カレー

「あーカレーが食べたい」充の食欲は自由だ。食べたいときに食べたいものの名前を言う。実に単純な奴だ。

「カレーですか?」冴子は真面目に返事をする。

「やめとけ。いつものことだ。充の言葉にいちいち反応するのは時間の無駄だ」

匠は冷静だ。

「だって、カレーが食べたいんだもん」と充は頬を膨らます。

「それより、冴子、こっちの仕事手伝ってくれ」匠は完全に無視する。


カレーはもちろんインドの食べ物だが、日本にはイギリス経由で伝わったため最初はスープカレーのようなものだったらしい。

家庭に入ってきたのが「インスタントカレー粉」が作られた昭和40年くらいからだと思う。ちなみにこの「インスタントカレー粉」を作ったのは薬屋さんである。

カレーの成分は漢方薬にも使われるものが多い。

それを扱っていたのは薬屋さんだったから、作ったとされている。

「日本のカレーの味」というのはおおよそこの味だ。

学校給食にもカレーが広まり、子供たちの楽しみとなった。

「あまり」カレーが嫌いな人というのは聞かないのは学校給食だったからだろう。


「家庭の味のカレーがいいんだよな。カリーじゃなくてカレー。」と充はやめない。

「二日目のカレーがおいしいんですよね。」冴子はついつい付き合ってしまう。

「そうそう」

「うちじゃあ、二日目のために一日目はお代わり禁止だった」とうとう匠が話に入る。

「なんで二日目のカレーっておいしいんだろう?」

「うーん、」三人は唸る。


その時充の携帯が鳴った。

「あ。かあちゃんだ」とそれに出る。

「なに?まだ仕事中なんだけど。。。」

「うん。。。。。。うん。。。。。」

「わかったよ。じゃあ週末に時間合わせるよ。じゃあ」


「お母さんどうしたんですか?」充の母からの電話は珍しいので冴子は内容を聞いた。

「いやね、今度の土曜日お見合いしろって、、、」充はめんどくさそうだ。


「大変だぇ。」と匠は余裕を見せている。

「妻がいる人はいいね」と充はあかんべーをした。

匠には恋人がいる。年下の美人だ。

まあ、この物語は食べ物の事だけだから、深入りはしない。

「がんばってくださいね」冴子は一応、応援した。冴子にも恋人がいる。彼氏は年上である。

「ああ。頑張るよ。」

「あーカレーが食べたい」そういうと充は仕事を片付け始めた。



土曜日が来た。充はいつもと同じスーツを着ていった。

「もうちょっと、派手なネクタイの方がいいんじゃないの?」

母は今日はうるさい。

「もういいだろ。俺のお見合いなんだから。。。」と言いながらもちょっと派手なネクタイに変えていた。


お見合い、といっても、和室に「本日は結構なお日柄で。。」なんてのはしない。

ホテルのレストランに予約を入れてある。

「いい。あんた。これ逃したら一生美人には会えないよ」母の服もだいぶ派手目だった。

「わかってるよ。」今日の充の気分は悪い。


ホテルに少し先に着き何度もトイレで「ネクタイ」の確認を充はしていた。

やがて「仲介してくれる田村さん」(田村は母の知り合いで充も知っている。)が「お見合い」の相手を連れてくる。

「ほんと田村さん、今日はごめんなさいね。出来が悪い息子で困ってるのよ。30過ぎても恋人もいないみたいで。。。」

というと田村さんと母はしゃべり始める。

「そういえば、この前、高橋さんのお葬式は突然だったわよね」

なぜ見合いの席で「葬式の話」がでるのか?理解不能だ。

「ごほん」充は咳払いをする。

「やあ。充君。久しぶりだね。この子はうちの職場の新人で木村千沙さん。」

「はじめまして。木村千沙(ちさ)といいます。」木村千沙はスマートな女性で美人というわけではないが、「可愛らしい」女性だ。

「はじめまして。内藤充です。」充は頭を下げた。

「まあ、硬くならないで。。」田村はそういうと笑った。

硬くならないでと言われても、どうしても固くなってしまう。

二人とも「かっちんこっちん」だった。

「ちょっと、お願いします」と母は注文を頼んだ。

「かしこまりました」ウエイターはオーダーを取ると下がる。



しばらくして「ぷーん」とにおいが香ってくる。「カレーのにおいだ」

やがて4人の前にカレーライスが置かれる。

充の顔色がいっぺんによくなる。

「わー。カレー」充の無邪気な姿を見ると千沙は「くっす」っとほほ笑んだ。


それからは話が進んだ。「おいしいもの」には緊張をほぐす効果があるようだ。

千沙と充は次の休みにデートする約束をした。


「あとは孫の顔をみるだけね。」母はそういうと、付け合わせの「らっきょう」をほおばった。


つづく

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