第30話 文化祭


文化祭が始まり渚は手伝いと言う名目で星城高校に行ってしまった。

湊の話では東都女子は星城高校でもお嬢様学校として人気があるらしい。

星城高校の校門には星天祭の文字が書かれているアーチがあり、校庭に一歩踏み込むと熱気が漲っている。

客引きと言うか宣伝が物凄い。サッカー部がフットサルをしていたりバスケット部が3ON3をしていたりしている。

その他にも運動部が模擬店やアトラクションを行っている。校内ではお化け屋敷や占いの館に展示室などがあるのだろう。

それよりなにより本格的と言うか真剣そのもので驚いてしまう、リポートを提出するだけの事はあるらしい。

汐さんと校内に入ると講習した時の生徒から声が上がったり手を振ったりしてくれる。

「人気があるのね」

「講習に来た時の生徒さんですよ。それに目立っているのは汐さんもだと思いますけど」

「そうかしら」

背が高い俺の横に容姿端麗の汐さんが目立たない筈がない。湊の教室に近づくと人だかりができて列をなしている。

直ぐに桐野先生が声を掛けてくれた。

「神流さん、こんにちは」

「その節はお世話になりました」

「こちらへどうぞ」

特別扱いはどうかと思うが関係者と言う事なのだろう。教室の中はハイビスカスの造花などでディスプレーされていて。

サービスする生徒は黒のカフェエプロンに紅型の手拭いを長方形に切って縫い付けてあり可愛らしい感じに仕上がっている。

「あっ、未来とママだ」

「頑張ってるな」

「うん、未来のおかげだよ」

机をカウンター代わりにしているキッチンを覗き込むと忙しそうに動き回っているが盛り付けも綺麗に出来ていて人気の理由が判るような気がする。

席に案内されてハイビスカスティーを頼むと林君がチョコレートコーティングされ刻んだピーナッツが付けられたちんすこうも一緒に持ってきてくれた。

「ありがとう」

「神流さんには色々とお世話になったから」

「湊の事を宜しくね。彼が湊と実行委員をしている林君だよ」

「真面目そうな良い子じゃない。私からも湊の事をお願いしたいな。あの子はやんちゃなところがあるからね」

林君が真っ赤になっていると湊が飛んできた。

「もう、ママも未来も止めてよね。林君はクラスメイトなんだから」

「あら、クラスメイトとして宜しくねと言ったつもりなのだけど。ね、未来君」

「まぁ、そうだな」

「もう少しで交代だから一緒に校内を回るから待っててね」

湊が赤くなり林君の腕を掴んで連れて行くのと入れ替わりに渚がやってきた。

「大人気でしょ。未来さんのおかげだよね」

「俺は手伝いをしただけだよ」

「でも、この紅型のコースターだってエプロンだって未来さんの助けなければ出来なかったんだしさ。コースターなんか飛ぶ様に売れて残り少ないんだよ。それにエプロンを売ってほしいなんて人も居るんだから」

お茶を飲んでいると人目を集めてしまう。しばらくすると湊が交代して嬉しそうにこちらに走ってきた。


「それじゃ、行こう」

「そうだ、今日は湊が主役なんだから未来さんと2人で回ってくれば。私はママと回ってくるから」

「ええ、渚と未来が良いのなら別に構わないけど」

了承すると湊が腕に飛びついてきた。汐さんも渚と一緒なら安心だろう。

渚に腕を掴まれたまま校内を回るとあちらこちらで手を振っている生徒がいる。講習を受けた生徒なのか渚が人気があるのか?

お化け屋敷なんかも毎年の様に歴史や成り立ちを調べているのだろうか。そんな事を考えていると湊に突っ込まれてしまう。

「未来は他の事を考えていて楽しいのか?」

「まぁ、それはそれで面白いけどな」

湊に案内されながら模擬店や展示を見ていると汐さんと渚の姿が見える。

しかし2人のそばには東京支社で汐さんをアフターに誘っていた男性社員の姿があった。

スーツ姿ではないが間違いないだろう。

「未来、ママは誰と話しているんだろう」

「支社の営業の人かな。最近、汐さんは柔らかくなってきたからね」

「それって未来のおかげだろ。でも、あんなに風に未来以外の男の人と話しているの初めて見たよ。そう言えばママに家族の分と別に文化祭の招待券をもらってきて欲しいって言われたけれど」

「良い事なんじゃないのかな。コミュニケーションは大切だからね。ほら時間がないんだから行くぞ」

湊を促してその場を立ち去る。立ち去ると言うより逃げ出したと言う方が正しいかもしれない。

アフターの誘いが文化祭の招待券のお詫びだとすれば納得いく。腑に落ちないのは彼が独身だったと言う事で、身内が居ない限り文化祭に興味があるようには見えない。

何かモヤモヤした感じがあるが掘り返すべきではなく気に留めない事が一番いいのだろうと思った。


数日後。

「未来はお化けとか幽霊って信じる?」

「目に見えないのが存在していたって不思議じゃないだろう」

「実はさ文化祭で幽霊が出たって話で学校中大騒ぎなんだよね」

「もう、湊は怖い話をしないでよ」

渚が怖がって汐さんの腕にしがみついている。汐さんはそんなことを気にも留めないでカップに口をつけて紅茶を味わっていた。

「非科学的ね。どうせ模擬店か何かのお化け屋敷でとかそんな話なんでしょ」

「違うよ」

湊が猛烈に講義しているが汐さんは呆れた顔をしている。

現実的というか俺が笑うと汐さんに睨まれてしまった。こんな幸せがいつまでも続いて欲しいと思い願ってしまう。




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