第11話 ネグレスト
チェーンロックがされていて入る事が出来ない家の前で、膝を抱えながら、座っていた。
今が何時なのかは分からないが、辺りはすっかりと、真っ暗だ。山と海が近いせいか、昼間と夜との気温差が凄く激しい。今は恐らく、二十度無いだろう。
僕の体はどんどんと冷えていく。お腹だけは冷やさないよう、より強く、近く、自身の膝を抱きしめた。
こういった出来事が自業自得と言うのなら、誰かに対して情を抱くという事はきっと罪で、悪い業なのだろう。それを受け入れなければいけない。
チャキマルは私のせいで、不幸になった。チャキマルは、死にたくなんて無かっただろうな。僕があの日、あの場所に居なければ。餌なんて与えなければ。仲良くなんてならなければ。死なずに済んだのだ。蹴られて毛皮が剥がれる事は無かった。
赤ちゃんだって、そうだろう。僕があの日、あの場所に行かなければ、僕に拾われる事無く、誰にも見つけられずに、安らかな死を迎えられた筈なのだ。
僕が関わったからチャキマルは死に、赤ちゃんは死ねなかった。
……何、考えてるんだろう、僕。
何かが矛盾しているように感じるが、その矛盾が分からない。
考えても全然頭が回ってくれないので、僕はただただ、僕が悪いんだと、思う事にする。
僕が静かにしていれば、僕が問題を起こさなければ、両親は喧嘩をしないし、学校の皆も嫌な気持ちを抱かないし、先生も余計な仕事が増えない。皆幸せ。万々歳だ。
僕が静かにしていれば、それで済む事。これからは、そうしていこう。
僕は決意を抱くように、より強く強く、膝を抱きしめた。
その状態のまま、何分、何時間座っていただろう。
家の中で何度か鳴っている電話の音ばかりを聞いていた僕の耳に、誰かの足音が聞こえてきた。
僕は顔を上げ、足音のする方向へと視線を向けた。
僕の視界がとらえたものは、無表情な父親の顔だった。
僕を見つけても、無感情なのだろうか。しかしそれも仕方ない事か。僕は忌み子だから……と思い、僕はその場に立ち上がり、玄関から少し離れながら「おかえりなさい」と、声をかけた。
すると父親は一瞬だけ僕へと視線を向けて、そのままドアノブへと手をかける。僕は思わず「あ、チェーンロック」と口にするが、どうやら僕の声は届いていないようで、父親はそのまま扉を引く。
するとすぐさまガッチャンという音が鳴り、扉が止まる。
すると父親の表情が、曇りはじめた。そして見る見るうちに、再び鬼のような表情へと変わっていく。
あぁ、父親は大声を出す。と、すぐに察した。
「開けろぉっ!」
その一言だけを叫び、父親はとても乱暴に、玄関を閉めた。
閉めたというより、扉を枠に叩きつけた。
その姿を見た僕の体は、ほんの少しだけ震えている。
僕が部屋でうるさくしたら、僕も叩きつけられるんだろうな……なんて、思う。
父親と家の前でしばらく待っていると、扉の中からガチャガチャと音が鳴り、静かに、ゆっくりと、扉が開いた。そしてそこからとても冷たい表情をした、母親が顔を出す。
「……叫ばないで」
「なんでチェーンなんてしてんだ」
「昼間、警察が来たのよ……中に入れたくないから」
「なんで外してないんだ」
「忘れてただけよ」
母親はそれだけを言い、家の中へと入っていった。それに続くように、父親も家の中へと入っていく。
僕は、母親の言葉に対して心に黒いモヤモヤを抱いたまま、少しだけ躊躇したが、家の中へと足を踏み入れた。
晩ご飯は用意されていなかったので、僕はそのまま、自分の部屋へと向かった。
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