ガールフレンズ
奥田啓
第1話
僕の家で荒木と飲んでいる。荒木はだいぶ酔ってるみたいで、僕に言う
「おまえははやく麻美に告白しろよ。だれかにとられちゃうぞ。」
「なかなか勇気がなくてさ」僕は遠慮がちにいい、ビールをあおった。
「まあわかるけどさ。1年からずっとおもっててさ。今三年でもう俺らも引退の時期じゃん?それをきっかけにいおうぜ。」
「いやー・・・・」
「おめーはもう大学三年で彼女いたことないってそろそろやばくなってくるぞ」
「そんなこといわれてもできなかったもんはしょうがないじゃん。」
ぼくはふてくされた。
「いやそうやってうごきださねーからできなかったんだよ。うごかねーとできねーよ」
「くっ・・・・そういうもんかな・・・」
「いまメール打てよ。今度会いませんかって」
「え!いま?そんな急にむりだよ」
「いまじゃねぇときっかけないだろ。おまえひとりじゃぜってーやらねーし」
「まあおっしゃるとおりだけど・・・」もじもじしてると
「けいた、おまえ明後日の夕方からの全体ミーティングいくだろ?」
「ん?いくけど・・」
「おわるのたぶん6、7時くらいだけどそのあと時間は?」
「夜9時からバイトだからその間だったら・・・」
「おっけ」
荒木がテーブルにあった僕の携帯に手を伸ばす。
「えっなにやってんの?」
「俺が麻美にメールうってんだ。明後日のミーティングのあとちょっとじかんありませんか・・・と」
「ちょっとちょっと!!」
「なんだよ」
「勝手にやるなよ」
「じゃあいま自分でやるか俺がやるかどっちがいい?」
「・・・・・わかった・・・自分でやるよ」
「よしよし」
荒木は嬉しそうに携帯を僕に渡す
「あーなんでこんなことに・・・・」
「はやくうてって」
「わかったよ・・・ミーティングの場所って2号館だっけ?」
「そうそう、そこからだと3号館の裏のベンチとかいいんじゃない?夜はあそこ雰囲気いいぞ」
にやにやしながら荒木はいう。
「自分だけたのしんでまったく・・・」
「ほら手を止めるんじゃないよ。」
ぼくはうんざいりしながらもちょっと勇気をもらっていた。
荒木がいないとたしかにぼくはやらないとおもうからこいつがいてよかった。
ぼくはできた文面を表示された画面をみせる。
「『明後日のミーティングのあと、ちょっと時間ある?』これでいい?」
「いいんじゃない?ちょっとそっけなくいってるのがなんだろう?って思わせる感じで」
荒木は画面をみながらいった。
「じゃ、じゃあおくるよ」
「いやでも・・・ちょっとまってよ・・・これでなんか好意を抱いてると思われるとやりにくくなるなあ」
「なーにごちゃごちゃいってんだよ」
勝手に送信を押される
「あーーー!!!なにやってんだよ!」ぼくは大声を上げる。
「よっしゃ、これで返信待ちだな。」
「もっとこう・・もどかしくなりたかったよ」
「なにいってんだ。はやくしたほうがよかったろ。」
「ああ・・・・やばい・・・」
急に心臓が高鳴ってくる。
返事がこなかったらどうしよう。そんなことばかり考えが巡る。
すると携帯がなる。
「おっきたか?!」
携帯をみると麻美からだった。
「返信はえーなおい!いいね!」
荒木は僕よりテンション上がっている。
「メールの内容を見るのこわい・・・」
「はよおせや。」
また勝手にボタンを押される。
「勝手になんでやるんだよ」
「おめーがおせーからだ。はやくみろよ。」
「心臓がおちつかないよほんと・・・・」
薄目でひらかれたメール文をみる。
『いいよ、空いてるよ。どうしたの?』
「よし!あいてんじゃんいけるぜ!はよ返せ!」
「わわ、わかった・・・」
全然頭が回らない。手が震える。
『ちょっとはなしたいことがあるんだ。明日ミーティング後に3号館の裏のベンチで待ち合わせしよう』っと・・・・よしこれでいいか。」
荒木は僕が混乱してる間に勝手にメールを打っている。
「ちょっとほんとこっちのことかんがえてよ早いよペースが」
