第40話 ジャイアンツからの連絡

   それから一週間後のある日に、ダスティンのエージェントからダスティンが正式にジャイアンツと契約を結ぶことが決まったと連絡がありました。ダスティンは早速、ケビン父さんに連絡をしました。少なくとも彼は1998年度にジャイアンツの「外国人助っ人」として日本でプレーすることになったわけです。半同棲生活をしているアレクサンドラとはすぐにでも婚姻を結んで日本へ一緒に行くことになった、とも言ってきました。これから、体調をシーズンに合わせて絞りなおし、肩・肘のケアを万全にすることになります。また、日本語も勉強しなくてはいけません。通訳をジャイアンツが雇ってくれるようですが、チームメートとは通訳なしで会話したいと思っていました。義母であるミミは日本語がしゃべれるので、週に一回程度、「日本語講座」を開いてくれることになりました。とはいっても、ミミ母さんと日本語で話しながら、メモを取って丸暗記をする、という、外国語を学ぶ上で、日常生活に必要な会話を中心にマスターできるようにする訓練でした。

   しかし、ジョンについてはいまだにジャイアンツからの連絡はありません。どうしたのでしょうか?勿論、不安はつのります。ジョンがやきもちしている状態ですが、もっとうろたえているのはシドニーです。決まればジョンについていくのか、結婚はするのか、だめなら、自分はどうするのか…。不安は不安を呼び、彼女の心の中に大きな穴を作ってしまいました。ジョンは、自分のことばかりが気がかりでしたが、ミミ母さんが、「ジョン、あなたが心配しているのはよくわかります。不安でしようがないのでしょう?でも、シドニーの立場になってみれば、彼女がどれだけ不安定な状態か考えなさい。心配かけまいとジョンには何も言わないでしょうが、愛しているのなら、安心させないように話し合いなさい!」と、女性としての適切なアドバイスをくれました、ジョンは、久しぶりに母親の鉄拳を食らったような気分になりました。

   それから間もなく、ジャイアンツから正式なオファーがきました。驚いたことにその内容は、一人のコーチと同じ待遇でした。勿論、ベンチ入りも可能です。破格の待遇と言えます。長嶋監督の思い入れが強いことがうかがえます。

「父さん、ちょっとこれを見てよ。この仕事の内容はすごく幅があってびっくりしているんだ」。

ジョンが受け取ったメールにはびっしりとジャイアンツからの要求事項が書かれていました。まとめると全一軍選手の身体能力向上、選手ごとの特徴の増進と弱点の補強、チーム全体の練習・試合理論の管理などで、データをもとに分析し活動してほしいというものでした。文字にすると難しいのですが、要は選手の本領を可能な限り発揮させる仕事、ということになります。

   このジャイアンツの要求には球団から送られてきたデータだけでは不十分で、理論を成立させるには新しいデータを作成する必要があります。ダスティンは当然スプリング・キャンプから参加するように、との連絡ですが、ジョンに対しては年明けの1月からの開始を希望されています。そのためには、どのようなベースボールセオリー(野球理論)を推奨するかをケビン父さんと話し合い、そのためのデータ作りをどうするか、どのくらい時間がかかるか、ジャイアンツがどう協力してくれるか、など不安材料がいっぱいです。ケビン父さんは、

「ジョン、そんなこと行ってから心配すればいいさ。どんな状況になっても、ジョンなら対応できるさ」と、言って安心させようとしています。「むしろ、ミミに聞いてシドニーとの生活の基盤をどう作るか、そっちを心配したほうがいいと思うよ。生活基盤をまず作ることが重要だよ。それにダスティンも遅れてだけれど、後から行くのだから相談に乗ってあげられるように準備したら」。

  ジョンは年末のホリデーシーズンの後、日本へ旅立ちました。シドニーは住むところが見つかり次第、合流することになりました。いよいよ日本での仕事が「プレイボール」となるわけです。

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