Shoot it !
北西 時雨
Shoot it !
私、
私も含め、その場にいた全員のスマートフォンや携帯電話がけたたましいアラーム音を鳴らし始めた。
驚いてポケットから取り出し見てみると、【避難警報:巨大隕石襲来】と大きく書かれた赤い文字と、今から48時間以内に県内全域に被害が及ぶレベルの隕石が降ってくるから早く避難しろ、みたいなことが記されていた。
それを確認するのとどちらが早いかというタイミングで、町中の人々がパニックになりながら走り出していた。
私はその警告がにわかに信じられなくて、いつも使っている大手ニュースサイトにアクセスする。
いつもよりカクつきながらも開くと、目に飛び込んできたのは「巨大隕石」や「世界終焉!?」などの見出しと、尾を引く火の玉の写真だった。
「マジですかぁ……」
思わず呟く。
周りのざわめきがだんだんと大きくなって、誰とはなしに駆け出していた。
「どこに逃げろってのよ……」
警報にはどこまで逃げればいいとは書かれていない。影響が県内なら、そこから出ればいいのだろうか? しかし、この混乱の中、駅へ向かうのは自殺行為だ。
思案しているとスマートフォンが振動し始めた。
電話だ。父親から。仕事中のはずだが。
驚いて出る。
「パパ!?」
『朱里だな? 怪我とかしてないか? 今モールの前にいるな?』
「そうだけど……なんで分かるの?」
「詳しい話は後でする。折り入って頼みがあるんだ」
「なによこんなときに!」
『こんなときだからだ』
いつもとは違う真剣そうな声に、私は黙って次の言葉を待った。
『隕石を迎撃してほしい』
「はっ??」
父親は私の反応をスルーして話を続ける。
『うちの裏山に天文台があっただろう?』
「最近行ってないけどね」
『あれが隕石迎撃用の砲台になる。今から20分以内にそこまで行って操作してきてほしい』
「はぁ!? 私にできるわけないでしょ!」
『今からお前のスマホにアシストソフトをインストールする。指定の場所にセットすれば、あとは言うとおりに使えば問題ない』
「そういう話じゃ……」
『お前にしか頼めないんだ。引き受けてくれないか……?』
そんな切羽詰まった風に言われても困るのに……。
「……分かった。終わったらちゃんと説明してよね」
それにしても、ここからあの天文台まで行くのに20分は結構ギリギリだ。
『道の混雑度を考慮して算出した最短ルートだ。この通りに走ってくれ』
そう言われてスマートフォンを見ると、勝手に地図アプリが立ち上がっていて、現在地から天文台までのルートを示していた。
――いつの間にこんなギミック仕込んだんだ。帰ったら絶対アンインストールしてやる。
『頼んだ』
電話口の向こうで、一方的にそう言って切られた。
人の流れと逆行するように路地を進む。今のところ地図の通り、順調に進んできた。これなら間に合うかもしれない。
「あれ?」
ふと地図を見返すと、ある地点を避けるようにルートが設定してあった。国道の広い道で、そちらから行った方が近いはずなのに。
「なにこれ」
よく見ると、道の真ん中がシミのように黒く抜けていた。画面についた汚れかと思ってこすってみたが違うようだ。
寄り道をしている場合ではないのだが、そこが通れればより近道のはずだ。
思い切って近くまで寄ってみる。
路地から件の道に出ようとしたが、何があるか分からないと思い直す。スマートフォンのカメラを起動させフラッシュのところを手で押さえながら、レンズだけ建物の影から突き出し、なるべく静かに撮影した。
撮れたものを確認する。
「おーぅ……」
これは避けた方がよさそうだ。
ラストの坂道ダッシュが効いた。
私は息を切らせながら天文台のドアを開ける。多少埃っぽいが、最後に来たときのままだ。
巨大な望遠鏡の脇に、ちょうどスマートフォンが差し込めそうな枠があった。
「これかっ」
スマートフォンを差し込むと、ガチャリとはめ込むような音がして、画面が切り替わる。
望遠鏡を中心に光の輪が出てきて、天井からブザー音と無機質な声が響いてきた。
『認証コード確認。モードS起動します。線の外側に退避してください』
慌てて退くと、鏡筒や他の部分がグルングルンと回転して変形していく。同時に、天体観測用の窓が開いて、砲身が夕暮れの空に突き出す。
『指定のコーナーに立って、イヤーマフを装着してください』
新しくできた照準台のようなところに立ち、大きなヘッドホンらしきものを耳に着ける。
目の前のパネルに、様々なパラメーターやマーカーが点滅している。
方角は東。夜が近くなり星がチラチラ瞬く中、不自然に一際煌々と輝く赤い彗星のような光の尾。
ハッとなってレバーを握る掌に汗が流れるのを感じた。
『システム、オールグリーン。対象がマークに入りましたら、レバーを引いてください』
無感情なアナウンスと相対して、耳元で次第に鼓動が大きくなるのを聞く。
画面上でフラフラしていた十字がピッタリ重なりピピピッと音が鳴る。
(今だっ)
レバーを引こうとするが、ピクリとも動かない。
「なにこれ固っ」
私は焦って力任せに引っ張るが動かない。やけくそになって、両手でつかみ、全体重を使いのしかかるように引っ張った。
動かなかったらどうしようという考えが頭をかすめた瞬間、ガコンと急に動いて転びそうになる。
「きゃっ」
体が傾いた拍子にヘッドホンがずれないように手で押さえる。
次の瞬間、砲身の先に光の粒が集まっていくのが見えた。それが
あまりの光景にしばらくポカンとなる。
「やった……の……?」
私は、窓の外と画面を交互に見やる。日の沈んだ空からいくつもの流星が散り、画面の中にいた彗星は粉々になっていた。
それを確認すると、一気に力が抜けてきた。
私は、ため息を吐きながら、埃の積もった床に構わず大の字に寝転がった。
Shoot it ! 北西 時雨 @Jiu-Kitanishi
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