「とんとんいかなきゃこういうのは、このメールでいいだろ?」
画面を見せてきて、なにもかんがえられないぼくは荒木のメール力に頼ることにした。
「うん・・・・・いいよ。」
「よし・・・送信っと・・・・・・・うわっもうきた!」
メールを二人で見合わせる
『了解。また明後日ね。』
「あいつめっちゃ返信はえーな。俺の時とはやさちがーよ。おめー脈あるんじゃねーの!おいおい!」
荒木はぼくの背中をバンバンたたく。
「いたいって!まだわからないよ」
「まあがんばれよ。」
「うん・・・」
「おっと明日早いからおれ帰るわ。」
「そっか。」
荒木を玄関まで送ると
「うまくいくといいな。」
「ありがとう。」
去り際、もう一度呼ぶ
「荒木、背中押してくれてありがとう。」
荒木は笑いながら手を振り帰って行った。
次の日大学の授業が終わり、家の近くにあるバイト先のチェーンのカフェにいく。
なにをしてても明日のことがきになって落ち着かなかった。しかし仕事は長く続けているバイトなので手と口は慣れでちゃんと動いた。
今日の仕事が終わり、締めの作業に入る。
着替えてバックヤードでタイムカードを押していると
男性陣が一人の女の子を囲んで話している。
その女の子はモデルみたいにきれいですらっとしている。笑った顔も普通の顔を全部絵になる
名前は唯というのだけしているがほとんど僕ははなしたことがない。
そもそも女の子がにがてなのでそんなこと交わること自体できないのだとあきらめているから視界にいれるとつらくなるからいれないでいる。
男性陣はその唯のきれいさに群がるように唯ちゃん唯ちゃんとうれしそうにいっている。
その中のひとりが僕に気が付き、声をかけてくる
「これからみんなで飲みに行くけどくる?」
僕は明日のこともあるから楽しめないと思い
「ごめんちょっと授業のレポートがあるからいけないや。」
と断る。そのとき目の前の友人の後ろにいる男性陣の間から唯がこちらをじっとみていることに気が付く。
ぼくは一瞬あわせてしまったが、目をそらし、目の前の友人に焦点をあてる。
「そうか。んじゃあまた今度だな。おつかれ。」
僕はその騒がしい一行から離れスタッフ用の出入り口から外に出た。
歩きながら考える
「なんであんなにみてきたんだろ・・・なんかしたかな。まあいいか・・・」
おいておいた自転車にまたがり家へと向かう。
午後の授業が終わり、サークルの全体ミーティングのために2号館に向かう。
ミーティングの部屋にはいると大きな部屋にだいぶ人が集まっていた。
あいている席に座ろうとしたら、麻美のとなりしかあいてなかった。
最悪だ。せめて後の時間まで離れたいのに。どんなプレイなんだ。
心臓がうるさくてしょうがない。ぱっとみると荒木がこっちをみて笑いをこらえている。
恥ずかしくてしょうがなかった。
このあとのことといまのことで、ミーティングは一切内容がはいってこないまま終わってしまった。
ぼくはそそくさとでていこうと、部屋をでる。
後ろから荒木が走ってきて。
「がんばれよー」と笑いながら背中をポンとたたいてぼくよりはやく走り去っていった。
いつもみんなとだらだら話しながら帰るのにさっさと帰るなんて珍しいな、とおもう。そして思い出したように心臓が高鳴ってくる。
2号館を出て、3号館の裏のベンチに行くといい感じにライトアップされた場所があった。
たしかにこれは雰囲気がいい。荒木のいっていたとおりだ。あいつもつかったりしたことがあったのだろうか。
ベンチがあり、そこで座っていると座る位置がまったく定まらず落ち着かなかった。
寒くもないのに震えが止まらずにいた。
すると向こうから麻美がやってきた。
さっきはちゃんとみてなかったがワンピースで女の子らしいかっこうをしていてますますドキドキしてしまった。
「こ、こっちだよ」
変な声で呼んでしまった。
麻美は小走りでぼくのそばにきた
