第21話 助けに来てくれるかな
僕は少し離れた公園の遊具であるブランコの上に座りながら、腕組をしながらうたた寝をしているお兄さんの事を見つめ続けた。
どうしてお兄さんは、皆が集まっている空き地から離れ、ここで座りながら休憩をしているのだろうか。なんて事を無意識のうちに考える。
僕にはまだ社会経験が無く、大人達の世界がどういったものなのかを、知らない。だから僕がいくら考えた所で、それはきっと現実のものとは、違うのだろう。そしてそれは、僕が想定や想像しているお兄さんにまつわる事、全般に言える。
だから僕は、それを知りたい。どうしても僕は、この中途半端な時期にお兄さんがあの会社に入り、こうして群れから離れ、一人でここに居るのかが、知りたくて知りたくて、たまらない。
……こんなに他人に興味を持ったのは、始めてだ。僕の脳は今、そのほとんどをお兄さんの事を考えるために動いている。
そしてそれに呼応するかのように、僕の元気が湧いてくる。僕は湧いてきた元気に身を任せ、ブランコに座った状態で、地面を蹴り、ブランコを揺らす。
ブランコは次第に勢いを増し、僕の体感は地面と水平になる。そして一番高い所で僕はその身を投げ出し、空を飛び、ブランコを囲っている柵を飛び越えて、地面に両足から着地する。
しかし、その時の勢いがあまりにも強すぎて、僕は思わず膝を着く。それでも勢いは収まらず、僕の体は公園の地面を転がった。仰向けの状態で僕の体は止まり、僕はそのまま空を見上げる。
体は衝撃によって少し痛んだが、心地よかった。
僕がもっともっと幼かった頃。ブランコから飛び、今みたいに着地に失敗し、怪我をした事がある。その時は周りに友達が居て、僕を嘲笑したり、心配したりする人が居て、僕は心地良く「大丈夫だよ」と強がっていた事を、思い出した。
「大丈夫じゃないよ。お兄さん、僕を助けにきてー」
絶対に来ない事は分かっているのだが、僕は明るい声で、そう言った。
いつか。僕の事を助けに来てくれるかな。
そう思うと、笑い声が出てくる。
「あははっ」
心から得体の知れない、かつてない感情が湧き出てきて、僕に笑い声を発させた。
お兄さんのほうからピピピという電子音が聞こえてきて、僕は思わずお兄さんのほうを見る。
するとお兄さんはどうやら起きたらしく、ポケットからスマートフォンを取り出して画面をタッチし、音を止めた。そして大きな口を開きアクビをしながら立ち上がり、体を左右にブンブンと振り、三度ほど前屈をして、歩き始めた。
どうやら僕の事は、目に入っていないらしい……僕の方を見る事無く、お兄さんはこの公園の外へと歩き出し、お爺ちゃん達が集まっている場所へと向かった。
……平日の昼間に女子が公園で一人で遊んでいても、気にならないのかな。
僕はチラリとくらい、僕を見てくれるものだと、思っていた。それをとっかかりにして、話しかけようかな……話しかけられるかな……なんて淡い期待を、抱いていた。
しかし現実は、そう甘いものでは無いらしい。僕の胸は今、切ない。どうしようも無く、悔しい。
「ううぅーっ!」
僕はどうしようも無いので、ブランコを蹴った。するとブランコは大きな「キャリン」という金属音を立てて踊り、次第に落ち着いていく。
僕はお兄さんを見ていたが、お兄さんは僕を見ていない。
それなら、見られるように、しなきゃいけない。
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