第39話 業の一
肉がある程度焼けてきたので、僕は仕方なく父親に「焼けたよ」と、声をかけた。すると父親は顔を上げ、僕の顔を見る。
その時の父親の目は、真っ赤に充血していた。そればかりか、潤んでいた。
「……焼けたよ」
僕は何故かもう一度、同じ言葉を漏らす。すると父親は無理に笑顔を作り「あぁ、ありがとう」と言いながら、首をコクンと頷かせた。
「……何が、あったの?」
僕は自分が食べる用のサガリを小皿に移し、そのうちの一つを口へと運びながら、話しかけた。すると父親は少しは落ち着いてきたのか、ロースを一枚箸で掴み、僕と同じように小皿へと移す。
「どこから話せばいいか……父さんな、今日、仕事休んで、母さんと話し合いをしたんだ。今後に、ついての……」
「離婚するかどうかって話?」
僕がそう言うと、父親は「ふっ」と笑い、首を上下に振る。
「あぁ、そうだ。俺と母さんは拗れている。だけどなエイコ、それはお前の事件とは、関係無いからな? ここまで話が進む引き金にはなったのかも知れないが、元々俺と母さんは、反りが合わない」
「反りが合わないのは、知ってた。休日にどこにも連れてってくれないし、会話も全然無かったし。だけど僕の事が関係無い事もないでしょ? 変な気を使わないで」
僕の言葉を聞いて、父親は「随分と、大人なんだな、エイコは」と、ボソリと呟いた。
「大人なら、話そうと思うが、母さんは学生時代、凄くモテていてな。常に男が居たんだ。しかし、それが原因で、悪評が立ってな……皆、母さんの事を無視し始めたんだ」
……何?
なんだって……?
それって、僕? 僕の話か?
無視される原因は違うが、無視されている事やモテるという所も、共通している。
僕は、母さんにソックリだ……。
「落ち込んでいる母さんを慰めて、そこから父さんと母さんの交際が始まったんだ。そしたら直ぐに母さん、妊娠してな……」
「僕……?」
そう呟いた僕の言葉に、父親は神妙な表情を作り、首を一度だけ頷かせる。
「あぁ、お前だ。こんな事、娘のお前に言っていい筈がないって、分かってるけどっ……父さんな、凄く凄く、疑ったんだっ。父さんと付き合い始めて、半年もしないうちに妊娠が発覚してっ……学生だっていう事もあったし、就職口が決まってた訳でも無いしっ……相手側の両親には鬼畜呼ばわりされるし、他の学生からは変な目で見られるしっ……! 自由の全てが奪われたような気分になってなっ……母さんの事が」
父親は僕の目を見て、涙をポロリと、垂らした。
「憎かったんだっ」
父親の手が、震えている。
ブルブル、ブルブルと、震えている。
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