第143話 仲間二人目
リベリオンズにローザが加わり、様々な『初めて』を経験した翌日の早朝の事であった。
「斥候職の冒険者を募集を行いたいんだけど、どうかな?」
冒険者ギルドの酒場にて、席に着いた中村が開口一番に提案した。
「前にここで話し合った時に、遠藤君が斥候職が欲しいって言ってたでしょ?」
「あぁ。贅沢を言うなら、冒険者関連の豊富な知識も備えていてくれるとありがたい」
「そっかぁ……あたしも含めて、みんなその辺まだまだだもんね……」
頬杖をつきながら、クラマはメンバーを見回す。
中村と遠藤は勉強中、ローザはつい昨日来たばかりの無知な新米である。かくいうクラマも、
見事なまでにパーティに知識の穴が空いている。
「先日僕がフィンケルさんとたくさんの人の前でパーティー名を喋ったでしょ?
だから……その……自分でいうのもなんだけど……」
「知名度が飛躍的に上がっている今のリベリオンズなら、募集を掛ければ希望者が出てくるかもしれないという訳だな?」
中村の性格上言いずらかった言葉を、遠藤が補完する。
「どうかな? みんなの意見を教えてほしいんだけど」
右腕のありがたい援護に笑顔で頷きながら、テーブルの上で手を組む。
「私は賛成だ。注目されている時に上手くいく手段だというのなら、まさに今うってつけだと思う」
ザワークラフトをフォークの上に乗せたローザが、中村の意見に賛同する。
「あたしはちょっとやめた方が良い思うかなぁ。
確かに今の状況なら、募集すれば何人かの希望者は出るだろうさ、でもね?」
ソーセージ2本を豪快に喰らいながら、クラマはリーダーを見やる。
「ナカムラ、希望者全員をパーティに加えるわけじゃないだろう?」
「も、もちろん……僕たちが求めているものを一番持っている人を選んで、それから……それから…………」
リーダーとしてまだ日の浅い少年は、次の言葉を続けることが出来なかった。
「残りの希望者に『お前は不合格だ』って非情なことを言う覚悟は出来てる? ちょっとだけ一緒に過ごした程度の仲だけど、あたしから見て君には厳しいと思うよん?」
「おっしゃる通りです……」
忘れていた痛みが、少年の心を襲う。
他人から『お前は役に立たない』と言われる人間の辛さ、王城で居場所のなかった中村は、十分な程に理解出来てしまった。
「問題はあるが、方法としては悪くない」
ようやく固いパンを嚙みきった遠藤が話に加わった。
「一つ俺から提案がある。
それが失敗に終わった時の最終手段として、募集は残しておいてはどうだろうか?」
「提案と言いますと?」
人差し指を立てた遠藤に、パーティー全員の視線が集まる。
周囲では他のパーティーが、リベリオンズと同じように今後の打ち合わせを行っている。
異世界から召喚された少年二人は、冒険者ギルドのありふれた景色に溶け込んでいた。
◆◆◆
その日の夕方、リベリオンズはギルドの一室を貸し切って集まっていた。
「は、初めまして……私の名前はエストです。一応……【
十の瞳が一人の斥候職の冒険者を映す。
注目されることに慣れていないのか、少女はしきりにキョロキョロと、周囲を警戒する小動物のような挙動を繰り返す。
「お、おねぇちゃん」
とうとう耐え切れなくなり、この場で唯一知人であるカレラに助けを求めた。
そんな情けない妹にため息をついた受付嬢は、彼女の肩を叩きながら中村達に向き直った。
「紹介させていただきます。こちらは私の妹でエストと申します。
斥候職としてはまだ二年ほどの新人ですが、知識は基礎から私が全て叩き込みましたので力になれるかと思います」
「ひっ」
カレラの『叩き込む』という言葉に、エストが怯えた悲鳴を上げた。
中村達と変わらない年齢で、膨大な冒険者の知識を会得しているのである。そこに至るまでの壮絶さは、想像すらできない。
中村は心の中で、勝手に彼女へ親近感を抱いた。
「いかがでしょうか? エンドウ様が提示した条件は満たせているかと思いますが」
「カレラさんのお墨付きとあれば問題ないでしょう」
遠藤の提案とは、受付嬢のカレラに冒険者を紹介してもらう事だった。
ある程度要望を叶えた人材に会えるため、中村が不合格を伝える可能性が限りなく低くなると見込んでの考えだった。
「リーダー、どうだろうか?」
「僕もいいと思う」
中村はクラマとローザに振り返る、二人とも笑顔で頷いていた。
その様子を見ていたエストが、中村の前に早足で歩いていき、ショートカットの頭を勢いよく下げた。
「こ……これから、よ……よろしくお願いします!」
腰を直角に曲げた見事な挨拶だった。
「こ……こちらこそ!」
慌てて中村も同じく腰を直角に曲げて頭を下げる。
「あうっ!」
「ひゃん!」
ゴツンと鈍い音が部屋に響いた。
「紹介した立場で言うのもなんですが、似た者同士を引き合わせたのかもしれないですね……エンドウ様」
「かもしれません……」
頭をおさえる二人を、受付嬢カレラは暖かな目で眺めていた。
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