第4話 王城にて

◆◆◆


 <召喚者の召喚完了を確認しました。>

 <称号 異世界人を取得しました。>

 <Spスキルポイントを100入手しました。>

 <各異世界人に職業ジョブを付与しました。>

 <特殊エクストラスキルを入手しました。>

 <異世界人の身体能力をステータスとして数値化します。>


◆◆◆









 気が付くと、自分は固い床に片膝を立てて座っていた。


 周りを見渡すとクラスメイト達もいる。

 とりあえず、自分一人がこの不思議な現象に巻き込まれたわけではないと確信し、心にいくらかの余裕ができた。


「…知らない天井だ。」

 前で胡坐をかいている柿本が、そう呟いたのにつられて天井を見てしまう。

 天井には布一枚をまとった筋肉質の男性や、しなやかな女性が大勢描かれていた。

 明らかに教室ではない。

 中世ヨーロッパの教会かお城にタイムスリップしてしまったといったほうが、まだ現実味を帯びている。


「おぉ…。」

「やったぞ!」

「成功だ!!」

 間を置いて周りが歓声に包まれた。

 何事かと視線を移すと、いかにも『私は魔法使いだ』と主張するようなローブを着た男女達が、クラスメイト達を中心に円陣を組んでいるのが分かる。

 誰もが見てわかるほどに疲労しているが、それをかき消すほどの喜びに包まれているようだ。

 一通り騒いだ後、その中から一人の少女が出てきた。

 まず視線が引き寄せられたのは、他と比べてもひと際異彩を放つ銀髪の髪。

 そして、それに負けず劣らずの美貌、女性がうらやむようなスタイル。

 さながら絵本に出てくるお姫様のようだ。


「皆さん落ち着いてください。」

 ひと間おいて彼女は静かに話し出す。

 耳障りの良いソプラノの声が、クラスメイト達の戸惑いを消していった。


「私は神聖ルべリオス王国の第三内系王女、カトリーナ・フォン・ルべリオスと申します。

 今回は我々の召喚に応えていただき、誠にありがとうございます。」

 いろいろと気になる箇所があるが、受け取った言葉をすべて信じるのなら、目の前にいる少女はこの王国の三番目の王女様ということらしい。

 それがなぜこの場にいるかはひとまずおいておくとして…神聖ルべリオス王国、絶対に日本ではない。

 というより世界中の古今東西探しても、そんな名前あるかどうか怪しい。


 話を聞いてクラスメイト達がざわめき立つ、中には何故か隠れてガッツポーズしている者もいたが大半は困惑していた。


「召喚ということは、我々をこの場所に呼んだのはあなたたちということでよろしいのでしょうか?」

 皆の不安を代表して、町田 唯花まちだ ゆいかが質問する。

 さすが生徒会長というべきか、目の前の非日常的な光景を前にしても、その凛とした態度が崩れることはない。


「その話も含めまして、王からご説明があります。どうぞこちらへ。」

 いくらか警戒する町田に対して、王女は穏やかに笑って答えた。

 王というとつまるところ、この国の最高権力者だろう。

 この王女はその案内役ということになる。


「分かりました。皆さんもそれでよろしいですか?」

 町田が自分たちに振り返って、問いかける。

 このまま座っていても事態は一向に進まないので、反対する者はいない。

 立ち上がり、王女の後をクラス全員が追っていた。


◆◆◆


 豪華な扉を抜けると目の前にそびえ立つ王城が迎えてくれる。

 今までに見た城の中だと、ドイツの城に一番近いかもしれない。


 クラスメイトは王女についていきながらも、いつも集まっているグループに分かれていた。

 当然の行動だろう、こんな時一番頼れるのは先生でも生徒会長でもなく、友情と信頼のある友達だ、かく言う自分も柿本との横を歩いている。

 彼はさっきから落ち着きがないが、これは困惑しているというよりも、楽しみで楽しみでしょうがないといった雰囲気だ。


 城の中に入れば、これまた豪華な絨毯が敷いてある。

 真っ赤な布に複雑な金の刺繍が入っており、かなりの身分でなければこの模様の上を踏めないことは想像に難くない。

 おもわず誰かが上履きを脱いでから入ろうとしてしまい、王女が苦笑して止めていた。


 しばらくその長い絨毯の上を歩いていくと、大きな扉に差し掛かる。

 扉の前に数人の騎士と、ひと際体格のいい騎士が待っていた。


「お連れしました。彼らです。」

「おぉ、やりましたか。」

 王女が体格のいい騎士に話しかけると、その騎士が命令を下し部下の騎士が数人がかりで扉を開けてくれた。


 重厚な音とともにその奥が開かれると同時に、全身に鳥肌が立った。

 目の前には多くの人が規則正しく整列する光景が広がっており、その視線を一度に浴びたからだ。

