が少なくなって苦しいから――躊躇なく、ネット通販からパンティーを購入した。

その動作を見て、ミカドワは(へ、変態か!?)とシルバーの行動を疑った、次の瞬間――


「じゃ、これ報酬の一部って事で……う、受けとってくれ。

べ、別に深い意味はないから!

受け取ったら忘れろ!別にプロポーズしている訳じゃないんだからな!」


銀髪のショタ妖精が、顔を赤らめて、縞々パンティーを渡してきた。紅と白の模様が美しい人工シルク製だ。

それを恐る恐る受け取ったミカドワは驚愕して、体が震える。

支配者はいつも横暴だ。可愛い娘がいたらハーレムする奴らだと、彼女は知っている。

『人間』の村で、奴隷にように働かされた頃に、そう学んだ。


(ま、まさかっ……!?

ア、アタイまでハーレムに入れるつもりかっ……!?

くっ……!体は屈してもっ……!

アタイの職人魂は屈しないよっ……!

でも、よく考えたら……旦那が金持ちだと、色々と作れて便利だねぇ。

そう考えたら、シルバーの旦那は良物件……?

少なくとも、『人間様』と名乗る畜生どもよりは、遥かに良いねぇ……)


この日から、シルバーが来たら娘を隠せー!という評判が、領民の間で流行したそうな。



ロリ娘ドワーフ編 おしまい




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ボツネタ

なお、巨大兵器は、運搬が困難だから、小型の武器ばっかり作らされたのだった。

大砲を作りたいと言ったら☛ 山岳地帯で運用可能なパラシュート砲。

歩兵が運用できる大砲?☛迫撃砲とか、最小限の部品で作れて軽いやんという事で、


彼女の夢が叶うのは、まだまだ先だった。




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縞々パンティー 300円

火縄銃と火薬の本(中古)100円


雑費 7万500円(豚討伐に使った弾薬などの雑多な経費)


消費総額143万9100円 ☛ 151万円


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