うなぎの白焼き

「あついな~」匠は営業から帰ってきた。いくらクールビズといっても営業にはネクタイをしないといけない。帰るとすぐにネクタイを外した。

「こう暑いと、夏バテしちゃいますよね」と涼しい部屋で仕事をしていた冴子は言った。

「うなぎだ」充は叫んだ。

「先輩どうしたんですか?」冴子が心配した。

「ウナギ食べに行くぞ。なぜなら今日はボーナスが出たのだから」

「大切に使わないとそのうちまた借りる事になりますよ」

先月充は冴子にお金を200円かりた。それは今朝300円となって帰ってきた。そのことを言っているのだ。

「しかし、車の修理に使いたいんだよな、ボーナス」匠はつぶやく。


「わかった」と係長の佐々木が声をあげた。

「お前らのおかげで先月うちが営業トップになったからな。臨時ボーナスだ」

「うぉー」三人は雄たけびをあげた。

佐々木の部下は三人と派遣社員で50代の内村さんという女性だけだ。

「いい店知ってるんだよ」佐々木は40代だがグルメとして社内では有名で時々部長が接待に使う店を聞いてくる。

「もちろん、内村さんも一緒ですよ」

「はい」内村さんは嬉しそうだった。


仕事が終わり佐々木は三人と内村さんを連れて店に向かった。

佐々木はバーや、スナックがある通りを目指した。

「ほんとにこんなところに「うなぎや」があるんですか?」冴子は佐々木に聞いた。

「こんなところだからあるんだよ」といってどんどん通りを進んでいく。

そしてある料理屋に入った。「うなぎ」と暖簾がしてある。

「へぇ~」三人と内村さんは驚いた。

「さあ、入ろう」佐々木は暖簾をくぐって店内に入る。

「やあ、大将」

「ああ、佐々木の旦那。しばらく見えませんでしたが、どこかの店に「浮気」してましたね?」

「毎日ウナギってわけにはいかないよ。そんなに元気になったら子供が出来ちゃう」と佐々木はふざけた。

「今日は部下を連れてきたよ。おいしいウナギ食べさせてあげてね」

「あいよ」そう言うと大将は団扇で備長炭をあおった。炭は赤く燃えた。


奥に座敷があってそこにみんな座った。

「大将、みんなにかば焼き特上を。あと俺はいつもの奴」

「あいよ」

「いいんですか?係長特上って、私今日5千円しか持ってませんよ」冴子は言った。

「いいんだよ。見てみな。この値段」佐々木はメニューを見せた。

かば焼き特上1500円

と書かれていた。

「え?」今の時代1500円でうな重が食べられることが出来るだろうか?

スーパーで買ったってそのくらいする。

しかも、特上なのだ。

「狐につままれた」ように3人と内村さんはびっくりしている。


「どうぞ、お待たせしました」と女将がかば焼き4人前を運んできた。

「うぉー」三人は再び雄たけびを上げる。

ちゃんと肝吸いもついている。5千円だとしてもおそらく払うだろう。

ふたを開けると、かば焼きの甘いにおいがしてくる。

一番上には立派なウナギが一尾乗っていた。

実はこのウナギのご飯の下にもう一尾ウナギが入っている。それが特上たるゆえんだ。

みな、うなぎをほおばり始めた。

「すごくやわらかいな」匠は言った。

「ここのかば焼きは焼く前に一度蒸してあるんだ、だから身が柔らかい」佐々木は自慢した。


「はい、佐々木さん、いつもの」といって女将は冷やした日本酒と「まっしろな」ウナギを焼いたものを置いた。

「係長。なんですか、それ?」

「これ?ウナギの白焼きだよ」

「うなぎって白いんですか?」冴子は何度も変な発言をする。

「すいません、わたしも、これ頼んでいいですか?」と冴子は言った。

つられて匠と充。内村さんも頼んだ。

「あいよ」大将はそういうと再び備長炭をあおる。

「おいおい。うな重だけで勘弁してくれよ」佐々木は困っている。

しかし、メニューには「白焼き 1000円」と書かれていた。


柔らかいうな重を皆で食べているうちに「白焼き」が出来上がった。

いつもの「かば焼き」とは全然違うものだった。

佐々木は白焼きにワサビと醤油で食べていた。

まねて冴子も醤油をかけて食べてみる。

「すごーい。ウナギってこんなにあっさりしてたんだ」

「これは大人の味だな」匠はこういった。

「そういえば、ウナギのお刺身って売ってませんね?」

「それはね、お嬢ちゃん。ウナギの血には毒があるんだ」

大将は冴子に話しかけた。

「焼くと毒は無害になるんだが、焼かないと毒がある。だから、刺身はだせないんだよ」

「へえ」皆がうなずいた。


あっという間に皆、完食した、が佐々木はちびちび日本酒をやっている。

そして、皆ウナギを満喫した。


「あー、あそこのお店「食べログ」に載ってるかな?」と冴子はスマホをいじる。

「あそこの店は特別なんだよ。おれが開拓したのに、勝手に載せるな」と佐々木は冴子のスマホを取り上げる。

「たしかに、みんなに広まったら俺たちが食べれないしな」充はぼそっと言うと、冴子はスマホに触るのをやめた。

「ごちそーさまでした」3人と内村さんは頭を下げた。

「そのかわり、これからも頼りにしてるから頑張ってくれよ」

こうして佐々木と3人、内村さんそろって駅に向かった。

づづく

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