僕が座ると麻美も座った。
気まずい沈黙が訪れる。
どうでもいい話でつなぐしかない。心臓の調子をととのえないと死んでしまうそうだ。
「最近あったかいよね・・・」
麻美はこちらをみてわらいながら
「うん、ちょっとあつくなってきたくらい・・・かな。」
「・・・・・・・・」
なんにも返す内容を考えておらず黙ってしまった。こんなに普段ぼくは会話をできないにんげんだったろうか。コミュニケーションレベルの大幅な低下に驚く。
心臓を整えるのと、話を進めるのを同時にやるのは今の僕にはあまりにも難しすぎる。
もういってしまおう。そうでなきゃ命にかかわる。
「あ・・・あの・・・」深刻な酸素不足でうまくこえがでない。
麻美も僕のあまりに緊張がうつったのか、目を合わせずに
「な、なに?」とおそるおそる返事をする。
「あの・・・・つつ・・・つきあって・・・・ほほほ、ほしんだけど・・・」
言ってしまった。
もうこの一言は世界を変えた。
これからくる返事にかかわらず自分の気持ちが伝わってしまった。
もうもどれないようなきがした。
長い沈黙が訪れた。
うつむいていることをいいことに彼女をじっとみてしまった。
長いまつげすべすべでやわらかそうなほほ
ぼくは自分がじぶんじゃないみたいで
なぜかキスをしたくなって
近づくと彼女がはっときがつき顔をあげ
僕をドンっと強くおした。
すると麻美が腰を上げ、突然走り去ってしまった。
「えっ・・・・・」
僕はあっけにとられた。
これはなんなんだ?
今の状況はなんなんだろう。
一応告白したと思ったが、返事をする相手が目の前にいないというのはどういうことなのか。しばらく待ってももどってくる気配がない。
これはふられたのだろうか。僕はなんだか力がぬけた。
時計をみるとそろそろバイトにいかなければいけない時間だった。
こんな状態でいかなければならないのか。正直きつすぎる。
しかしふられたショックでバイト休みますなんていえないし、うちの店舗は結構人がカツカツだから一人いないだけでわりときつい。
しぶしぶバイト先にいくことにした。
バイト先につき、着替えてバックヤードにいたらドアが開く。
唯があらわれる。
そういえば今日同じシフトだったか。
会釈だけして自分の持ち場にいく。
仕事中も話すことなく淡々とこなしていく。
隣の唯を一瞬目にする。
にこにこと愛想よくやっている。
男性客がちらちらと唯をみている。モデルみたいにきれいだもんな。そりゃみるよ。
客は仕事だとしても、ほかのバイトのみんなには愛想いいけど僕にだけなんかつめたいんだよな。
昨日もすごくにらんできたし、僕のこと嫌いなんだろうか。
前だったら落ち込むけど、いまは降られたショックのほうが大きい。
早くバイトおわってくれないかな、と遠い目をしながらドリンクを作る。
やっとのことで終わり、クローズの作業をしていた。
レジに入ってるお金を入念に数えている。
前にクローズで泥棒したやつがいたからもう一人にかぞえてもらうようにしている。
まわりには唯しかおらず声をかけるのをためらわれた。
すると向こうがこちらに気が付き、
「わたしやりましょうか?」
といってくれた。
僕はそのルックスからでるオーラに緊張しながら
「ありがとうございます。お願いします。」とそっけなく返してしまった。
掃除をして、店の前に出てる看板などを片付けた。
一通り終えて、着替えに行き、着替えお終わると、バックヤードでさわいでいるバイト仲間たち。そこを潜り抜けてタイムカードを押しているとすぐ後ろに唯がいた。どこうとすると静かな声で
「ちょっとこの後じかんありませんか?」といってくる。
突然すぎたので返事に遅れたが
「いいですけど・・・」とひねりだすようにこたえると
「3軒隣の青柳公園でまってますね。」
とひそひそいうとさっさとでていってしまった。
今日はいったい何なのか。振られたショックでまいってしまっているし
