戯れの代償

奥田啓

第1話

数学の授業。

歯並びの悪い高齢の教師がやっているため聞き取りづらい。

まあここは先取りでやっているし、別に聞く気もないんだけどな。

俺の席は後ろだから教室の様子がよく見える。

昼休みでめしをたべたあとなのかねむそうな生徒が多い。

俺の席から2つはなれたところに秋川が座っている。

眠気で舟をこいでいる。

隣に座る坂口に小声ではなしかける。

「なんか要らない紙ねぇ?」

教科書でかくしながらゲームをやっていた。

「あるよ。ほら」

ルーズリーフをわたす。

「さんきゅ」

おれはうけとり紙をおりはじめた。

鋭利な飛行機を作り、そっと寝ている秋川のあたまにあたるように投げた。

秋川にみごとあたった。

秋川がはっとねぼけておきる。

おれらは寝ているふりをする。秋川はきょろきょろまわりをみている。。

ふたりで姿勢をひくくしながら笑いをこらえている。

また秋川は寝る。

今度はちらない消しゴムのかけらをあつめて何個か塊を作る

それを秋川にあてるように投げる。

うまいぐあいにあたり笑ってしまう

また秋川はおきあがりきょろきょろしている。

あいつは反応が面白くてやってしまう。

先生がねむたげな教室を歩き始めた

かといって起こしたりするのも面倒なのか

寝ていてもスルーをする。

しかし秋川のところにいくと

「おい、おまえのまわりきたないぞ」

その言葉に吹き出してしまう

あてられたうえにまわりがきたないといわれる始末。

あいつをからかうのは暇つぶしになるな。


休み時間、ふみやと坂口といると

「のどかわいたなぁ」

「ふみや、かってきてよのみもの」というと

「み、みんなでいこうよ」

「やだよおめーいけよ」

「いや・・・・」

ふみやがどもっていると秋川がそばをとおると

「おい!秋川おまえかってこいよ」

普段はおれらにぺこぺこしてるのに自分より弱い存在にはかなり強気だ。

「はやくかってきてくれよ」

ふみやは秋川の肩をたたいた。

秋川は「う、うん・・・いいよ」

笑いながら承諾して教室を出る。

しばらくすると秋川がもどってくる。

てにもったものをふみて俺は言う

「なんで炭酸ねーんだよ。俺は炭酸のみてーんだよ」

「えっいわれて・・・」

「俺の気持ちくんでかいにいけよ」

「わ、わかった。」

また教室を出て炭酸のを買いに行った。

あいつきがきかねーな

また帰ってくると

なにももっていなかった

「ごめん炭酸うりきれだった」

ふみやがでてきて肩をどつく

「コンビニとかいってこいよ」

「あ、あそうだねわかったいってくる。」

秋川はまたでていく。

「あいつつかえないよね」

ふみやがわらいながらいう

「おまえ秋川だとすげぇきつえーな」

おれはふみやにいう。

「いやだってあいつきがきかないんだもん」

「おめーもかわんねーだろ」

そういうとうつむく

「あいつよりはがんばるって・・・」

小さい声でいう。


やがて秋川がかえってきて飲み物をもってくると

ふみやは乱暴にとって

「おせーよ」

といって

のみものを俺にわたしてくる

「ういさんきゅ」

おれらがまたはなしはじめた。

秋川はこちらをちょっとみたが

そのまま席にすわっていった。




今日の授業まであと10分。

私はさっきからずっと時計をみている。

はやくおわれ!はやくおわれ!

心の中で時間が早く進むよう念を送っている。

早く家帰って夕方のアニメみなきゃ。

先週の展開があまりに衝撃だったので

今週どうなるか、ずっときになっている。

普段アニメなんてみないのに

下の弟がみてるから一緒にみてたらはまってしまった。

そうこうしてるとあと1分になった。

よしよし、もう終わるぞ。

周りの人もそわそわしている。

そのなかにひとりずっとノートをとっている男子生徒がいた。

杉野だ。おとなしくて主張をしないが成績はいい。

普通その日最後の授業のおわりかけに先生のはなしなんて、

終わるのが待ち遠しくてはいってこないとおもうんだけどな。

勉強熱心だなぁとみてると

チャイムが鳴る。

よし、終わった。片づけをはじめていたら先生が言う。

「おいまだおわってないぞ少し延長するぞ」

そんな。いそがないとはじまっちゃうよ。

内容なんてはいってこず

ただ音を聞きながら時間が過ぎる作業をした。

やっとのことで終わり、

ちゃっちゃと片づけをして教室を出る。


下駄箱で靴を取り換え

校門へ向かう。

どうなるんだろう主人公は。

敵にぼこぼこにやられて、しんだみたいな描写があったけど。

主人公はしなないよね、大丈夫大丈夫。

自分に言い聞かせる。

家の近くの公園を通ると同じ学校の制服をきた男子3人がいた。

あれは上級生かな?同じ学年ではないとおもう。

なにやら3人で笑っている

なんだろうと思っていると、ワイシャツ姿でボロボロの男子生徒が。

よくみると自分の兄だった。

あれはなにをやっているんだ?

