第7話 孤独

 教室に戻り、自分の席に座り、机にもたれかかる。その状態のまま目だけを動かして、クラスメイト達の様子を観察した。

 僕の視線に気が付いて目を離す人がほとんどな中、女子の一部には僕に嘲笑を向けている人も居る。

 なにやらボソボソと話しているようだが、僕の耳には届いてこない。

 僕は机に俯き臥せり、目を閉じてクラスメイトの話し声に、耳を寄せる。するとやはり「エイコ」や「宮田」という単語が聞こえてきて、僕に関する事を話しているのが分かり、より一層嫌な気分になってしまう。

 確かに僕は、一部の女子からはあまり好かれていない事は、知っていた。男子とばかり遊んでいる影響で自分の事を「僕」と呼ぶようになった僕の事を、影で「気持ち悪い」だとか「媚びている」と言っていると、噂で聞いた事がある。

 今まで実害が無かったし、なにより僕のほうが彼女達より影響力が大きかった。だから全然、気にしていなかった。

 しかし今、傷付いて弱っている僕には、他人の口から僕の名前が出ているだけでも、心が痛む……傷つく。

 教頭先生の話では僕の名前までは出てこなかったのだが、このクラスの人間は、何故だか僕が誘拐犯だという事を、知っている。だから絶対に、その事について、話しているのだろう……。

 ……聞かなきゃ良かった。そうは思うのだが、僕の耳はどうしても、女子達の話し声を拾おうと、研ぎ澄まされていく。

 僕はわざわざ自分から傷つきに行っている……なんでだろう。

 他人からどう思われているか? という好奇心が、そうさせているのだろうか。

 それとも、誰かが僕を、擁護してくれる事を、期待しているのだろうか。

 元々僕を嫌っていた奴らなんだ、擁護なんて絶対にされる訳が無いのに……何を、期待しているんだ、僕は。


 ……受け入れなければならない。

 このクラスには、僕の味方は居ない。

 僕は間違いなく、このクラスで孤立している。

 他のクラスの友達にまで、僕の噂が回っていない事を、願うばかりだ。

 僕の噂よりも早く、僕の弁明を聴かせる事が出来れば、あるいは……助けてくれるかも、知れない。

「うぅっ……」

 僕の口から、嗚咽が漏れた。そして僕は「そんな訳、無いか」と、小さく小さく、呟いた。


 こんなあからさまに、態度が変わるものなのだな……誘拐犯というだけで、こんなにも……。

 僕の事を好いているような男子だって、居たじゃないか。それも一人二人では無い。結構な数の男子が、僕の事を好いていると、思っていた。

 何故なら僕は、休み時間毎に誰かしらから遊びに誘われていた。男子から女子を誘うという事は、このクラスでは僕にしか起こらない事。

 女子に人気のスポーツ少年も、勉強が出来るガリ勉君も、その他の有象無象だって。僕に高い頻度で話しかけてきていた。

 かなり、有頂天になっていた。優越感を抱いていた。

 しかしそれは、まるで嘘だったかのように。無かった事のように。何も起こらない。

 僕だったら、どうだろう……誘拐犯に、話しかけるだろうか?


 そう考えて数秒。すぐにたどり着いた結論は「話かけないかな」というものだった。


 だって他に、いっぱい、友達は、居るんだし……。

 そんな気持ち悪い事をする人間に、わざわざ話しかけたり、しない。

 しない……しない……。

 私だって、しないんじゃないか……。

「うっ……うっ……」

 日常が、恋しい。

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