第43話 その後のジャイアンツとジョンのセオリー

   1999年度のジャイアンツは投手陣の不安定さが出て、結局、セントラル・リーグの2位に終わりました。長嶋監督は、

「投手陣がうまく機能しませんでしたね~」、と記者会見で一言述べましたが、この年からジョンが提案したセオリーが徐々に浸透していき、それに乗り遅れたベテランで前年に二ケタの勝利を挙げていた斉藤(5勝)と桑田(8勝)が実力を発揮できず敗因の大きな一因でした。その代わり、ダスティン(13勝)とドラフト1位で獲得していた上原浩治が20勝をあげ、新旧交代のにおいを醸し出した結果となりました。

「中日さんが調子よすぎましたね~」、と監督は言います。事実、スタートダッシュで成功した中日は貯金を最終的に27と独走態勢でした。ジャイアンツも、ゲーム差1.5まで追従しましたが、結局追いつけず2位となったのでした。しかし、収穫もありました。それはジョンの提唱するセオリー野球が定着しつつあったことです。ジョンのセオリーは単なるアメリカ式の数字管理野球ではなく、日本人の風習や習慣までも加味した内容となり、選手間でも評判かいいものになりつつありました。ジョンは個人個人の体調や体力、筋力、生活習慣、などを加味した個人分析も加味していますので、当然、選手にはとっつきやすいものでした。

  ピッチャーに関する内容では、例えば、2ストライクの後に、必ず外角に1球外す(ボールを投げる)という、昔から日本野球で行われているセオリーをジョンは変えました。ジョンは外角にわざと外すボールをインハイに投げさせたのでした。これにより、次の1球でアウトローのストレートまたはスライダーという対角線に投げるとまず、バッターは空振りをします。インハイはバッタによって「手を出しやすい」ボールでもあるので、ひょっとするとその時点で三振を取れるのです。 それにバッターの心理状態から言って、0-2(ノーボール・ツーストライク)からは勝負してこないだろうという心理があるはずです。従って、この心理の逆をついて、思い切ってど真ん中にストレートを投げると、見逃し三振が取れたりします。勇気があるピッチャーにはこれができるのです。ジョンが考える2ストライク後の1球は、(1) 次の球を生かすための1球であり、あわよくば空振り三振が取れるという理由でインハイへのストレート(ボール球)(2) 勝負してこないだろうという打者心理のウラをかく投球であり、見逃し三振を狙ったアウトローへのストレート(ストライクゾーン)を投げる。また別の例では、カウントが3ボール2ストライクになると、ランナーが一斉にスタートします。これは、ボールなら見逃してフォアボールになり全員が進塁出来、ストライクならゴロを転がせばランナーが進塁できるという理由からです。 しかし、ランナーの心理から言って牽制球があるのは判っていても、内野ゴロなら次塁に進まなければならない、との焦りがあります。この時に、一塁に牽制球を送り、即座に2塁に牽制球を送ります。2塁ランナーが鈍足の場合、いったん離塁して、牽制球が一塁に送られた時点で、

「俺には関係なかった」

と思い、さらに大きく離塁する傾向があり、2塁ランナーをアウトにできることがあるからです。それに、すべてのランナーが離塁しており、タッチプレーになりますが複数のランナーをアウトにできる可能性があるのです。

バッターに関しての一例は、率に関する内容です。これはプレーのセオリーではなく、分析方法となります。「アニュアル・アベレージ」という考え方です。単純に言うと年間の「全獲得塁/全アウト数」となります。打率は、よくメディアが取り上げる出来、不出来のバロメーターですが、ジョンは全獲得塁を違った観点から作り上げました。打率だけですとヒット(一塁打)でもホームランでも「1安打」ですが、ジョンの新しい分析ではシングルヒットは1、2塁打なら2、というように獲得した塁打を点数とします。さらに、バント(犠打)や相手のエラーでも点数を付けます。満塁ホームランなら、自分の4点に加え、他のランナーの進塁合計6点を加算し、合計10点になります。フォアボールでも1点で押し出しなら合計4点になります。盗塁でも1点を与えます。全アウト数は、凡打(ごろアウトやフライアウト)、三振、盗塁死、けん制死などを含めた全アウトの累計になります。この一種独特な査定方法で全選手が俄然、動きが活発となりました。

    ジョンのセオリーをみんなが使い始めて、2000年のシリーズでは見事に日本一に輝きました。ダイエーから工藤投手を、阪神からメイ投手をそれぞれ獲得し、野手陣では広島のスラッガー江藤を獲得し、「ミレニアム打線」と呼ばれる打線を形成した。さらに、この日本シリーズでは相手がかつての朋友である王監督が引き入るダイエーホークスとの試合でしたので、ON対決として脚光を浴びました。しかし、表には出ない功績として、ジャイアンツはジョンのセオリー(理論)を高く評価してくれました。

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