がたいのいいこリーダー的な子がプロレス技みたいなのを兄にかけている。

痛がる兄。バタンと倒れてしまう。

それをみて

3人組は腹を抱えて笑っている。

あれは仲良くしてるのか・・・

どうなんだ関係性はわからない。

でもつい目をそらしてしまった。

みなかったことにしよう。


家に帰るとすでに幼稚園から帰ってた一番下のまさとが玄関で出迎えてくれた。

「おかえりおねーちゃん」

「うん、ただいまーいいこにしてた?家に誰もいないの?」

「あっちゃんがいるよ。おなかいたいってトイレにいる」

「あら、そうなんだ」

あっちゃんというのはわたしの下の小学3年生の子だ。

すぐ腹を下す。

制服を脱いで、部屋着に着替え、テレビの前に座る。

まだコマーシャルだ。間に合った。

「あ!ライダーマンみるの?ぼくもみる」

「いっしょにみよ」

私のまえに座らせる。ついにアニメがはじまった。

夢中になってみていると、玄関のドアが開く音がした。

帰ってきたのは兄だった。

「ただいまー」

リビングに兄がはいってくる。まさとが兄をみるととびつく

「おかえりー」

「おー元気だね」兄はまさとの頭をなでる。

兄をみようとするが、さっきのが思い出されてみるのをためらってしまう。

アニメをみながら

「おかえり」とわたしはいう。

「その番組すきだね」兄は画面を見ながら言う。

よこめでみながら兄を見る。

水で洗ったのだろうか、さっきの泥はとれているがやはり汚れはわかる。

「うん、おもしろくて。おにーちゃんもみる?」

「洗い物すませてからかな」

そういえば今日は私が洗い物の当番だった。

「ごめんわたしやらなきゃ」

「いいよ、それ、みたいんだろ?みてていいよ」

「えっでも。」

「夕飯の時たのむよ」

笑って言う。

「うん・・・」

兄はやさしい。いつだって自分よりも私たちを優先してくれる。

父が早くに亡くなったので、母が働きにいかなきゃいけないのでいえのことを私たち子どもがやらなきゃいけないのだが、兄は率先してやっている。

わたしは自分のすきなことを優先してしまったのに。

それを見逃してくれて。

兄はお人よしなんだ。

だからそういうのを人をつけあがらせてしまうのかもしれない。

さっきのだって、兄がひとがいいからやられてたのかもしれない。

なにかわたしはできないか。

でも女で下の子で

力も弱い自分がなにもできない。

そういうときに男だったらと思う。

余計な手出ししても面倒になるだけだろうか。

わたしは暗くなるようなことを考えるのをやめ、アニメに集中した

アニメは現実とは違って、弱い者いじめは罰されていた。

現実もこうあってほしい。

そう願う。






日曜の午後。

俺は塾でだされた宿題を黙々と取り組み、

最後の一問をおわらせた

「宿題おわったから遊んでくるね」

俺は笑顔で母に告げる

「あら、もう終わったのねさすがね」

「うん、今日の特に簡単だったから」

「さすがねぇ、その調子でがんばってね」

母はにこにこして俺を見つめている。

その奥には父がソファで新聞を読んでいる。その会話を聞いていたのか

「宿題はあたりまえだ。そのさきの学習でどれだけ差をつけるかが重要だろ」

彼は不機嫌そうに言う

「あきはがんばってるじゃない」

「たりないといったんだ。それでは名門の高校にはいれないぞ」

父は警察官で、よくわからないが偉い位置にいるらしい。

ずっとエリート街道を走ってきて、成功することだけがすべてで

息子の俺にもそれをおしつけてくる。

今日は珍しく家にいるのでうっとおしい。いなければいいのに

まためんどくさいことになるので、その場は従っておくしかない

「そうだね、わかってるよ。夜もやるつもりだよ。数時間の息抜きだよ」

「それで差がついて情けない結果になったら許さんぞ」

「わ、わかってるよ。いってきます」

「あら、きをつけてね」

息苦しい家からはやくでたい。

俺は玄関のドアを開けて外に出る。


家にいたいというやつがいるが、とんでもない。

そとのほうが気が楽だ。

暖かいホームドラマをみると虫唾が走る。

あんなものおしつけだ。

あたたかい家庭はこういうものです、さあみんなでつくろうという何者かの意図がすごくかんじる。

他人よりも家族のほうが血が通っていて安心するなんてうそだ。

他人の方が仲良かったり、距離感がよく、安心したりする。

他人の方が俺はいい。

そういえばあいつら今暇なのか。

メールしてみるか。

『おまえらいまひま?』

