第39話 ケビン父さんと築いたジョンの理論

   翌日さらに新幹線で大阪に行き、高速バスで関西国際空港に行きました。ユナイテッド航空のシカゴ行に乗るためです。帰国後さっそく、ケビン父さんに報告をしようと思い、連絡をしました。時差ぼけは多少ありましたが…

「おいおい、そんなに急がなくても。だいたい本格的に調査するにしても、ジャイアンツの選手の資料が来てからだろう?」 ジョンは、もちろんダスティンと同じ球団で仕事ができることを大きな喜びに感じていましたが、1度だけですが会ったことのある長嶋監督と松井秀喜選手の「野球人」としてのまっすぐな姿勢の二人と一緒に仕事ができることが、たまらなく魅力でした。その日はケビン父さんが出かける約束のため、次の日に会うことになりました。

   手書き資料を整理し、パソコンに分類ごとに打ち直した資料をもって、翌日、ケビン父さんを訪ねました。ケビン父さんも長嶋監督と松井秀喜選手に好感を持っていましたので、ジョンのジャイアンツ入りの可能性が高くなったことを喜んでくれました。勿論、ダスティンのこともうれしく思っていました。

「決まってもいないのに、お祝いではないけれど、ジョン、ダスティン、それにシドニーとアレクサンドラの4人の旅行の成功を祝って、今晩、うちで食事をしよう」と、言ってくれました。ダスティンとアレクサンドラは来る約束だそうです。シドニーもアルバイト明けに来るようです。

   ジョンが話をしたかったのは、ベースボール・セオリー、つまり、いろいろな状況における常套手段があり、ジョンが用意したそれらの常套手段と、日米の違いでした。ケビン父さんもジョンが知りたがっていることの意味と意義は理解できましたので、当然、有意義な話し合いが持てました。例えば、ランナーが1、2塁にいて外野にヒットを次のバッターが打ったとします。当然、外野手が捕球した場所(ホームベースに近いか、遠いか)と捕球したタイミング(セカンドのランナーが3塁ベースをまわったのか、その手前なのか)によって、コーチは腕をぐるぐる回すか、大きく両手を開いて、ホームに突っ込むか否かを決めるものです。また外野手はダイレクトにホームに投げタッチアウトを狙うのか、中継に投げて1塁ランナーを3塁に行かせないか、の選択があるわけですが、メジャーではかなりの確率でキャッチャーに投げます。日本は殆どの場合、中継をはさみます。メジャーでは「レーザービーム」と呼ばれる外野手の返球が「ベースボールの醍醐味の一つ」とされ、この劇的な瞬間を観客に見せたがります。日本では、逆に中継の選手がホームベースでアウトもできますし、1塁ランナーを3塁に進ませないことを重視します。また、レーザービームでもメジャーではキャッチャーのミット直接を狙いますが、日本ではほとんどバウンドさせて、低い状態で補給できるようにします。この辺がセオリーに対する日米の違いと言えます。ケビン父さんは過去の調査でかなりの資料を持っているので、ジョンと二人で本が書けるくらいに膨大なものになりました。ジョンはその「ベースボールのセオリー」を用いて、ジャイアンツにいろいろな提案をするつもりなのです。

   4人の若者が揃ったのは、9時近くになっていました。

「ミミ(ジョンの母親でミサエ)、今日のこのライスはなんていうんだい?」と、ケビン父さんが聞きます。

「ちらし寿司。寿司というと生の魚と一握りのライスのことを思うでしょうが、いろいろな具材を酢飯と一緒に食べる、日本伝統の御飯ですよ!」

「これはおいしいや、君たちもおいしいものをいっぱい食べてきたんだろう?京都に行ったと聞いたから、きっと日本の伝統的な料理を食べたかい?」

「はい、どれもこれもおいしかったよ、父さん」

「ジョンは、ミミが日系だから日本料理は慣れているが、ダスティン、日本料理はどうだった?」

「とてもおいしかったです。え~となんて言ったかな? ああ、思い出しました…、when」

ケビン父さんはにんまりとして「9時半だけど~」

一同、大爆笑の夜でした。

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