第34話 その後のトレード話
1997年シリーズの前のhot stove league(日本ではストーブリーグと呼ばれています)ではヤンキース側がチーム内人事で荒れていました。日本から伊良部投手を千葉ロッテ・マリーンズから「すったもんだ」の後、獲得した。その時は、日本のノーラン・ライアンと呼ばれた選手でした。そのため、ピッチャー人の布陣にダブつきが発生し、ダスティンは術後の回復も「いまいち」の感があったためトレード要員となってしまいました。一人反対したのはキャッチャーのジョー・ジラルディで、ダスティンに目をかけていたチームのキャプテンでした。しかし、なんといってもオーナーがジョージ・スタインブレナーではどうにもなりません。もともと、スタインブレナー自身、伊良部選手の獲得に反対していたのですが、もめにもめた後、今度は一転して、「鶴の一言」で決まってしまいました。なぜに、態度が急変したのかは、今も不明です。
この決定があってヤンキースはダスティンの放出のための作業に入らざるを得ませんでした。長嶋監督のラブコールは「渡りに船」となりました。長嶋監督の思惑としてはジャイアンツのピッチャーの強化並びに日本の野球全体へ、ダスティンのような変化球の種類の多いピッチャーを紹介することで、打者の「目」を育てることも含む大きな考えがありました。しかし、松井選手は別の見方をしていました。確かに監督の考えているところに完全に同意をしていましたが、実際に対戦した自分にとって「肘が下がること」という悪い特徴は回を重ねると直球に伸びがなくなることや、「右左の両投法ができる」、「オーバースロー、サイドスロー、アンダースローを使い分ける」、「ピッチャープレートの位置を変える」など打者の感覚を狂わす投法は確かに変化に富んでいて、予測がつきにくいものの、ホームランは打ちにくいが、ヒットは打てる、と思っていました。それに、ダスティンが投げる前にほとんどが事前に分かるということです。松井選手はジョンがそのことを指摘したことに感銘を受けていましたので、長嶋監督にダスティンを獲得するのならジョンを分析官としてチームに加えてほしい旨、伝えていました。
結局、ダスティン獲得にはジョンの採用を条件にすることが条件として提示されました。放出すると決められた選手の獲得は条件さえ折り合えば意外にすんなり進むものです。ダスティンのエージェントは巨人の提示する金額をベースに交渉に入りました。ヤンキース時代の年俸以上の提示がなされていましたが、エージェントは「書き入れ時」ですので、少しでも高い契約金を目指すものです。ジャイアンツもそれは承知していて、ダスティンには悪いのですが「フリーエージェントの選手」扱いであることを材料として交渉をしました。エージェントも肘の問題を抱えた選手で放出された選手を従来以上の年俸を出すジャイアンツの説得に勝てない、ということになりました。しかし、ダスティン本人は「行け!」と言われたらあまり選択はありません。特にメジャーの他の球団が興味を示さない限り、日本に行くか野球をやめるかの選択となってしまいます。
しかし、ジョンに関しては全く別の話です。シカゴ大学出のスポーツ分析に優れたエリート青年を交渉するのは、エージェントもいませんし、やはりジャイアンツが球団として交渉をしなければなりません。ジョンに提示しなければならないのは金額の提示だけではなくて仕事の内容です。監督、コーチ、選手、トレーナー、通訳以外は、通常ベンチには入れません。また、人数制限があり、当然試合にプレーできる人数を多くしたいので、球団職員は球場の部屋から連絡を取ることになります。
ジョンは、ジャイアンツで何ができるか、何をさせてくれるかはジョンの希望を聞いてくれることになり、「何ができるか?」という不安とチャレンジ精神をくすぐられる誘いでもありました。ジョンはケビン父さんに相談することにしました。それに、ダスティンにもアレクサンドラがいるようにジョンはシドニーと分かれることに強い抵抗がありました。
「シドニーを連れていくか、いずれ結婚するのか、将来どうするのかはジョン自身が決めることだよ。よく二人で話し合えばいい事じゃないかな。ジャイアンツのためにできることは、いっぱいあって、全部完璧にこなせる訳がないから、ジャイアンツのために何ができるか、何がジャイアンツに役に立つのか、これからの話し合いで決めればいいだろう」
と、一蹴されました。ジョンも大人ですし、自分で決めろ、ということでしょう。そのため、ジャイアンツと話し合いをすることになりました。それにジョン自身日本の野球をよく理解していません。ジョンは過去に日本でプレーしたメジャーリーグ選手にインタビューをしましたが、「日本では4番打者にバントを命じることもあるんだぜ」など、断片的な事しかわかりませんでした。ジャイアンツもジョンの希望を受け入れ、ジョンをシドニーとともに受け入れることを約束しました。ダスティンも最終の移籍金が決まっていない状態ですがほぼ決定したのも同じで、その契約金の点に触れない、という条件でアレクサンドラとともに受け入れてくれました。遠足気分もありましたがジョンとダスティンの将来を決める大切な旅行となるはずです。
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