第12話 未知の扉
桜の意見でデートは明日にしようということになった。今日はもう魔力回復のために、おとなしくしていた方がいいというわけだ。加えて、桜は一度自分の家に帰りたいと申し出た。深海は好きにしてもらってかまわないと言ったのだが、続きがあった。
「それでね、私は家に帰るけど、悪いけど、その、優一君も一緒に来てほしいの」
深海がキョトンとしたので慌てて桜は理由を説明した。
「あの、別に変な理由じゃないの。ただ私と一緒にいない時に、もしパッツォが優一君に手を出そうとしたら守ってあげられないから。まさかアイツがこんなふうに狙ってくるなんて思ってなかったから。本当、とんだストーカーだわ。だからその、優一君が危ない目にあっちゃいけないと思って……」
「なるほど。確かにそれはそうだね。僕も一人で彼から逃げられる自信は無いし、しばらくは常に行動を共にしていた方がいいのかもしれない。でも桜の家に行くのは問題ないの? 桜の両親て、魔術使えるんだろ? さすがに勘付かれるんじゃ」
「それは大丈夫。今、両親は仕事で英国の方へ行ってるわ。部屋も沢山あるから、優一君の泊まる部屋も用意できると思う」
そういうことならと深海も同意した。しかし、まさか会って初日から同じ屋根の下で寝ることになるとは深海も思わなかった。この部屋に桜が来てからずっと振り回されっぱなしだな、と深海は一人苦笑いをした。
◇
深海は何日か分の着替えを旅行用鞄に詰めて、出かける準備をした。桜の家にはいろいろと法具もあるらしく、パッツォの襲撃に備え、しばらくは桜の家に住むことになったからだ。
深海の家を出て、桜の家へ向かう道すがら、深海は頭の中で考えを巡らせていた。同じ学区とはいえ、深海の家と桜の家はそれほど近いわけではない。やはり桜の結界の範囲は相当広いということになる。深海は少し鎌をかけてみることにした。
「これだけ僕の家から離れても、やっぱり他の人から僕らは見えないのかい?」
桜は自信たっぷりに答えてくれた。
「えぇもちろんよ。なんたって私の結界はこの街全体をすっぽりと覆ってるんだから」
(この街全体だって!?)
その途方もない規模に深海は少しショックを受けた。果たしてパッツォが作り出した抜け道を、そんな広い範囲から見つけることができるのだろうか。道理で桜は簡単にいろんなことを話してくれるわけだ、と深海は思った。つまり桜は、自分の魔術に自信があるのだ。だが、そんなことで深海は脱出を諦めたりはしなかった。桜の家に行けば、何か糸口が見つかるかもしれない。深海は気を取り直して、桜の後についていった。
◇
神崎家の屋敷は予想していたよりも遥かに大きかった。まるで中世のヨーロッパから貴族の住む屋敷を丸々一つ持ってきたかのようだ。高いレンガの壁に覆われ、壁中に蔦が蔓を伸ばしている。庭は噴水があり、木々が植えられ、しっかり手入れも行き届いている。日本らしからぬその雰囲気に深海は圧倒された。
廊下でメイド服の女とすれ違ったが、やはりこちらに気付いていない。驚くことに、それは人間ではなく、魔術で動いている人形だと桜が教えてくれた。
「この屋敷にはメイド人形が何体かいるけど、彼女たちは魔術によって特定の命令で動いているだけだから、気にしなくて大丈夫よ。外部操作系の魔術も高度なものになれば、ああいうこともできるの」
長い廊下を抜けて、桜の部屋の前に着いた。
「着いたわ。ここが私の部屋。どうぞ、入って」
桜が扉を開けて深海を促した。恋愛なんてしたことのない深海にとっては、もちろん女の子の部屋に通されるなんて初めてだ。どうしてこんなことになったのか。今日は深海にとって未知のことだらけだ。まさか僕が女の子の部屋に招かれるなんて。深海は自嘲気味に笑いながら、部屋へと足を踏み入れたのだった。
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