第186話 術式 解析
「……という訳です、お願い出来ますか? アイアタルさん」
「承りました、お引き受けしましょう」
「快諾感謝いたします」
国王との交渉が終了した後、王城の裏口にて自分こと影山亨は、憲兵隊長のアイアタルと『三つ目の願い』の打ち合わせをしていた。
「もとより私も、やるべきではあると考えてはおりました。
ただ……」
アイアタルは一度言葉を区切り、鋭い目つきでこちらを見据える。
「どのような結果に転ぶかについては、私にも予測しかねます。
あの子の幸福のために、カゲヤマ様にも出来る限りの協力をお願い申し上げます」
「無論です、最上の結果のために尽力する次第です」
満足できる返事であったのか、彼はほうと安堵の息を吐いた後、右手を目の前に差し出した。
自分はそれを右手で掴み、固く握手を交わす。
ペンだこと剣だこでごつごつとした、仕事人の手であった。
「それでは、また遠くない日に」
「お互い、良い形で再会出来ますよう」
こうして大きなトラブルも発生せず、会談は無事に終わりを迎えることが出来た。
心の内に湧き上がる達成感を抑えながら、規則正しい足音で小さくなっていく背中を見送っていると、自分の肩に丸められた紙束が乗せられる。
「ほいよ、
「仕事が速くて助かる」
術式解析の
国王との『あの場にいた人物以外への口外禁止』という密約を厳守するため、内容の確認は別の場所にて行う予定である。
「……一応、認識の齟齬がおきるといけないから、解説を頼めるか?」
「それはお安い御用なんだが……」
クラマの返答には、声色に明らかな焦燥が含まれていた。
何事かと
「ナカムラ達の援護に回らなくていいのかい?
なかなか意地悪な敵に
「心配ない、そろそろ心強い援軍が到着する予定だ。
それに……」
言葉を切って、彼女に自らの手の平を見せつける。紅の瞳が、大きく見開かれた。
小指の付け根辺りに新しく出来た、裂傷に驚嘆しているからであろう。
「中村と遠藤は飛び切りのとっておきを隠している」
「こりゃめでたい、あいつら
膨れ上がっていた不安が吹き飛んだように、クラマは満面の笑みで何度も手を叩いた。
「とりあえず、国王との約束を守るために屋敷まで戻ろう」
こちらの発言の意図を理解して、彼女は服を掴んでくれる。
自分は【影魔法】を発動し、足元の影をクラマごと纏わせた。
◆◆◆
「なかなか細かく決められていたみたいだな」
「いやぁ、結構見逃せない単語だらけで胸がときめいたよ」
手元の書類の執筆者は、既に黒のドレスからいつもの山伏衣装に着替え、呑気に煎餅をかじっている。
彼女は実に優秀な解析者であった。
元は複雑かつ長大であったであろう術式を、ほぼ素人といって良い自分が見ても分かるほどに、具体的かつ簡潔な文章にてまとめられていた。
「頭から見ていこうか、解説頼む」
「よしきた」
〜〜
勇者召喚術式
①:勇者召喚術式は以下の条件が全て揃った場合にのみ起動を成功させる。
条件1:術式を起動させた人物が、神聖ルべリオス王国の王族であること。
条件2:術式を起動させた時に、
条件3:勇者サトウの血縁者の年齢が、成人を迎えていないこと。
②:勇者サトウの血縁者を召喚対象とする。
②-1:勇者サトウの血縁者の周囲に人間が存在する場合、それらも召喚対象とする。
③:召喚対象に対して召喚を実行する。
③ー1:召喚できる人数の最大は36人までとする。
③ー2:召喚対象が36人を超えてしまった場合、勇者サトウの血縁者を除いた召喚対象から、勇者サトウの血縁者との関係が薄い者を切り捨てる。
③ー3:召喚完了時、称号『異世界人』と100
④:勇者サトウの血縁者に対して、
④ー1:勇者サトウの血縁者に既に職業が付与されていた場合、
④ー2:勇者サトウの血縁者に既に職業が付与されており、
④ー3:召喚対象が複数の場合、【勇者】と関係が深い者に、
④ー4:④ー3の処理の後、残りの召喚対象に適当な
④ー5:召喚対象に付与した
〜〜
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