第6話 クラス会議

 誰かが異変に気付き始めたのは王城に向かう途中、グループをに分かれて歩いていた時の事。

 ほとんどのクラスメイトは、まさかそんなことないだろうと高をくくっていたか、受け入れきれなくて信じたくなかったのかもしれない。

 しかし現実はどちらの感情だったかなんて、目の前にある真実に比べたら意味のないことだったと教えてくれる。


 国王に謁見した後各部屋を与えられ、いくらか心に余裕ができてから始めて確信した事。


◆◆◆


 自分は部屋を出て生徒会長の後を柿本と共に追っていた。

 長い廊下を歩いていたが生徒会長は話しかけることもせず、逆に自分たちからも話しかけづらい雰囲気を作っている。

 その雰囲気から見てただ事ではないと思っていたが、いかんせん歩いているが暇になってしまう。

 自分が生徒会長の肩に埃がついていることに気付いて、取ってあげようかどうか悩んでいたところで周りの状況に進展があった。


 到着したのは大きなホール、

 後に分かることだが、ここは聖歌隊の合唱の練習をする場所らしい。

 きちんと並べられた長椅子にクラスメイト達が各々自由に座っている。

 部屋順から数えれば初めの方でこの場所に呼ばれそうだが、自分と柿本が話し込んでいたのを聞いていたらしく、生徒会長が気を利かせて最後にしてくれたらしい。


 生徒会長が話し始める。

「皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。

今日私たちはこの王国に召喚され、国王様から世界を救ってくれるようにお願いされました。

しかしながら私を含めて多くの学生が突然の周りの変化に対応しきれてないでしょう。

そこで今、クラスで話し合い、自分はどういう心持ちで、今後どのように動いていきたいかを決めようと思います。」

 生徒会長は淀みなく話し終わった後、自分たちにとんでもない事実を伝えた。


「先ほどクラス全員の点呼をとったところ、3人足りないことが分かりました。」


 場が騒然とした。

 その言葉と共にわっと泣き出す生徒もいた。

 自分もその言葉を聞いたとき思い出した、自分がよくつるんでいたグループは自分を含めて計3人、自分と柿本ともう1人、その彼がいない。

 てっきりほかのグループにいるものだと思い込んでいた。


「1人目は鬼塚おにづか たけし君」

 そう、名前はとてもいかついがその見た目はとてもおとなしい彼だ。

 成績も優秀でスポーツもよくでき、まさに絵にかいたようなよくできた男だった。

 テスト前になると、柿本と共に彼に泣きついていたのはいい思い出だ。

 

 歴史と軍学をこの上なく愛し、その知識量は専門家ですら舌を巻くほどの領域にまで達する。

 戦争で活躍した偉人、武将たちの名言、迷言、豆知識、偉業その他上げだしたらきりがない。

 その膨大な知識を自分たちに嬉しそうに話しだすと、完全下校まで時間を持っていかれるのはいつものことだった。

 だからこそ、その優秀な語り手がいなくなったと実感した時大きな喪失感があった。

 いつも聞いているあの落ち着く声が聞こえなくなると急に聞きたくなる。


 生徒会長が話を続ける、

「2人目は日向ひむかい 静葉しずはさん」

 

 本が好きでよく図書委員長の七瀬ななせ あおいと親しかった。

 柿本がライトノベルを借りに行ったとき、いつも楽しそうに話し合っているの見かけたそうだ。

 ちらりと七瀬を見ると彼女は泣き出しそうな顔をしていて、それを言峰やスポーツ娘である皆瀬みなせ かおるが元気づけていた。


「3人目は夜神やがみ 宵奈ようなさん」

 クラスメイトの何人かが大きく息を吐いた、無理もない、彼女は男子に結構な人気があった。

 とてもおしとやかで物腰が柔らかいのが印書的で、どこかミステリアスな雰囲気が男子の目には魅力的に映ったのだと思う。

 自分もまた、彼女に憧れの念を抱いていた男子の一人だ。

 字面だけで見れば、およそ九分九厘の人が名前を「よいな」と呼んでしまう。

 この子の名前を決めるとき、ちょうど夜の始めだったとか、柿本の話ではこの名前を付けるのに、両親はかなり役所に無理言ったらしい。


 成績のほうはまずまずだったが、機転がよく利くので先生や生徒から頼りにされて、生徒会長からは書記に任命されるほどだったとか。


「3人がどこにいるかはわかりません。

いろいろな推論は立てられますが、彼女たちが今すぐにここに来ることができないというのは確かでしょう。」

 生徒会長が凛としていっているが、よく見ると肩が小刻みに震えている。

 自分の書記であり親友である彼女がいなくなったんだから当然だろう。

 もしかしたら自分たちがスキルについて調べている間に、生徒会長は必死になって彼らを探していたかもしれない。


 自分たちも鬼塚がいないのは寂しい、

 だがあの完璧超人ならば、たとえ魔界に落とされたとしても生き残っているだろう、彼の心配をするくらいなら、自分たちの心配をしたほうがいい。


 一通り彼らの無事を祈った後、今度は自分たちの話を始める。

 柿本ほどではないが、それなりにライトノベルを読んでいる人がいたので、ほとんどの人がステータスを確認していた。

 生徒会長がメモ用紙を取り出し、端にいるクラスメイトから順に記入していく。


「俺は【重盾兵ファランクス】だ」

「あたし【医師メディック】」

 クラスメイト達は自分の番が来ると、それぞれの職業を声にだして報告していく。

 自分は聞き耳を立ててその内訳を、指を折って数えた。


「あ、僕も【重盾兵ファランクス】だよ?」

「まじで!?」

 同じ職業ジョブ同士のものが、それぞれのステータスを見せ合う。


「ありゃ?

