第25話 表情のない人形

 階層は19階、まるで天まで届きそうな大きな木にこれまた名人が彫ったような扉があった。

 階層ボスの部屋は目の前だ、しかし今自分はその周辺の木の裏に隠れている、なぜかというと。


「ついにここまで来たな。」

 腰に長剣を刺した男が無意識に呟き。

「長かったねぇ。」

 見るからに魔術師メイジの恰好をした女性が感傷に浸っている、かと思えば向こうでは傭兵の男二人が話している。

「ここを突破したらこの先の町で一杯やろうぜ。」

「おうっ」

 なぜかは知らないが急に彼らが不安になってきた、柿本からの影響をずいぶん受けているらしい。

 どうやら彼らは自分と同じく階層ボスを攻略しようとしているらしい、とても人数が多いのだが、普通に攻略する場合はこのぐらい必要なのだろうか?


「あの...何か用ですか?」

 考察に集中していると後ろから声が掛かった、振り返ると自分と同じ年頃の少女がこちらを見ている。

 軽装備で短剣を持っている、見たところ新人冒険者らしい。


 一度一通り言い訳を頭で考えた後、できるだけ怪しくないように話してみる。

「ここら辺で採取の依頼を受けていたのだが、多くの人が集まっているのを見かけてね。

今から階層ボスに挑むのだろう?」

 そういうと少女は嬉しそうに話してくれた。

「はい、今回は若手の冒険者の力の底上げとして中堅の冒険者たちが20階層まで連れていってくれているんです」

「なるほど」

 そういう事も冒険者の仕事の内らしい。


「あなたは20階まで突破しましたか?」

 どういうべきか、突破したと言って後でボロを出すとやりにくくなるのでここは正直に言っておくか。

「いえ、まだ」


 すると少女の顔がパアァと目に見えて明るくなり、恐る恐るといった口調で話しかけてきた。

「あの…もしよかったら一緒にボスを攻略しに行きませんか?」

「混ざってもいいのかな?」

「はい、先ほども一つのパーティーが合流しましたのでいいと思いますよ。」

 なるほど、この集団についていけば、階層ボスを攻略したときに怪しまれずに済む、悪くない案かもしれない。


 ただ、いくつか確かめておきたいことがある。

「使い魔は連れて行ってもいいのかな?」

 経験値やSpスキルポイントを冒険者と分けるのでトラブルの対象になるだろう。

「はい、今回の目的は『20階に若手冒険者を到達させること』なので経験値やSpスキルポイントなどはあんまり重要ではないんです」

 つまり20階のセーブポイントを使えるようにして若手冒険者により強い魔物モンスターと戦わせることで力を付けさせることがこの集団の狙いか。


「それに思ったより人が多くなってしまって、もう人数は数えていないそうです」

「なるほど」

 ちらりと見たが40ほどいる、今のところ断る理由もない、だったらこの集団にくっついていって20階に行くのもありかもしれない。


 ただ、

「こんな服装ナリなのだが大丈夫かな」

 今の自分の恰好はマントに仮面というどこから見ても自分でいうのもなんだが怪しさ満点の恰好だと思う。

 すると少女はクスリと笑い答えた。

「そんな恰好今時珍しくありませんよ?」

 確かに集団の中には派手な格好や一見何の職業かわからないか服装がある、この服装が冒険者の中でも奇妙な目で見られないことを知って安心した。


「それではお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 そこまで言って自分は名前を名乗っていないことに気付く、これから肩を並べて戦うのだから最低限の礼儀は心得ておくべきだろう。

「申し遅れた、私の名前はクロードという」

 すると少女も慌てて返事をした

「わ、私はエストと言います、こちらこそよろしくお願いします」

 エストという名前の少女の後に続く、冒険者達は『また新しい仲間が来た』という目線を向けた後、またいつもの会話へと戻っていった。


「よーしみんな準備はいいか?」

 しばらくすると集団のまとめ役のようなような男が声をかける、この中で一番高そうな鎧を着ていて大きな戦槌を担いでいる。

「では出発!」

 木製の大きなドアが軋みを立てて開かれる、中は階段のようで奥へと続いていた。

「あれがこの集団の中心的パーティー『エルドビーン』のアースさんです」

 エストが耳打ちで説明してくれる。

「君はパーティーは組んでいないのかい?」

 さっきからエストは自分にばかり話しかけてくる、パーティーメンバーはどうしたのだろうか?