とおくるとしばらくして返信が来る。

坂口からだ

『勉強につかれて息抜きで本屋でひまつぶしてたよ。遊ぼう』

ふみやからもきた。

『僕も暇だからあそぼう』

ほらこうやって会ってくれるだろう。

家族なんかより他人の方が付き合いやすい。

『駅前のカラオケいかね?』

ふたりからすぐ返事が来る。

駅前で待ち合わせることになった。

俺はすぐに向かうことにした。




駅前で待っていると、坂口がやってくる。

「お待たせ」

「おせぇよ」

「これでも急いだ方だって」

「ふみやこねえな」

「そろそろくるんじゃない?」

「まつのだりぃな。なんであいつまたなきゃいけねーんだよ」

文句を垂れていると、ふみやが天パをゆらしながら走ってくる。

「ごめんおまたせ。」

「はやくこいよたこ」

「ご、ごめん」

「カラオケ行くんだっけ?」

坂口は聞く。

「おう、新しい曲仕入れたから」

「俺もバグスの新曲覚えたから歌いたい」

「あれまじいいよな。よっしゃいこうぜ」

おれらはカラオケへ向かった。

結構ひとがまっていた。

「うわすげぇじゃん。まつのだりぃな」俺は愚痴をこぼす。

ただでさえ日曜は混むのに、かなり大型店舗でここらへんはカラオケが少ないからみんな集中する。



店員にきくと1時間半待ちらしい。

「どうする?待つ?」

坂口はきくと

「そこらへんでひまつぶせばいいんじゃね?」

おれはこたえる。

ふみやも

「うん、そうしよう」と俺に合わせる。

「ここらへんぶらぶらしようぜ」


おれらはカラオケ屋をいったんでる。

「なにすっかなぁ・・・」

「ここらへんあそぶところないよね」

「どうするか・・・それにしても熱いな・・・」

「河原でもいく?」

「ああそうだな。こっから近いし。」



河原へ向かう途中に道路で石けりをしていたら坂口が言う

「あれっ秋川じゃね?」

「ん?」

おれは坂口が指さした方向を見ると

秋川が歩いていた。

ビニール袋をもってぼーっとしながら歩いているようだ。

秋川にちかづいて

「おいなにしてんの?」

とこえをかけるとびくっとする。

「なにかってんの?」

おれはビニール袋を勝手に見ると

いくつもアイスがはいってた。

「おっいいじゃん。食べようぜ」

それを奪うと、秋川が少しいやがったが無視をした。

「おれアイスの実たべよー」

「んじゃおれはスーパーカップ」

「お前残り物な、がりがりくん」

「えー」

「おまえ選ぶ権利ない」

「そんなあ」

秋川はそれを見てもじもじしてる。

「あの・・・たべるのはいいけど・・・おかね・・・」

「ああ、あとではらうよ、あとで」

笑って言う。

秋川は「そ、それならいいよ・・・」

ぎこちない笑いでいう


「おれら河原いくからおまえもこいよ」

秋川にいう。

なんかいいたそうだった。

ふみやはいつものごとく

「ついてくるだろ?」と自分より弱いものに気が強くなる。

それをみて俺はいらっとくる。


アイスを食べ終わるとちょうど河原に着いた。

アイスはそこらへんにすてた

河原の近くになにかおいてある

水鉄砲だった。

俺はそれをひろって急いで水を入れる。

他の三人も河原に入ろうとしてるときに

水鉄砲を打つ。


「うわつめたいやめてやめて」

ふみやは甲高い声を出していて気持ちが悪かった。

走り回っていると

気配をけして秋川の近くによる。

そして顔面を狙う。

口の中に入ったのか「あがががが」という

それがおもしろくてずっと狙う。

腹がよじれそうだ。

秋川が動くので、おい坂口ちょっと抑えてろ

「あいよー」といって秋川を後ろから羽交い絞めして

「おれにあてないでね」

「わーってるよ」

と狙いをすまし口の中に水鉄砲をうちこむ。親父のことをかんがえてストレスを解消するようにガンガンうちこんだ

ごぽごぽごぽという音が秋川からする。

いきができないようでじたばたしている

「おいうごくなって」

坂口は懸命に羽交い絞めしている。

「もういっこ水鉄砲あったよ」

とふみやがいうので

「よしたまにはつかえんじゃんおまえ。はやく、はやくうて!」

「う、うん」

ふみやも秋川の口を狙う

「しねええええい!!!」

おれのよりつよい水圧がでるようで

秋川がうちこむとへんなこえをだしはじめる。

「ごぽぽぽぽがほはははぽあああ」と甲高い声とともにいうので

おもしろすぎてもう狙いが定まらない。

もうだめだとおもってやめにした

「あー笑いつかれた・・・・・秋川の顔まじうける。」

