引力と重力

嫁「互いの引力に惹かれ合う男と女!」

夫「は?」

嫁「運命という名の重力からは逃れられない二人!」

夫「何かのドラマ? 引力から重力に変わってるし」

嫁「ん? 引力も重力も同じでしょ?」

夫「宇宙レベルで語られる時、つまりSFで語られる時には、ほぼ同じとして扱われることも多いけど、そもそもは違うものだよ」

嫁「だってりんごが地球と引き合って落ちる力だよね?」

夫「うん、それは万有引力の説明だね」

嫁「ほら合ってる」

夫「合ってない。それは万有引力であって、引力とも重力ともちょっと違う」

嫁「え? 万有引力って引力じゃないの?!」

夫「引力っていうのは引き合う力ね。万有引力も引力の一種。他には磁石同士が引き合う電磁力なんかも引力だよ」

嫁「磁石は引き合うだけじゃなくて弾きあったりもするじゃん」

夫「お、良いところに気づいたね。それは斥力と言うんだけど、物理的に4つある相互作用のうち、重力に対してのみ引力だけが観測されていて斥力が発見されていないんだ。これは重力子グラビトンが発見されていないことが原因だと思われてね――」

嫁「――すとっぷ! うるさい」

夫「……あっ……ごめん」

嫁「必要なことだけ教えてよ。で? 引力は引き合う力で、重力は何なの?」

夫「重力っていうのはね、一般相対性理論で言うと――」

嫁「――ここにも出て来るの?! 相対性理論!」

夫「あー、うん。だからこそ有名なんだね」

嫁「相対性理論万能じゃん」

夫「万能ではないけどね。えっと、重力っていうのは質量と加速度によって歪められた時空を言うんだ」

嫁「は?」

夫「……(だよなぁ)」

嫁「なに諦めてんの?」

夫「諦めてないよ! えっと、ピンと張った平らな布を想像して。それが何もない時空」

嫁「うん」

夫「そこに大きなビー玉を載せる。布はビー玉を中心に歪むよね?」

嫁「たぶん」

夫「そこに小さなビー玉を近づけると、歪みに落ちる」

嫁「大きなビー玉にくっつくね」

夫「そう! それが重力」

嫁「うーん、なんかわざと難しく説明してる気がする」

夫「ここで大事なのは時空の歪みであるってことなんだ。引力が質量に対してのみ働く力であるのに対して、場の歪みは全てに影響する」

嫁「うん」

夫「だから質量ゼロの光も重力の影響を受けて曲がるし、ブラックホールにも落ちる。そういうこと」

嫁「なるほど、だから恋の重力には心も惹きつけられるのね!」

夫「(その理屈で言うと、質量の大きい相撲取りが一番モテることになるけどね)」


――了

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