「あの…私…単身ソロなんです」

「それはすごい」

 ここまで自分も一人と一匹でやってきたが、勇者としての加護がなければつらい場面がいくつもあった、彼女はそんな状況を踏破した猛者なのか。

「それほどの腕があるなら、他のパーティから勧誘など受けてもかしくないと思うのだけど?」

「すみません、1階からこの集団に入っていて…戦闘は他の人たちがしてしまうのでそのままここまで来たんです」

「なるほど…」

 返す言葉が見つからなかった。


「パーティーを組もうとは?」

「その…酒場の人たちに話しかけづらくて…」

「ではなぜ、私には声を?」

「それはクロードさんが木に隠れていたので、たまたま見つけて思わず声をかけてしまいました。

実はクロードさんと喋っている最中も実は緊張していて…」

 それほどの勇気があればパーティーを作るなんて朝飯前だと思うのだが。


「あの…もしよろしければ私とパーティーを組んでいただけませんか?」

 少しの希望を含んだ瞳でこちらを見る、かなり緊張したのか言葉の後半若干声が上ずっていた。

「せっかくだけど、一人でのんびりやりたいんだ。」

「そうですか…」

 彼女の顔が目に見えて落ち込んでいく、その様子に心に薄ら罪悪感が浮かんできた。

 しかし彼女と、いや今のところ誰ともパーティーを組む気はない。

 こちらはクラスメイト達よりも早く強くならなくてはこの王国で暮らしていけない、なのに彼女と組めば彼女の前では分身が使えなくなる、テンポは格段に遅くなるだろう。

 冷たいかもしれないが、自分のことですら手一杯なのに人の事に構うのは愚かなことだと心得ている。

 なので自分の生活の基盤ができるまで、あまり他人の事情に突っ込まない。


 やや話しかけにくい空気が流れていると、先頭の集団が騒がしくなってきた、ボスの部屋についたようだ。

 部屋の中央に大きな木の人形がある、大きさにして高さ7m肩幅5mぐらいだろうか、まるで丸太を丸い関節で繋ぎ止めたような不気味な人形だった。

 そう思った瞬間人形が大きく動き出した、どうやらこれは

「ゴーレムだ!」

 誰かが叫ぶ。


 その瞬間、指揮を執っていたエルドビーンのアースが大きな声で叫ぶ。

「今回の敵には物理攻撃はあまり効かない、魔術師メイジは火の魔術で頭を狙え!

戦士ウォーリアー重盾兵ファランクスはそれを援護しろ!」

 さすが長年冒険者をやっていることだけはあって見事な対応だ、戦況を見ていたがどうやら数で押し切れるようだ、ゴーレムも必死に頑張っていはいたがいかんせん多勢に無勢、10分と経たない間に炭同然になってしまった。



■■■

【Name】 影山 亨かげやま とおる

【Race】 人間

【Sex】 男

【Lv】67 (▲2)

【Hp】 760 (▲20)

【Mp】 760 (▲20)

【Sp】 5220

【ATK】 760 (▲20)

【DEF】 760 (▲20)

【AGI】 1140 (▲30)

【MATK】 684 (▲18)

【MDEF】 684 (▲18)


■■【職業ジョブ】■■

忍者アサシン


■■【装備】■■

【無銘の魔剣】

【無銘の魔剣】

【鉄の鎧】

【厚手のマント】


■■【スキル】■■

<特殊エクストラスキル>

【分身】Lv,5

<職業ジョブスキル>

【偽装】Lv,5

【鑑定】Lv,4

【看破】Lv,4

【隠密】Lv,6

 【忍び足】Lv,5

 【抗体】Lv,5


【短剣術】Lv,5

 【影縫い】Lv,5

 【多段突き】Lv,5

 【投擲】Lv,4


【自己鍛錬】Lv,1


■■【称号】■■

【異世界人】【冒険者】


■■■

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