第13話 朝食には温かいスープを

 深海は生まれて初めて女の子の部屋に入った。部屋は整然と片付けられている。深海の部屋より随分広い。屋敷と同じく、部屋の家具は西洋のもので、どれも手入れが行き届いていた。神崎家の品の良さが伝わってくる。そうはいっても、やはりベッドの上のぬいぐるみや、所々にある桜の私物を見ると、この部屋の主が十代の女の子であることを感じさせた。本棚には魔術に関する本がズラリと並んでいる。


「私、男の子を部屋にいれるの初めてなんだけど、変じゃないかしら……?」


 深海は部屋をぐるっと見まわした。


「全然。とても素敵な部屋だ」


 桜は少しホッとしたようだった。ようやく一息ついた二人は、そういえば朝からクッキー以外、何も口にしていないということに気付いた。窓の外を見ると、日が落ち始め、オレンジ色の光が街を染めていた。



 深海は目が覚めると一瞬ここはどこだろうと思った。しかし、すぐさま昨日のことを思い出して、自分は今、神崎家の客室にいることを思い出した。部屋を見渡すと、まるで一流ホテルのスイートルームのようだ。あまりにいろんなことが起きたせいで、夢でも見ていたような気分だったが、自分が西洋風の洋間にいる事実が、これが現実であることを否応なく物語っていた。


 昨日は結局、桜が簡単な夕食を作ってくれて、二人でそれを食べてから、この客室に案内された。思った以上に疲れていたのだろう。深海はベッドの上でぼんやりと考え事をしているうちに、そのまま寝てしまったようだった。深海は、部屋に付いているシャワールームで寝起きの汗を流した。ついでに歯を磨き、持ってきた服に着替えて、ソファに寝転んだ。


 今日は桜と外へ出かける約束をしている。上手くいけば、結界脱出の糸口が見つかるかもしれない。それと、できればこの家にある法具をいろいろ見ておきたいなと深海は考えていた。何か役に立つものがあるかもしれない。


 深海がソファで考え事をしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をしてドアを開けると、桜が朝食を持ってきてくれていた。どうやら桜も起きてからシャワーを浴びたらしく、ふわりとシャンプーの香りが漂い、思いがけず深海はドキッとしてしまった。


「朝食を一緒に食べようと思ったんだけど、いいかしら……?」


 遠慮がちに聞いてくる桜がなんとも愛らしい。最初は強引で無遠慮だったのに、どうしてこの子は距離が近くなるにつれ、どんどん女の子らしくなっていうくのだろう、と深海は思った。そういう倒錯してしまっているところが、実に桜らしいと言えばそうなのだが、逆にコミュニケーションの取り方さえ間違えなければ、いくらでも人から好かれるはずだ。


「もちろんいいさ。一緒に食べよう。それにしても君は本当に面白いね。素敵なところはたくさんあるのに、生き方が下手というか」


 深海にそう言われて、桜は自分が褒められているのか、笑われているのか判断しかねて、ちょっとだけ膨れっ面になっていた。深海はクスクス笑っている。二人は向かい合ってテーブルに座った。桜が持ってきてくれたのはポタージュスープとバケットだった。



 朝食を終えて、まずはパッツォ襲撃に備えて、使えそうな法具を探そうという話になった。


「法具や魔術に関する物が仕舞ってある部屋があるの。そこから優一君にも使えそうなものを探しましょう」


 廊下を歩いているとメイド人形がテキパキと掃除しているのを見かけた。なるほど、手入れが行き届いているわけだ、深海は感心した。部屋に案内されると、そこには数え切れないほどの法具や、魔術書のようなもが並んでいた。深海は部屋の中に入っていき、一つ一つを興味深そうに眺めた。


(さてと、何か脱出に使えるもが見つかるといいんだけど)

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