ちゃんこ鍋

秋になり、次第に風が冷たくなってきた。

「ふー」と営業帰りの匠と充はコートを脱いだ。

「お疲れ様です」と冴子はお茶を入れてくれた。

「ありがとう」二人はあつあつの日本茶が大好物だ。

ふーふーしてお茶を飲んでいる二人を見て冴子は「今日は鍋ってどうですか?」

「鍋?」二人は声を合わせた。

「鍋か。いいな。」といったのは佐々木だった。

「フーフー言いながら鍋をつついて日本酒を飲む、、、想像しただけで。。。」ごくりと係長は唾をのんだ。

「いい店しってますよ」と匠が言った。

「いいか、鍋といえばちゃんこ鍋だ。ちゃんこってのは力士が作った料理の事をいうんだ。そして、鶏肉。これは欠かせない。なぜ鶏肉なのか?それは前足がないから力士が土がつかない。っていみなんだぞ」佐々木係長は鍋奉行になりたくてうずうずしているようだ。

「同級生がやってるんですよ。元力士の「黄貞山」って力士ですよ。」

「へー。じゃあ、その店にしよう」

といって佐々木課長の一言でその店に決まった。

「内村さん。今日はあいてるかな?」

「ええ。大丈夫ですよ。ちゃんこ楽しみです」契約社員の内村さんも最近はグルメになった。

「じゃあ、係長のおごりで」充はちゃっかりしている。

「大丈夫ですよ、係長。安いんで。」

「じゃあ、大丈夫だ。行くぞ」

5時のチャイムで「ちゃんこや」に出かける。

「あいかわらず、早い退社ですね」守衛さんに玄関で声をかけられた。

佐々木は仕事は定時に終わる。そのくせ成績が抜群にいい。

ゆえに社長も文句が言えない。


会社から電車で二駅いったところで5人は降り立った。

「こっちです」と匠は案内した。

10分くらい離れた場所にその店はあった。

「黄貞山」それが店の名前だ。

ガラガラと暖簾をくぐると若い女将が「いらっしゃいませ」と声が響いた。

「あら、たくちゃん。久しぶりね」

「隆君、たくちゃんが来たわよ」

どかどかどかと大きな足音がする。

「おー匠。最近来ないから心配してたんだぞ」といって隆という人物は小兵な体だが体のつくりは「元力士」という事を感じさせた。

「ごめん、ごめん、最近仕事が忙しくて、、、今日は職場の仲間連れてきた。うまい物食べさせてあげてくれ」

「わかった。腕によりをかけて作るぞ」

「どうぞ、ごゆっくりしてくださいね」といって隆君は頭を下げた。

ふたたびドカドカという足音が厨房に向かった。

座敷席が空いていたのでそこに5人は座った。

「とりあえずビールとちょうちん」

「あいよ」

「ちょうちん」とは鶏肉の部位で卵がぶら下がっている姿がちょうちんに似ているのでこの名前が付いた。

後で聞くとこの店は契約農家から直接鶏肉を仕入れているらしい。

ちょうちんは新鮮でないと不味い。新鮮さが勝負だ。

ちょうちんが皆の前に配られた。

「これがちょうちん?」冴子は初めて見たものらしい。

いっぺんに皆食べる。ちょうど卵の部分は半熟にしてある。

鶏肉と卵の甘さが口の中に広がる。

「うーん。うまい」佐々木も驚いた。

「あとつくねも」といった。

ちゃんこやと言いながら「鶏肉」の扱いもうまい。

つくねもおいしくてみんなビールが進む。

そのうちにお客さんも増えていた。

「さてそろそろいきますか?」と匠はいうと

「隆、ちゃんこ、よろしく」

「あいよ」

そういうと作業に入る。佐々木は日本酒に飲みかえてる。

やがて「コンロ」が運ばれてくる。

そしてドンと土鍋が置かれた。

土鍋の中には琥珀色のスープが入れられている。

「じゃあ、野菜からいれていきますね」と女将がどうやら作ってくれるらしい。

野菜が煮だしたら、つくねを入れていく。

丹念に灰汁を取ってくれてやがてちゃんこ鍋ができあがった。

あつあつの鍋を前にして「ごめん、俺猫舌なんですけど。。。」と充が言う。

「これをつかってください」と女将は生卵を差し出した。

「これも契約農家さんから仕入れているです」

「ありがとうございます」そういって小皿に生卵をといてそれにつけて食べだした。

呑みながらちゃんこ鍋を完食した。

「デザートです」と女将が杏仁豆腐を届けた。

「意外とこれ目当てで来る人がいるんですよ」と匠はいった。

鍋の〆も「うどん」をたべて、体はほかほかだ。

「これで今年は風にならないな」と充はいった。

「まあ。馬鹿は風邪ひかないって言いますしね」と冴子は言った。

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