第58話 希望と絶望
「あああああっ! いだいぃぃっ! いだいよぉっ!」
聞こえますか? 聞こえますか?
僕は今、叫んでいます。
どうしようもない激痛に、僕は今、叫んでいます。
「いだいっ! いだいぃっ! このクソガキィッ! クソガキぃっ……!」
激痛が恐怖を怒りに変え、僕の壊れた心から、沸き出しています。
ケイジお兄さんから貰った高揚感なんて、もうありません。僕の頭の中にあるのは、目の前に居るクソガキに対する、憎悪だけ。
止まりません。止まりません。お腹の傷口から、僕の良い部分が、どんどんと流れ出ていきます。
助けてください……ケイジでも、カヨネェでも、父親でも母親でも、先生でも、サエちゃんでも、いいから……僕を、救ってください……。
僕、本当の本当に、ダメになってしまいます。
「シネッ! シネクソガキ! お前なんか死んでしまえっ!」
「お嬢ちゃんっ! それ以上刺激しないでっ!」
誰かが僕に向かって叫ぶ。僕はその人を睨みつける。
「お前に何が分かるんだっ! あのガキはっ!」
そう叫ぶと、更にお腹が痛み出す。声を出す度に脳まで痛みが走る。
僕はお腹をおさえ、地面をもがきまわった。
「ああああっ! 痛いいだいいだいいだいっ! いだいいだいっ!」
聞け。僕の痛みを。
こんなに、痛いんだぞ。
こんなに、こんなに、こんなに、こんなに。痛いんだぞ。
お腹も壊れた心も、もう、全部が痛い。
僕はもう、僕でいられる、自信がない。
僕を僕たらしめていたものは、全部、全部、流れ出てしまった。
その変わりに、僕の心から湧いた憎悪が、僕を支配する。
あのクソガキが、憎くて憎くて仕方がない。
僕の全ては、真っ黒だ。
そして視界も、いつしか真っ黒だ。
夢の中に、王子様は居ない。
お姫様は一人、草木ひとつ生えていない土の上に、汚くボロボロの服を着て、首をキョロキョロと動かしながら、何かを探している。
その手には、刃が欠けてしまっている、小さな彫刻刀。
彫るための何かを、必死に探しているのだろうか。
それとも、お姫様に絶望を与えた人間にせめて一撃を与えたいと願い、彷徨っているのか。
ウロウロ、ウロウロ。ウロウロ、ウロウロ。
お姫様は何も見つける事が出来ず、更に深い絶望を感じ、彫刻刀で、自身の目を突いた。
なんとなく、その気持ちは、理解出来た。僅かな希望さえも見当たらないこの世界を、見たくないのだろう。
……いいや、あるんだ。この世に希望は、ある。そのくらい、僕もお姫様も、知っている。だって実際、王子様は居たんだ。触れ合った時間が、確かにあった。
だけどもう、僕とお姫様には、希望は無い。何をしても、邪魔をされる。
運命が幸せになるなと、言っているかのよう。
そんな世界、見たくないよな……見たくない。
誰かの笑顔も、言葉も、視線さえも、自分を拒絶しているものと、感じてしまう。
だからせめて、自分が生涯、感じた事の無いほどの、激しい感情を感じたその時に、時間を切り取るように、死にたい。
そうだった。チャキマルのお墓の出来に満足出来たら、死のうって、思っていた。
それなのに、運命に弄ばれるように、まやかしの希望を見せられ、それに飛びついた、愚かな女だ、僕は。
馬鹿だった。愚かだった。
素直にチャキマルのお墓作りに集中して、死んでおけば良かった。
そうすれば、人を本気で憎んでしまう感情なんて、味わう事は、無かったのだ。
畜生……畜生……。
目が覚めたらそこは、病室だった。
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