第38話 京都旅行
これで採用は決まったも同じでした。ダスティンもジョンも一応なすべきことをすべて行いましたし、相手の反応も想像以上に良いものです。金銭面の解決が必要ですが、来シーズンから、つまり1998年度のシリーズから二人は日本のプロ野球リーグの読売ジャイアンツで入団することになるわけです。正式な通知は後日、エージェントや球団を通じて二人の元に送られてくることになります。これでダスティンとジョンの今回の日本旅行の大きな目的は達成したことになります。
シドニーとアレクサンドラはこんな二人を見て心から喜んでいますが、ダスティンとジョンは「恋人孝行」が残っています。二人は、ダスティンとジョンが真剣に将来のことを決めようとしている時に、東京見物やこれから行く京都についての話はふざけているようで、できるだけ差し控えることにしました。しかし、大筋で合意に達すことが決まった今、堰を切ったようにはしゃぎだしました。東京ではジャイアンツの職員の女性が観光ガイドを買って出てくれたおかげで、いろいろなところに行きました。浅草寺、東京タワー、原宿、銀座、と観光、ショッピングなどに精力的に見てきたようです。
翌日、4人は東京駅に向かいました。ダスティンの頭にはジャイアンツのキャップがのっています。お土産店で売っている後ろにサイズアジャスターがついているキャップではなく、ダスティンの頭のサイズに合わせた正式なキャップです。残りの3人はダスティンを見て吹き出しました。「もうジャイアンツの選手気分だね」と言ってからかいました。新幹線は快適でした。当時の新幹線の最高速度は270km/時とフランスのTGVやドイツのICEと競い合っていた高速列車ですが、揺れの少なさや安全面では世界一の技術だと聞いていましたので、4人ともその速度に驚きながら、ゆったりとした乗車を楽しんでいました。4人が乗った「のぞみ」の500系は流線形が美しい列車で、川崎当たりで最高速に達すると、ダスティンは大きな目を見開いて、「おい、空を飛んでいるみたいだ!!」と声を張り上げています。
シドニーは「京都ではガイドがいないので行ってみたい場所を選んでおいたんだけど、これでいい?」と皆に聞きました。とは言われても、ダスティンもジョンも全くチンプンカンプンです。内容は、京都駅に着くと東区の蹴上(けあげ)にある都ホテル京都 に荷物を置いて嵐山と渡月橋、京福電鉄嵐山駅から帷子ノ辻(かたびらのつじ)で乗り換えて、御室仁和寺、竜安寺、金閣寺、そして御所までバスで行きました。最後に四条河原町から八坂神社、三年坂を通り清水寺に行きました。
「おいおい、スプリングトレーニングよりきついよ!」と、ダスティンは三年坂で音を上げています。すかさずジョンは、
「もう暗くなってきたし、おなかも減ってフラフラだよ!」と、泣きを入れました。
「あんた方、プロのスポーツの世界にいるんでしょう!? これくらいなによ!」とシドニーは目を吊り上げています。結局、夕食にたどり着いたのは夜の8時で、初めて「棒鱈(ぼうだら)」を食べました。店名になっている「いもぼう」で代表されている料理は、海老芋とよばれる大きな海老の形をしたお芋と、北海道産の棒鱈(乾燥鱈)を炊き合わせた京料理で比べるものなき独特の料理でした。
「普通は肉中心で魚なんか魅力を感じない俺がおいしい!と思うこの魚、なんと言うんだ?」
「when」
「いつ、ではなく、魚の名前だよ」
「だから、whenという魚なんだ」
ダスティンは初めてwhenに魚の名前の意味もあることを知りました。勿論この会話の後、多少の日本酒のせいもあるのですが、全員大笑いの一夜となりました。
その後、ホテルに帰って来た4人は部屋に入り寝ることにしましたが、シドニーと同室のジョンは眠れませんでした。威勢の良かったシドニーはいわゆる「バタンキュー」の状態で、すぐに寝てしまいました。ジョンは、シャワーを浴びて寝ようと思ったのですが寝つきが悪く、結局、資料をまとめたり取ったメモをタイプしたりで、朝方、4時まで眠れませんでした。ジャイアンツの選手の資料をもたってからでないと、何も分析できませんが、思いついたヒントや、日本の野球の特徴などを克明に文書化し、ケビン父さんと話し合う準備をしていたのです。
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