コールドスリープ

嫁「あの、寝てる間に宇宙に行くやつあるじゃん?」

夫「……うん?」

嫁「ほら、寝てる間年をとらないで、遠くまで旅行するやつ。アバターの……」

夫「あぁ、コールドスリープ?」

嫁「それかな? なんか死んだ直後に冷凍して、未来に生き返るのが90万円くらいで出来るってテレビでやってたよ」

夫「それバラエティ番組でしょ? うーん、多分それは今のところ無理かな」

嫁「え? どうして?」

夫「コールドスリープには大きく分けて2種類あってね、嫁の言ってるのは『冷凍法』、もう一つは『冬眠法』で、今実際にある程度の成功を収めているのは冬眠法だけなんだ」

嫁「何が違うの? どっちも冷蔵庫に入れておくみたいなもんでしょ? あ、冷蔵庫と冷凍庫?」

夫「うん、そうだね。冷蔵庫に入れる方の『冬眠法』は、たぶん嫁の考えてるコールドスリープとはイメージ違うと思うけど、一応実用化されてるよ」

嫁「やっぱできるんじゃん!」

夫「イメージ違うと思うよ。大怪我とか命にかかわる病気の進行を遅らせるために、脳を含めた全身を低温にして最長で1週間未満のコールドスリープ状態にする技術なんだ。大災害の際とか、離島から設備の整った施設への搬送中に亡くなるのを防ぐくらいの技術」

嫁「ふぅん……すごいけど……。じゃあさ、冷凍しておいてチンするみたいな方は?」

夫「それが『冷凍法』だね。嫁がテレビで見たっていうのもそっち」

嫁「冷凍うどんも冷凍お好み焼きも出来たてとおんなじに美味しいし、そっちのほうが良さそうだよね」

夫「良くないんだこれが。人間の体の60~70%が水でできてるのは知ってるよね?」

嫁「あ、うん。スポーツドリンクのCMで聞いたことある」

夫「水を凍らせると体積増えるでしょ?」

嫁「体積?」

夫「(体積から説明しなきゃならんのか)……夏にペットボトルのお茶を凍らせると、パンパンに膨れてるでしょ?」

嫁「ああ、うん。破裂することもあるから凍らせないようにって書いてあった」

夫「人間の体でも同じことが起こるんだ」

嫁「破裂するの!?」

夫「……体が破裂する訳じゃないよ? 細胞1個1個が壊れてしまうんだ」

嫁「そっかー、壊れちゃったら死んじゃうよね」

夫「うん、昔ネットで見たロシアのコールドスリープ商業サービスは、『壊れた細胞も治せるような未来技術に期待する』って言う。まぁ話題集めだけの商売だったね」

嫁「うーん……あ、あれは? 刺し身も冷凍して美味しく食べられる『切れちゃう冷凍』とか使えば大丈夫じゃない?」

夫「刺し身と一緒にされてもなぁ……」


――了

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