第9話 お墓
男子達が居なくなってから数分後、僕はゆっくりと立ち上がって、秘密基地へと近づいていく。
男子達が面白半分に壊していった秘密基地は、今年の夏休みに作成したものだ。
僕の家族は親戚同士の付き合いというものが希薄で、お盆期間だと言うのにお墓参りに行かなかった。それに僕と父親の仲が良くないせいか、家族で出掛けるという事も無い。しかし僕の友達は皆、家族で遠くにお出かけをしていた。お墓参りに行ったり、バカンスに行ったりしていたらしい。
暇を持て余した僕は、小さい頃良く遊んでいた裏山の、誰も来ないであろう場所に、自分だけの秘密基地を作って遊んでいた。カブトムシやクワガタを捕まえては秘密基地に放し飼いにし、その全ての虫にチャキマルの称号と一号から十五号までの番号を与えた。
チャキマルの名前の由来は、チャキマル一号であるクワガタのハサミがチャキチャキ動いていたから。ただそれだけの理由だった。
家からスイカやシロップを持ってきては、木の枝に垂らし、虫達に与えていた。時には喧嘩をしている虫達をなだめたり、相撲をさせたりして遊んでいた。
そんなお盆を過ごしていたのだが、お盆の最終日、秘密基地に猫がやってきた。元の色が何色なのか分からないほどに汚れた、あちこちがハゲている、ボロボロの猫だった。
野良猫というものは、こちらが近づこうとしても、逃げてしまうもの。少なくとも今まで出会った野良猫は、皆そうだった。しかし秘密基地にやってきた野良猫は、違った。元は飼猫だったのか、か細く小さな鳴き声を発し、秘密基地へと近寄り、少しだけ躊躇しているようだったが、中に入ってきたのだ。
小動物に好かれたのはこの時が初めてだったので、凄く凄く、嬉しかった。その猫は触る事を躊躇ってしまうほどに汚れていたのだが、公園から水を汲んできて体を拭いてあげたら、見違えるほどに綺麗な白色になった。僕が持っていたお菓子を与えて、家から牛乳と魚肉ソーセージを持ってきて、与えた。猫にチャキマルの名前を与えて、少ないお小遣いから猫用のご飯を買って、与えた。
やはり元々飼猫だったらしく、去勢されていた。だからなのか、僕が側に居る時は、物凄くおとなしかった。
僕の膝にお尻をピタッとくっつけて、眠っていた。僕が自分の家に帰ろうとすると、ニャーと鳴いて僕を引き止めていた。
そのチャキマルの死体が、蹴っ飛ばされて、毛皮が剥がれ、肉が見え、ボロボロの状態で、転がっていた。
「チャキマル」
僕はチャキマルの死体の前でしゃがみ、素手のまま地面を掘る。
もっと早く、埋めてあげればよかった。
ごめんね。ごめんね。
「チャキマルは、僕と出会って、不幸だった?」
木々で太陽の光が遮られ、時期のせいか虫の鳴き声も無い、寂しく薄暗い森林の中、僕は返事の無い質問を、震える声で呟いた。
立派な太い木を探してきて、チャキマルが眠っている地面の近くに、突き刺した。
明日、紙ヤスリと彫刻刀と塗料を持ってこよう。そして「チャキマルのお墓」と彫り、色を塗り、格好良く仕上げよう。
どうせ、他にする事も、行く場所も、無いんだ。
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