第8話 早朝
頬に朝日が当たって目が覚める、スマホの時計を見れば朝の六時を指していた。
自分にしてはかなり早い起床だ、昨晩に疲れから早く寝てしまったらしい。
布団から起き上がり伸びをしてこの後を考える、予定では九時から勇者としての活動が始まる。
大まかな内容はステータスの詳細を国王に伝えること、より正確な力を知ることで個人に合った育て方をするらしい。
晩餐会の最中、偉そうな人が偉そうに説明していた事を覚えている、話の詳細は脚色と無駄が多くて正直よく覚えていないが。
「むう…」
大きな悩みが一つ、いうまでもなく職業のことだ。
個人に対してならともかく、国を相手に今のままでは隠しきれる自信がない。
そもそも
確実に成長過程でばれてしまう。
「正直に言うべきだったかもな…」
今となっては過ぎたことだが、たとえ特殊な職業を持っていたからと言って目立つことはなかったかもしれない、【勇者】という職業を持つ言峰に注目が集まり、こちらにはあまり相手されない可能性だってあったのだ。
しかし、自分はあの時職業を隠すことを決断した。
今から生徒会長にこの隠し事を言ったところで、クラスからはおろか王国からも怪しまれることは必至。
そうなると自分に警戒と不安の念が様々なところから向けられる、どのみち生徒会長に嘘をついた時点でこの壁に当たることは目に見えていた、早急に対策を立てるべきだ。
「…まぁ、やるだけやってみるか、いつものように」
たとえ難易度が変わったとしても根本的に行うことは変わらない。
魔王などといった難しいことは言峰に任せて、自分は
そのためにならどんな努力も惜しまない。
「…まだ外に出るのは早いか」
時間は起きてからまだ三十分しか経っていない、外を出歩くにはまだ早い時間帯だ。
二度寝がしたいという悪魔の囁きを頭から振り払い、早速この限定された状況下の中で出来ることを模索していく。
するとある重大なことに気づく。
「
自分としたことが、【偽装】のスキルばかりに目が移り、本来真っ先に調べるはずのものを忘れていた。
早速ステータスボードを開いてもう一度、
■■■
【分身】
「身代わり」を極めることで手に入るスキル。
自分の分身を作り出し、扱うスキル。
Lvの数字の数だけ自分を模した分身を作ることができ、分身は本体の意思で消すか、死ぬかで消える。
■■■
説明をそのまま解釈すると、
Lvが10まで上がるとして、最大十体の分身を作り出せる話になる。
「やってみるか」
百聞は一見に如かずともいうし、まず実践をしてみたほうが理解しやすい。
「」
発動した瞬間、体に大きな喪失感が生まれ自分の中から何かが流れ出す、イメージとしては自身を二つに分けたような感覚を覚えた。
流れ出したものは黒い霧となって目の前に立ち込める、それは次第に人の輪郭を形作り、終いには今の自分と瓜二つの『影山 亨』が立っていた。
少し高い身長、長い前髪、口が見えないマスク、身に着けている物まで変わらないのは芸が細かい。
まるで鏡を見ていると錯覚しそうになる。
ふと思考を向ければ、自分の意識と分身体の意識はつながっている。
少し目を瞑り意識を分身に向けると分身体の五感が入ってくる。
目の前に目を閉じた自分、朝特有の鳥の声や木の匂いまで感じ取れた。
自分と分身のステータスを出してみると
■■■
【Name】
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】1
【Hp】 50/100
【Mp】 50/100
【Sp】 50
【ATK】 100
【DEF】 100
【AGI】 150
【MATK】 90
【MDEF】 90
■■【職業ジョブ】■■
【
■■【スキル】■■
<
【分身】Lv,1
<
【偽装】Lv,2
■■【称号】■■
【異世界人】
■■■
続いて分身のステータスボードを出してみる。
■■■
【Name】
【Race】 分身体
【Sex】 男
【Lv】1
【Hp】 50/100
【Mp】 50/100
【Sp】 0
【ATK】 100
【DEF】 100
【AGI】 150
【MATK】 90
【MDEF】 90
■■【職業ジョブ】■■
【
■■【スキル】■■
<
【分身】Lv,1
<
【偽装】Lv,2
■■【称号】■■
【異世界人】
■■■
MpとHpが半分になっている、先ほど感じた喪失感はこれが原因か。
時間が少し経てば51に増えた、Hp、Mpともに一時的に減少しただけで回復手段をとれば元の状態まで戻るようだ。
そしてSpが分身体の方はない。
考えてみれば当然だ、Spまで分けても何の意味もない。
「これは思ったより…すごい便利なスキルじゃないか?」
ステータスがそのままという事は、HpとMpに目を瞑れば実質自分が二人に増えたことになる。
某有名な忍者漫画よろしく、一人よりも二人のほうができることが増える。
自分の計画を実行するうえで、こんなにも実用的なスキルはないと思う。
試しに分身体に命令してみる。
「鞄の中から筆箱を持ってこい…ください?」
語尾を言い直したが必要はなかったようだ、分身体が鞄のチャックを開け、細長い形状の袋を取り出す、自分の筆箱だ。
意識を向けていないときは自立して行動してくれるらしい。
一通り【分身】の性能を確かめたところで最後に【分身】を解除する。
すると分身体が一瞬真っ黒になった後、黒い霧のように分散して消えた、まるで漫画のようで少し面白い。
もう一度時計を見ると七時になっていた、そろそろ外を出歩いても怪しまれないだろう。
部屋を出て少し早めの朝食を取りに向かった。
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