もう早く帰って寝たいのに。
なにか因縁つけられたのかな。
僕は逃げてしまおうかなというおもいにかられたが、
さらに怒らせたらまずいと思い公園へ急ぐ。
青柳公園につく。森が多く薄暗いし、人通りも少ない。
こんなところあんなにきれいなひとがいると危ないんじゃないか。
より速足で彼女を探そうとすると中央のベンチに座っていた。
唯がこちらにきがつくと手招きしていた。
「どうぞすわってください」
今日はベンチに座ることが多いなとおもいながら唯の横に座る。
「きょうはなんかの相談ですか?それかなにかぼくしたなら謝るんですが・・・・」
ぼくはちょっとはやくおわらせたくて早口でいってしまった。
唯はなぜかしおらしくしていてなにかいいだせずにいる。
どうしたのだろう?しばらくまっていると
「あのですね・・・」
顔をあからめながら寄ってきてドキドキしてしまう。
こんなに近いと緊張してしまう。
もしかしてツボとかかわされるんだろうか。
唯が口を開く
「あの・・・もしよかったら・・・私とつきあってくれませんか?」
思いがけない言葉に僕は声が出ない。
僕にいったのだろうか。ほかのだれかにむけていったんじゃないのか。
「えっぼくですか?」ついきいてしまった。
「そうです、あなたです。」
強いまなざしで彼女はいった。
「ずっときになっていて。あなたのことを知りたいなって」
僕にいってる感覚が全くない。
やっぱりこの後ツボでもかわされるんじゃないだろうか。
「唯さんぐらいの容姿ならだれでも選び放題じゃないですか。ぼくはなんかだめですよ」
「そういう風につっぱねるからよけいきになっちゃうんですよ!」
突然大きい声をだされてびっくりする。そして顔を赤くする。
ただでさえ近いのにさらににじりよってきた。
「全然私のことあいてにしてくれないじゃないですか・・・避けられてるみたいで・・・それで余計きになっちゃうっていうか・・・・」
だめだなんだこの生き物は。かわいすぎやしないだろうか。
「わたしじゃだめですか?」
うるんだ目で上目遣いでいわれた。
ああもうだめだ。こんな容姿でこんなこといわれたら。
「いや・・・・だめじゃないです」
「え、ほんとですか?」
「はい」
「じゃあつきあってもらえるんですか?」
「はい。」
夜の道を歩く。
さっきまで全然話さない二人だったのに
今は隣にきれいな彼女が僕のうでをだきしめながら歩いている。
うそみたいだ。
振られたけど彼女ができた
なにをいってるか自分ではわからないがそうなんだ。
今日はジェットコースターみたいな日だ。
ふわふわして心がおちつかない。
唯を家の近くまで送る。
「じゃあここで」
「うん」
二人は短い会話を交わす。
唯が去っていくのを見届けていたらふっとこちらをふりむく。
そして首をよこにしながら小さく手を振った。
こんなかわいい子いるんですね。
いやもう完全に唯に心をもってかれていた。
みえなくなるまでぼくは唯をみていた。
家に帰り、ゆっくり湯船につかり
今日の浮足立つ心地をクールダウンさせた。
寝る準備をしていたら携帯が鳴る。
なんだろうと思ってみると
麻美からメールだった。
開けると
『今日は変な感じにかえってごめん。初めてのことだからあわてちゃった。
でもいってくれてうれしかったよ。わたしもずっと好きだったんです。
付き合いたいです。これからよろしくお願いします。』
僕は硬直した。
何度も文章を読み直した。
あれは振られたんじゃないのかよ。
ちょっとまってくれ。
今ってどういう状況だ?
今日、麻美に告白して逃げられて
唯に告白されて付き合って・・・・
麻美に今OKされて・・・・・
もしかしてだけど、
僕はいま、二人と付き合ってることになってるのか?
これってやばくないか?
ガールフレンズ 奥田啓 @iiniku70
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