第18話 お墓作り
木々が生い茂り、そこから生えている枝や葉っぱが太陽の光を遮っている、薄暗い車の
この道はおそらく、地元の人も滅多に使う事は無いのだろう、秘密基地の残骸は、あの日僕がやってきた状態のまま、散乱している。
そしてチャキマルのお墓として立てた太い木も、あの日あの時のまま。地面に突き刺さったままだった。
僕は何故かそんな事が嬉しくなり、思わずその木へと抱きつく。そして自然と「ただいま」という言葉が、口から飛び出してきた。
こうしていると、落ち着く。心が静まっていき、割れた心がほんの少し、治っていくように感じる。
チャキマルは死んで、蹴られて、毛皮が剥げていたというのに。そしてそれを目撃したのが、つい先日の事だと言うのに。不思議だ。
「チャキマル。僕、来れて嬉しい」
僕はチャキマルのお墓である木を撫でながら、チャキマルに話しかける。
返事は当然、無い。相手はただの、木だから。
そんな事は分かっている。だけど、話しかけたかった。
「今からここ片付けて、立派なチャキマルのお墓を作るからね」
僕は木から体を離し、木をポンポンと叩いて、持ってきていたトートバッグの中から軍手を取り出した。
ここは森林。木漏れ日の中。季節は十月。気温はそこそこ。夏のようにジメっとした空気は無く、風が吹けば涼しい。
僕はとても機嫌良く、ダンボールを集める作業に取り掛かった。
トートバッグから新しい、小さめのブルーシートを取り出し、チャキマルのお墓の前に敷く。トートバッグから水筒を取り出して、コップ兼、蓋に麦茶を注ぎ、一口飲む。少し疲れて火照った体に、冷たい麦茶が流れ込み、渇いた喉を潤してくれる。
おでこから顔へと流れてくる汗を自分の腕でぐいっと拭う。まだ片付けを終えただけだというのに、結構な汗をかいているらしい。
「ふぃー。疲れたね、チャキマル」
僕はチャキマルのお墓に話しかけた。当然返事は無い。分かっている。
低学年の時に学校から購入し、結局あまり使わなかった紙ヤスリと小刀と彫刻刀を取り出した。そしてブルーシートの上で立膝になり、小刀で木の表面を削る。
「格好いいの作りたいけど、僕って工作はちょっと苦手なんだよね」
僕は苦笑いを浮かべながら、独り言を呟く。
僕は今、父親とも母親とも、口を聞いていない。学校の先生もそうだし、心療内科の先生にだって、何も話せていない。
何故なら僕は、彼らが嫌いだから。話せない。
だけどチャキマルは好きだ。大好きだ。だから、話せる。
独り言だけど、言葉が出る。出てくれる。
「声、出るとは思ってなかったから、チャキマルに手紙をね、書いてきたよ。あとで朗読するね」
僕は嬉々とした声を発し、汗を垂らし、涙も垂らしながら、一生懸命、チャキマルのお墓を作った。
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