ジェットとロケット

嫁「飛行機嫌い。どうしてこんなに高く飛ぶの?」

夫「その方が燃料コスト的に有利だからだね」

嫁「コストのために私の耳が痛くなってもいいと思ってるの?」

夫「……いや、低い所を飛ぶのは危険も多いから、コストだけの問題じゃないんだけどね」

嫁「うー」


  ◇  ◇  ◇


夫「落ち着いた? 耳抜きも上手く行ったみたいだね」

嫁「うん。……あ、富士山! ところで飛行機ってどのくらいの高さを飛ぶの?」

夫「4千m弱ある富士山がかなり下の方に見えるでしょ? 大体1万mちょっとくらいだったはずだよ」

嫁「さっきも言ったけど、なんでこんな高い所を飛ぶの?」

夫「嫁はさ、さっき耳が痛くなったよね?」

嫁「うん」

夫「あれはまわりの気圧が急に下がって、耳の内側と外側の圧力に差ができてしまった事が原因で起こるんだ」

嫁「それは知ってる。台風来た時とかも痛くなるもん」

夫「そうだね。気圧って言うのは地上から上空に上がれば上がるほど低くなる。つまり、空気がどんどん薄くなる」

嫁「うん」

夫「空気が薄くなるってことは、飛行機と空気との摩擦が減って、飛行機が飛びやすくなるんだ。高度1万mでだいたい地表の5分の1になる。まぁ機内は気圧調整されてるけどね」

嫁「え~? 空気でしょ? 空気との摩擦ってそんなに重要なの?」

夫「時速90kmで走ってる車から手を出したと考えて。飛行機はその10倍の900km前後で飛んでるんだよ。しかも機体も比べ物にならないくらい大きいし。ものすごく重要」

嫁「ふ~ん。じゃあさ、もっとさ、2万mとか5万mとかの高い所飛べば、燃料サーチャージも安くなる?」

夫「2万mはともかく5万mは飛べないなぁ。成層圏超えちゃうし」

嫁「飛べないの? ロケットは宇宙まで行けるじゃん。あ、宇宙飛べば空気抵抗なくなるんじゃない?!」

夫「ロケットはね。でも今乗ってる飛行機はジェット機でしょ?」

嫁「うん」

夫「名前を見れば分かるだろうけど、ジェット機はジェットエンジンで飛んでる。だから宇宙には行けない」

嫁「え? ……どういうこと?」

夫「……ええと、あ、そうか。ジェットエンジンは酸素を外部から取り込んで燃料を反応……えっと、燃やして飛ぶわけ。ロケットエンジンは推進剤……燃料の中に自前で酸素も入ってて、燃料を自分で燃やす事ができる。だから周りに酸素がなくても飛べるんだ」

嫁「へぇそうなんだ。ロケットってジェットのすごいやつだと思ってたけど、違うものなんだ」

夫「そう。それで話は戻るけど、ジェット機がもっと高い所を飛ばないのは、空気抵抗は確かに減るんだけど、気圧が減るってことはつまり――」

嫁「そっか、空気が薄くなるから、燃えにくくなるんだ」

夫「そう! 抵抗と燃焼効率のバランスを考えると1万3千m以下くらいが良いみたいだね」

嫁「なるほどね。まぁこれ以上高く飛んだら私は絶対乗らないからいいけどね」

夫「そんなに嫌なら近場の温泉旅行とかにすればいいのに」

嫁「それとこれとは話は別!」

夫「そうですか……」


――了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る