第47話 将来へのきっかけ
ジョンは自分のやりたいことがなんであるか、を見出そうとしていました。スポーツが好きで、今までスポーツに関連することを勉強し、研究し、そして仕事として携わってきました。それ以外なことは100%のチャレンジになります。例えば会社を作ったり、商売を始めたり、などはチャレンジで面白いのですが、スポーツに対するような情熱を持てることはなにもありませんでした。今でも野球以外でも、バスケットボール、サッカー、そしてフットボール(ヨーロッパではフットボールとはサッカーのことですがここはアメリカ、アメリカンフットボールのことです)などは実際に良く観戦に行ったり、スタッツ(統計資料)をホビーとして作って研究したりします。やはり、一番好きなのはスポーツです。ケビン父さんのチーム改革の仕事の依頼があると、今でもケビン父さんと一緒に全米を回っていろいろな仕事の手伝いをすることがあります。やはり、スポーツは楽しいものです。ジョンにとっては。
ジョンは自分の将来を決めあぐねていたある日、ケビン父さんに連れられてニューヨークに出掛けることになりました。仕事は、簡単なもので、ケビン父さん一人で出来たのですが、将来を悩んでいるジョンのために「気分転換」になるだろう、と連れていってくれたのでした。勿論、ニューヨークにはダスティン、アレクサンドラ、そして生まれたばかりの赤ん坊がいます。ダスティンは、ロビンソン財団から依頼された全米の少年野球育成のマネージャーとして活動を開始していましたが、生まれたばかりの子供のために、ロビンソン財団があるニューヨークにいましたし、秀喜もその他の仲の良かったヤンキース選手たちとロードに出ていなければ会えるかもしれないので、ジョンはワクワクしていました。ケビン父さんの狙いはそこだったかもしれません。シカゴからニューヨークへは2時間少しのフライトですがジョンにはそれ以上の長さに感じました。
ジョン・F・ケネディ国際空港、ニューアーク・リバティー国際空港と共にニューヨークを代表する空港であるラガーディア空港にはダスティンが迎えに来てくれていました。全員再会に大喜びです。さっそくダスティンは自宅にケビン父さんとジョンを呼び、アレクサンドラと新生児を紹介しました。名前は「エイドリアン」です。勿論、エイドリアン爺さんから名前をもらったわけですが、ロビンソンの家系ではなくマクドナルド家から名前を取ったことには、ダスティンの心からの感謝がうかがえるものでした。
「マクドナルド家に養子に入ってから、口には出せなかったけど、僕の人生を新しく育ててくれた、という感謝の気持ちさ」と、ダスティンは言います。エイドリアン爺さんがこれを聞けばどれほど喜ぶことでしょうか。
その日はダスティンが強引に二人を引き留め、ダスティン家に泊まることになりました。つい最近までヤンキース一軍の選手でしたので、二人に別々の部屋を用意できる程度の豪邸に住んでいました。しかし、ダスティンは、
「子供が落ち着いたら、もう少し狭い家に移るよ。少年育成マネージャーでは高額な給料はもらえないから、身分相応な家を買うのさ」と、ダスティンは言います。しかし、その顔は希望に満ちていました。
翌日、ケビン父さんとジョンは仕事を済ませ、ホテルにチェックインすると、秀喜からメッセージが届いていました。ヤンキースはロードから前日に帰ってきたので、その日は完全休養のオフ日にしたかったのですが、あいにく、流れた試合のためにダブルヘッダー予定されていて、早めに球場へ行くので昼食はどうか、というメッセージでした。ケビン父さんとジョンの仕事は午前中でしたので、秀喜の携帯電話にOKである旨を伝えました。それなら、というので、ダスティンも時間があれば、と呼ぶことにしました。秀喜もホルヘ(ポサーダ)もつれてくることになっていました。
昼食は秀喜が手配をしてくれました。ヤンキースと契約している安全に食事ができるレストランで食事することになりました。しかも、ヤンキー・スタジアムに近いところです。(現在のヤンキース・スタジアムとは違って、当時はまだ治安が良くないブロンクス地区にあったからです) ケビン父さんとジョンが先に到着、続いて秀喜とホルヘ、そしてダスティンが到着しました。勿論ヤンキースに全員が揃っていたころの話が中心です。ケビン父さんはその会話に、いろいろな裏情報を織り交ぜながら野球談議に花を咲かせました。
この後、5人は徒歩で球場に向かい、宿敵ボストン・レッドソックスとの第一試合だけをケビン父さん、ダスティンそしてジョンに見ていくように勧めてくれました。時間に十分な余裕があったのでぞろぞろ歩いて向かうことになりました。治安が良くないとはいえ屈強の5人の男が襲われることはありません。しかも、元ヤンキースを含めて3選手がいるのですから、サイン攻めはあっても、強盗などの事件性はないでしょう。
この時、ダスティンとジョンは将来を決定づける事件に遭遇します。5人が歩いていると、金網の向こうで、子供たちが野球をしていました。ブロンクスでは子供が広場でやるスポーツは野球かバスケットボールと相場が決まっています。その子供たちをダスティンがじっと見つめています。
「ヘイ、君たち!野球は好きかい?」
声をかけられたピッチャーの少年はボールをポトリと落とし、口をあんぐり開けたままです。すると、一人が「Matsui!」と叫びました。続いて「Posada!」、「Robinson!」、と合唱が始まり、殆どの子供たちが集まってきました。ケビン父さんはみんなに向かって叫びました。「おいみんな、おじさんたちと試合するかい?」
黒人の子が多かったせいもあって余計にみんなの目が大きく開いているように見えますしかし、全員が興奮しています。ケビン父さんは、ダスティンとジョンに向かって、「子供たちの『目』を見てごらん?」と、言いました。野球へのあこがれ、ヒーローへのあこがれ、本物へのあこがれ、といろいろあるでしょうが、この純粋な目がスポーツなのです。秀喜もホルヘも参加して5人対9人の試合が始まりました。ピチャーはダスティン、キャッチャーはホルヘ、一塁にケビン父さん、ショートストップの位置にはジョン、そして長打が出ればかわいそうですが秀喜が守ります。勿論、ダスティンは真剣に投げず、下手投げです。(大人の下手投げではなく子供用のフワッと投げるボールです。
3回までの試合でしたが、大人チームのボロ負けでした。子供たちも大人が手を抜いてくれていることを知っていました。勝ち負けではなく、有名な本物のヒーローと一緒に野球ができることが最高に幸せなのです。試合の後、子供たちの中でピッチャーとキャッチャーはダスティンとホルヘのところへ、野手は秀喜とジョンのところへ集まりミニ野球教室をやりました。子供たちは真剣に「一言も聞き逃さない」姿勢でプロの、しかもヒーローの言葉を聞いていました。どの子も本当に幸せだったに違いありません。秀喜とホルヘの集合時間が迫っていましたので切り上げて終わりにするときの寂しそうな「目」を見ながら、みんなとハイタッチで別れました。その際に、ボールにサインをすればよかったのですが、そこには3個しかなく、ケビン父さんは住所を聞いておきました。ヤンキース・タジアムに到着してから子供の人数の18人といつも来ているほかの子を合わせて25個のヤンキースロゴ入りのボールを買い求め、5人ともサインをして送ってあげました。
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