拳闘士モンク】の奴はいないんかい?」

 かと思えば皆瀬が大きな声で同業へと呼びかけるが、誰一人返事が返ってこない。

 

「どうやらこのクラスの中には同じ職業の奴もいれば一人ぼっちオンリーワンな奴もいるようだな」

「…」

 柿本の考察に返事を返さず、自分は天を仰ぐ。

 クラスの八割方が報告を終えているというのに、【忍者アサシン】の職業ジョブが出てこない。

 どうやら、自分の職業ジョブは柿本の言うところの後者に当たるようだ。

 

 そして生徒会長が目の前に立ち、視線を合わせる。

「職業は?」

 ここで失敗することは許されない、

戦士ウォーリアです」

 絶対に特別な職業なんていうつもりはない、何度も言うが自分は目立ちたくないのだ。

 特に珍しくない職業で、物語の隅で細々と活躍する程度でいい。

 自分は決心を固め、はっきりとこの場で宣誓した。


「そう」

 その言葉に彼女は特に感情もない返事を返し、作業的に手帳に書き込んでいく。

 単純作業で脳が鈍くなる後半を選んで正解だったらしい。

 どうにか、怪しまれずに済んだようだ。


「【偽装】を取るのは決定かな?」

「まあね」

 後ろから、柿本が自分の嘘に対してからかってくる。

 

「どこまで隠し通せるか見ものだなこりゃ」

「言ってろ、柿本にも協力してもらうからな」

お互いに軽口をたたいて盛り上がっていると、周りでわっと歓声が上がる。


「まじかよ、すげえな!」

「いいな、うらやましい!」

 その渦の中心にいるのはやはりというべきか、どこか照れくさそうにしている言峰だった。

 生徒会長がその掌を両手で包んでぶんぶんと振っている、冷静な彼女にしては珍しく嬉しさの感情を全面的に押し出していた。


「皆さんに見せても構いませんか?」

「ちょっと照れくさいけど…」

 生徒会長の質問に対して、言峰は恥ずかしそうにステータスを公開した。


 職業ジョブの欄には【勇者】という文字が、おのれの席とばかりに堂々と座っていた。

「うおおぉ、全ステータスが120もあるぜ!」

「【聖剣術】って、明らかにチートスキルじゃんか!」

「一生ついていきます、言峰様!」

クラス全員が彼の職業を褒めたたえる、あまりに興奮してふざける男子すら現れる始末だ。


「…自分たち全員が『勇者』として召喚されたんじゃなかったけ? 柿本」

「ああ、体面上はな。」

 自分の出た疑問に柿本は相槌を打つ、


「だがあいつはその中でも特別な存在らしいぜ?

言ってみりゃ『真の英雄』って奴」

「なるほど…」

 その言葉とともに再度彼に向き直る、大勢のクラスメイトに囲まれて称えられているその様子は、まるで彼こそが世界を救うものだと示しているように見えて眩しかった。

 


◆◆◆



 そしていよいよ本題の会議が始まる。

 しかし先ほどの騒ぎがあれば、もう結論など決しているようなものだった。

「僕はこの力を使って魔王からこの国を救おうと思う、皆協力してくれないだろうか?」

 この場において最も頼れる存在が、一言いえば。

 

「言峰君、私はあなたについていくよ」

 桐埼が言峰の腕を抱きかかえ、その決意を示す。

「あの王様の言うことはいまだに信じるべきかわかりませんが、あなたと共にこの世界を歩んでいこうと思います」

 魔王討伐には積極的でなかった生徒会長も、方針を決めたようだ


「言峰がそういうならついていくぜ」

「俺も」

 鶴の一声ともいうべきか、言峰のその言葉で彼を支持する者たちは魔王討伐の意思を固めようとしていた。


「すこし、よろしいでしょうか?」

 しかし、その空気に待ったをかける人物が現れる。

 我らが担任の緒方先生だ。


「あなたたちが魔王と戦う意思があることは分かりました。

ですが、私はあなたたちを戦いの場に出すことは避けたいのです。

どうか、もう一度考え直してはくれませんか?」

「しかし、先生」

 生徒会長が反論を唱える。


「断ればあの国王が何をするかわかりませんし、何より魔王を倒さなければ元の世界へと帰れないのですよ?」

「ですが…」

 お互いに譲れない部分があるらしく、口論は続く。

 先生は生徒たちを心から思って言った事なのだろう。

 だがその言葉で変わる雰囲気ではない、一部の男子からは『先生空気読めてないんじゃないの』と陰口がささやかれる始末だ。


夕食まで続いたが、先生が優勢になることはなかった。

「これらを紙にまとめて国王に話してみたいと思います。」

 という生徒会長の一声で、クラスによる会議は終わった。

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