秋川はぐったりしてすわっている。

坂口も笑いで涙がでている。

「やばいやばい・・・・・あーおかし・・・・あっ」

「どした」

「もうカラオケの時間だ。」

「まじかよ。いそがねーと走ったら間に合う」

秋川はちょっとぐったりしてるがきにしてられない

いそいでカラオケ屋に戻るために走る。



「あれーおそいなあ」

私は時計を見ながら言う。

兄が兄弟の分のアイスかってきてくれるっていって

家から5分くらいのスーパーにいってから1時間半以上たってる。

そんなにアイスなやんでるのかな、なんか寄り道してるのかな


まさとわたしのふくをひっぱって

「アイスの実はやくたべたーいにいちゃんまだ?」

「うん、おそいね。もうちょっとしたらもどってくるとおもうんだけどなあ」

「あついよーまーくんとけちゃう!」

まさとがだだこねている。

「オレンジジュースでものんでまってようね」

「えーアイスの実がいい!」

最近わがままがつよくなってきた。

あーちゃんも近寄ってきて

「わたしもスーパーカップたべたいけどがまんしてるの!おねえちゃんこまらせちゃだめ!」とまさとをつよくしかる

するとまさとがなみだをうかべ泣き出した。

「おねえちゃんこわいよお」

「そうやってなけばいいとおもってるでしょ。あまいし」

小学3年生この強さは成長したらどうなるんだろう。きっと将来男をしりにしくのだろう。

そうこうしてると3時間たった。さすがに遅すぎる。

兄はさっと買い物は済ませるタイプだから誰かと話し込んでるのかな。

こないだのへんなやつにからまれでもしてるのだろうか

ちょっと様子をみにいってこよう。

「ちょっと外言ってくるからお留守番たのむね」

そういって外を出る。

まさとがぼくもいくといったが

あーちゃんに任せた。


きょろきょろみながらスーパーに向かう

河原を横断する橋をわたってスーパーにつくと

スーパーのなかのどこにもみあたらない。

近くのコンビニで立ち読みでもしてるのかと思っていってみるがいない。

兄がどこに立ち寄るか検討が付かなくなった。

もうかえってるのかなともどろうとしたら

河原の方でなにやら人が集まっている。

救急車がやってきてタンカーがそのひとごみにはしっていく

なんだろうとちかづくと

河原にビニール袋とアイスのたべたうつわが散乱していた。

アイスの実。スーパーカップ。わたしのたべたかったガリガリ君。

周りにいる女の人が大丈夫かしらと話している。

水が・・・・なんだか顔が青い・・・・


いろんな言葉が断片的に聞こえる。

心臓が踊り狂う。

ひとごみをかきわけてみると

救急隊にかこまれているひとりの男の子がたおれていた。

それはだれか、私は見間違ったりしない。

だけど見間違いであってほしかった。





カラオケを散々楽しんで、

店を出る

「あーきもちかったわーカラオケ最高。」

「新曲うたうのむずかったね」

「サビたかすぎねぇ?」

「そう、もう声ガラガラだよ」

「ふみやはあいかわらずうたへただったわーもうちょっと練習しろよ」

「うん、ひとからしようかな」

「まず声が微妙だからなぁ」


すると遠くからけたたましいサイレンが。

町の人はみなそれに目を奪われる。

「なんかあったんかな?」

「さあ?」

「つかそんなことよりもう一個の新曲うたいやすくなかった?」

「あれもたかくない?」

「あれはおれのこえにあってうたいやすかったわ」

「そうなんだ」

他愛もない話もつづけて家に帰る。


駅前のファーストフード店で

夕飯時まで話をし、別れる。


家に着き、ドアを開ける。

母親があわててやってくる。

「大変!大変!」

「え?どうしたの?」

「秋川くんってしってる?」

「え・・・しってるけど」

「亡くなったらしいわよ」

「は?」

目の前がゆがむ。

なくなった?さっき遊んでたじゃないか。

「大量の水を飲んで意識不明のままで、さっき亡くなったらしいわよ。倒れるところを通りかかった人がみつけたらしいんだけど・・・あれきいてるの?」

「・・・・・・・・」

整えようとする気持ちとそれに逆らって高鳴る鼓動の音だけが自身の中に響いていた。


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戯れの代償 奥田啓 @iiniku70

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