第52話 僕と僕 二
「えーっ? 不審者じゃないの? じゃあどうして毎日ここにいるの? 学校行かないの?」
僕の心境は、一気に調子に乗った。聞きたかった事が次々と、言葉になる。
僕の言葉を聞いて、ケイジお兄さんは少しだけ、表情を
ケイジお兄さんの、少し高いと感じる声が聞けた事。それが嬉しくて、嬉しくて。
体が小刻みに動いているのを感じる。小さく何度も、ジャンプをしているよう。
「……行きたくても行けないの」
まるで面倒くさい奴を相手にしているかのように、ケイジお兄さんはプイと顔を横に向けたのだが、その中に少し、ハニカミのような表情を、見せた。
やっぱり、ケイジお兄さんの顔は、幼いし、可愛い。僕は更に、調子に乗る。
「えーなんでなんで? 学生じゃないのー? 高校生でしょー?」
僕がまるで畳み掛けるかのように、今まで聞きたかった事を質問すると、ケイジお兄さんは僕の顔をチラリと見ながら「そういうお嬢ちゃんは? なんでここに居るの?」と、逆に僕に、質問をしてきた。
……答えたくないという理由で、話題を変えたのかもしれない。
しかし、質問されて、しまった。それって僕に、興味を持ったという事とも、取れる……。
心が、暴走する。体も、暴走する。
「ぼっ……僕っ? 僕はねー」
歯が、カチカチと音を鳴らしている。足がガクガクと震えている。
歯を鳴らしている事がバレないように、僕は口元を指で隠す。足が震えている事がバレないように、僕は左右に首と体を揺らす。
「んっ……とねー、僕は学校に行きたくなくてねー……」
「なんかあったの?」
ケイジお兄さんは、更に僕へと、質問を投げかけてきた。
……話してもいいのか? 迷惑じゃないのか?
話したら受け入れてくれるのか? 理解してくれるのか?
僕を嫌いに、ならないでいて、くれるのか?
……いや、まだ駄目だろう。もうちょっと。もうちょっとだけ、様子を見させて欲しい。まだ、不安のほうが、圧倒的に勝っている。
そのような事を考え、悩んでいるうちに、足の震えが隠しきれないほどになっている事に、気付く。このままでは立っている事すら、ままならない……。
僕はチラリとケイジお兄さんが座っているベンチへと視線を向ける。そこにはかなりのスペースが空いていて、僕一人が座る事くらい、なんて事は無いだろう。
しかし、そこは紛うこと無く、お兄さんの隣である。余計に、ドキドキしてしまわないだろうか? 緊張を、抑えきれるだろうか?
そう考えたらまた、足が震える……これは、迷ってなんか、いられない。
僕はベンチへと飛びつくように近づき、ケイジお兄さんの隣に座る。座った瞬間に、足が何度も地面を蹴ろうとするかのように震えているのが分かったので、僕は両手を膝の上に置き、思いきり地面に押し付けた。
「お兄さん毎日来てるけど、ニート?」
僕は全然、思ってもいなかった質問を投げかけてしまった。頭が、テンパリ過ぎている。
いつもの僕じゃない。僕の頭が、おかしな事になっている。
僕のこの言葉を聞き、ケイジお兄さんは更に、表情を曇らせている事に気付いた。
怒ったかな……そんな不安が湧きそうになったその瞬間、ケイジお兄さんは「ニートじゃないよ。働いている」と、意外にも明るい声で、答えてくれた。
「……じゃあ、なんで? なんでここに毎日来てるの?」
「うーん……んー……僕はねぇ、職場の仲間と上手く行ってなくてね」
それに、お兄さんの一人称が、僕だという事に、僕はなんだか、感激している。
一緒だ。僕と一緒。僕と同じ所がある。
この共通点や、チャキマルの導きとしか思えない出会いが、僕をこれ以上無いほどに、興奮させている。
「職場の人達、全員僕の親より年上で、どう接していいか分からないんだよ」
「そ……そうなの?」
「うん。だから昼休みになるとこうして、現場の近くの公園で時間潰してるの」
「えーでもそんな事してたら、余計に上手くいかなくならない?」
言葉を発して、すぐに自己嫌悪に陥った。調子に乗って、何を言っているんだ、僕は。
相手は同級生のガキ共じゃないんだ……僕が意見していい訳が無い。
折角興味を持って貰っているというのに、突き放すような言い方をして、いいのか? このままお兄さんが僕を嫌いになっても、いいのか?
良くないだろ。絶対に嫌な筈だ。
だったらまず、落ち着く事。落ち着いて、大人として。お互いの話を、していかなきゃいけない。
「んー……まぁね。でもなんだろ、別にいいんだよ、これで」
「ふーん……不審者でもニートでも無いんだ。そっか」
僕はケイジお兄さんに気づかれないよう、小さく深呼吸をする。何度も何度も、深呼吸をする。
この時は、僕の人生において、とても大事な場面。もしかしたら、一番大事なのかも知れない。
だから、落ち着こう。宮田エイコとして、ちゃんと向き合おう。
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