第19話 チャキマルへ
小刀で木を削り、紙ヤスリで磨く。そこに「チャキマルのお墓」と下書きをして、彫刻刀で削り始めた。
僕は、あまり工作が得意では無い。綺麗に仕上げようと思うと中々進まず、腰や腕が痛くなり、直ぐに「ふぃー」という声を漏らしながら、ブルーシートの上へとゴロンと寝転がる。
次に僕は一旦お墓を抜いて地面に置き彫刻刀を入れていくのだが、それでも腰と、やはり腕が痛くなり、チャキマルのお墓の横へと倒れこむ。
そもそも僕には彫刻刀での作業は向いていないらしく、こんなにチャキマルの事を思っているのに集中力が続かない。悪く言うと、すぐ飽きてしまう。
元々が落ち着きのない性格だからだろうか……進まない作業を根気よくこなす才能が無い。
「ごめーんチャキマル。ちょーっと時間かかるかも」
僕は横に転がっているチャキマルのお墓をポンと叩きながら、独り言を漏らした。
チャキマルのお墓を元あった場所へと刺しなおし、僕はブルーシートを畳み、その中に今日持ってきていた彫刻刀なり小刀なりを入れ、風で飛ばされないように大きな石を乗せた。
その次に僕はトートバッグの中から、昨日の夜に書いた、チャキマルへの手紙を取り出す。
「ふふふーん。書いてきたんだよーっ」
僕は筆ペンで「チャキマル十六号へ」と書かれた茶封筒を人差し指と中指ではさんで、ピラピラと見せびらかすように左右に振った。その封筒の中から折り畳まれた一枚のルーズリーフを取り出して、広げる。
そして僕は、そこに書かれている文章を、冒頭から読み始めた。
「チャキマル、君と出会った当初はただ嬉しくて、ただ可愛がっていたけれど、今は君との出会いに、後悔と感謝を、同時に感じています。何故なら僕は、君に出会っていなければ、自分に襲いかかる不幸に押しつぶされて、自分で自分を殺していたんじゃないかと、思っているから。君が居てくれたから、僕は今、生きています。逆に言うと、君が居たから僕はまだ、死ねません。君のお墓を作るという使命感が、僕を踏み留まらせている状態です」
僕は大きく、息を吸い込んだ。
「君のお墓が完成したら、もしかしたら僕は生きがいを無くして、君の所に行くかも知れないです。やっぱり死ぬのが怖くて、行かないかも知れないです。そこはまだ、分かりません。分かりませんけど、もし僕がそっちに行く事になった時は、また僕の側にやってきて、魚肉ソーセージを、ねだって下さい」
僕はルーズリーフを再び折りたたみ、茶封筒の中に入れ、チャキマルのお墓の前に置いた。
「君との時間は、幸せだったから。君も幸せだったって、信じてるから。もう一度くらい幸せを、感じてみたいから。お願いします」
僕は家の冷蔵庫から盗んできた魚肉ソーセージをトートバッグの中から取り出して、セロハンと剥き、チャキマルのお墓の前にある手紙の隣に、そっと置いた。
そして僕は両手を合わせて目を瞑り、チャキマルの顔を、思い出す。
温かい気持ちと、寂しい気持ちが、同時に僕の中に、湧き上がった。
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