三話 暴発
「ねえ今すぐ言って。
この場で。早く」
どうしてこんなことになったのかわからない。
僕はパンツ一枚で正座させられて、般若のような顔をして仁王立ちしているタクミさんに見下ろされていた。
原因は少し前のことだった。
予兆は確かにあった。でも見逃していた。
出社して、挨拶をしたけどそっけないところで異変に気が付いて謝っておけばよかったんだ。
夜、いつものようにご飯に誘ったときは笑顔だった。
「朝は忙しくてそっけなくしちゃってごめんね?」
その台詞を信じた僕が甘かったんだ。
食事を終えていつものように体を重ねて、一息ついてシャワーでも浴びようかなと思って席を外したのが致命傷だったんだと思う。
シャワーから戻ってくると、そこには俺の携帯端末を握りしめて般若のような表情で仁王立ちしているタクミさんがいた。
「ねえ、なんで怒ってるかわかる?」
有無を言わせない圧力に思わず僕はパンツ一枚で正座をして、気まずさのあまり俯く。
なんで怒ってるのかは想像がつくんだけど、でも、腑に落ちない。
これは何か答えたら烈火の如く怒り狂うパターンだな?サツキの時もあったぞーなんて何かの防衛本能なのか頭の中ではやけに呑気な思考が駆け巡る。
「確かにね、今まで通りにしてあげてとは言ったけどね…でも、本当に今まで通りにしてメッセージでいちゃつくのはどうなの?わかる?」
「はい。本当に…タクミさんの言葉に甘えずぎて軽率なことをしてしまったと思っています…」
おいおいそりゃないぜ…とは内心思っていたものの、神妙な顔を作って出した回答がベターだったのかタクミさんの表情が気持ち和らいだ気がした。
「まあね。サツキだっけ?このメンヘラね…確かに自殺とかほのめかしてるし、優しいミーくんがつい優しくしちゃうのもわかるよ。
でもね、やっぱり…今まで通りって言ってもこれはないと思う」
おっと、メンヘラ呼ばわりだ。これは相当ヘイトを稼いでしまったらしい。大人の余裕とはなんだったのか。
いや、確かにサツキに愛してるよとか、今は君しかいないよとかメッセージで送ってた僕も確かに悪いんだけどさ。
でもそれはタクミさんの言葉を信じたからってのと、早くサツキには立ち直ってもらって元気になってもらって他の彼氏を作って欲しいと思ったからであってヤッホー公認二股だーなんてはしゃいでいたわけじゃないんだ。
いや、確かにちょっとそうなったらおいしいかなーとも思ってた部分はないとは言い切れないんだけど。
「そうだよね…俺もわかってたんだけど…タクミさんに甘えすぎてたよ…。
本当にタクミさんの思いやりを踏みにじっちゃったよね…ごめんね…」
結局いつもこうなるんだ。心と頭を無にして、欲しい言葉を当てるクイズゲーム…リズムゲームの方が近いかもしれない。割と回答時間はシビアだし、無回答が正解なんてのも多いのでクイズゲームよりも難しいのかもしれない。
タクミさんは、俺の神妙そうな顔を見て少し表情を和らげたものの、やはり何か気が済まないのか再び唇をキュッと結んで怒りの表情を作ると僕の携帯端末を、僕の胸に突き付けながらこう言った。
なんでこうなったのか現実逃避がてら回想をしてみたけど、やっぱり微妙に腑に落ちない。
「ねえ今すぐ言って。
この場で。早く」
つまり、今この場でサツキに電話をして、タクミさんという彼女がいるということを告げろということなんだろう。
なるほど。これはどうしようもない。逆らったらめんどくさいな。
でもサツキに電話するのもめんどくさいんだよな。
「やっぱり私よりこのメンヘラが大切なの?
違うなら早く話してよ」
あまりのめんどくささに回答が遅れてしまった。タクミさんは露骨に苛立っている。
あなたも今十分メンヘラですやんという一言を飲み込んで僕はタクミさんから携帯端末を受け取ると、覚悟を決めてサツキの電話番号をタップした。
出来るなら出ないでくれ…寝ててくれ…。でもさっきまでなんかメッセージ着てたな…起きてるかなーまじかー出るなよー。
そんなことを思いながら僕は針の筵の上にいるような気分で携帯端末を耳に押し当てた。
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