 一人一人が高そうな衣装を身に纏っており、おおよそ貴族ではないかと推測できる。


 様々な視線があった。

 好奇の視線、

 値踏みする視線、

 畏怖する視線、

 しかし群を抜いて多いのはやはり、何かを期待する視線だろう。


 自分の手が震えているのがわかる。

 注目されて緊張している、そして体がその視線を拒絶しようとしているのだ。

 やはり自分は『目立つ』ということがとことん嫌いらしい。

 王女が入っていくが、クラスメイト達がその雰囲気に押されて、だれも部屋にはいろうとしない。


 いや、一人入った、

 言峰である。

 日頃から注目されることに慣れているからか、散歩でもするような自然体で入っていく。

 後に幼馴染の桐埼琴葉、生徒会長の町田唯花が続く、ほかの生徒もそれを見て続々と入っていく。

 自分はできるだけ視線を浴びないように、後ろの集団のやや中央付近を歩いた。


 そして王女が跪き、それに合わせてクラスメイトたちも跪いた所で王の口が動いた。

「よくぞ召喚に応じてくれた勇者よ、我は神聖ルべリオス王国国王、カイゼル・フォン・ルべリオスである。」

 髭を蓄えた、目つきの鋭い老人がその視線を向ける。

 ひじ掛けと右腕で頬杖をつきながら放つその言葉は、その姿も相俟あいまって凄まじい覇気を纏っている。

 何か意見すら烏滸おこががましいと思わせるような、静かで力強い声だった。


「そなたらを呼び出したのは他でもない、魔族の王『魔王』を滅ぼしてほしいのだ。

無論、そなたらには惜しみない援助をしよう。」

 まるで自分たちが承諾したことを前提に話す国王に、少しばかり違和感を感じる。


「一つ質問してもよろしいですか?」

 そう答えたのは町田生徒会長。

 側に控えていた人が何か言おうとしたが、国王が手を挙げてそれを制止ずる。

 今は事を荒立てずに済んだようだが、どうやら国王と話すときは許しをもらう必要がありそうだ。


「私たちは特別でもない普通の学生です。いきなり召喚されて、そのような大事をこなせるような力は持っていないのですが。」

「…む?」

 ここで国王が疑問の声を出す。

 周囲の人もざわついている。


 少しの沈黙の後、国王は言葉を続けた。

「こちらも呼び出してしまったことについては済まないと思っている。許せ。」

 随分と短い謝罪であったが、国を預かるものとして公開の場で軽々しく頭を下げられないのだろう。 


 生徒会長はさらに続ける。

「謝意がありましたらわたしたちをもとの世界に返していただけませんか?」

「それはできない。」

 一瞬の間が降りる。


「…と言いますと。」

「我々は貴殿らをこちらの世界に呼ぶことはできるが返すことはできない。」


「そんな…」

 この言葉にショックを受けたものも多く、数人の女子が泣きそうな顔になっていた。


「しかし魔王を討伐した暁には、必ず元の世界へ帰す手段を見つけよう。」

 その言葉を聞いて、自分の中でこの国王に対する不信感が少し上がった。

 一見すると親切に言っているように見えるが、要は「魔王を討伐しなかったら返さない。」ということだ。


 従うか従わないかはクラスメイトで分かれるだろう。

 しかしどちらにせよ、こちらは生徒会長の言った通り特別でもない普通の生徒、

 あちらは一国の主、

 圧倒的に不利なのは見るまでもなく、出来ることなど始めから決まっている。

 生徒会長もそれがわかっているので黙ってしまう。


 国王が続ける。

「先ほども言った通り最大限の補助を付け、できるだけの願いを聞き届けよう。

魔王軍に支配され苦しんでいる民はたくさんいる、私も悪いことをしたと思うがこれしかなかったのだ。

どうだろうか?」


 長い沈黙の後、一つの声が上がる

「…やります!!」

 答えたのは言峰だ。


「困っている人達を見捨てておけないし、国王様がそれだけ応援してくれるのなら。

その気持ちにこたえたいと思います!!」

 言峰は自信に満ちた声でそう言った。

 これは本気でそう言っていると感じる。

 彼も随分お人よしなことだ。

 だからこそ彼女たちや多くの人が、彼に惹かれたのだろうけれど。


 今のが本音であっても建前であっても、そう答えるのが最善だろう。


「ですが国王様、私たちは心の準備ができておりません。

一晩いただいてもよろしいでしょうか?」

 復活した生徒会長が国王に意見する。


「よかろう。いい返事を期待している。」

 こうして国王との対談は無事終了した。

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