第33話 長嶋監督の考え
長嶋監督は非常に有意義なミーティングを持てたと感じていました。監督としての、チームを率いるチームを持つ責任者としての自分が、来シーズンに向けてどうすればセリーグで優勝し、日本シリーズで勝てるかをずっと考えていました。その考えの中で、今シーズンで負けた大きな一因であったイチローのようなヒットをシュアなバッティングで稼ぐ選手をどう止めるか、という策が見つかったと、今回のミーティングで感じていたのでした。そのためには、「イチロー封じ」のようなピッチャーが必要でした。ダスティンが一つの選択肢だと思ったと思うのでした。シカゴの後は、ニューヨークの訪問でしたのでヤンキースと話し合おうと考えていました。幸い、当時の監督であったジョー・トーリとのミーティングも予定されていたのでチャンスでした。
ジョー・トーリ監督は1995年にニューヨーク・ヤンキースの監督に就任するも、"Clueless Joe"(頓珍漢なジョー)と当時のメディアには酷評された監督でした。しかも、横暴なジョージ・スタインブレナーがオーナーで、人気も低迷していた時に就任した「焼石を拾った」監督でした。しかし、苦労したトーリ監督は、アンディ・ペティット投手やデレク・ジーター、バーニー・ウィリアムスといった若手のバッターを活躍させたことで、1996年のワールド・シリーズ優勝させたことで、一気に人気が上昇していた監督です。
ヤンキースのジョー・トーリ監督は優勝させた実力とともに、ジョージ・スタインブレナー・オーナーの横暴を押さえ、ある程度自分の考えを押し通すことができる権利を徐々に獲得していました。そのおかげで、ヤンキースの豪華なプライベートジェット用意し、シカゴ・オヘア空港からニューヨークのラガーディア空港まで何不自由なく移動したジャイアンツ一行は、次に、リムジンでホテルまで移動しました。ジャイアンツの一行といっても長嶋監督、松井秀喜選手、通訳、そして球団の随行員の4名でした。長嶋監督は、
「アメリカという国は妙な国だね。こんな長い車を作って素晴らしい乗り心地を作れるのに、みんなの荷物を入れる大きなトランクを作れないんですね~。」
一同、苦労してみんなのバッグを座席に山積みにして乗っていたので、長嶋監督のこの一言で「にこっ」としながら笑いをこらえていました。ホテルに到着すると、なんと驚いたことにジョー・トーリ監督自ら迎えに来てくれていました。人柄がよく出ています。松井秀喜選手は、ジャイアンツの4番打者で不動のポジションにいましたが、いずれは、チャンスがあれば大リーグで野球をしたいと思っていましたし、特にピンストライプのヤンキースとても強いあこがれを持っていました。 従ってこのジョー・トーリ監督に会うことを楽しみにしていました。
荷物の整理が終わって再びロビーに松井選手が下りていったとき、長嶋監督はすでにトーリ監督と通訳と3人で話していました。場所はロビー横のカフェテリアです。松井選手は遅れたお詫びを言おうと思って時計を見ると、まだ約束時間まで15分もありました。長嶋監督はそんなに早く話をしたかったんだ、と思いました。合計4人でコーヒーをすすりながらお互いの昨シーズンの戦績についての話に盛あがっていましたが、急に長嶋監督は、
「トーリ監督、お願いがあります。2~3年で結構ですのでダスティン・ロビンソン君をジャイアンツにトレードしていただけないでしょうか?勿論、監督の承認をいただければ、ヤンキース球団やメジャーリーグ機構、さらに日本のプロ野球機構とジャイアンツの球団には承認を得られるように話をします。移籍金額についてはエージェントを通じて、ということになるでしょうから、まだ決められませんが、いかがでしょうか?」
「長嶋監督、驚きました。本人はなんと言っていますか?」
「いえいえ、まだ話していません。球団を通じてダスティン君に昨日まで会っていたことはご存知だと思いますが、まず監督に話してから…と思いまして」
「お話は分かりました。ご存知だと思いますが、ダスティンはトミー・ジョン手術を受けて今はリハビリ中であり、過去のように投げられるかどうか分かりませんよ。ケビン、ジョン・マクドナルド親子にも会っていたと聞いていますが、ケビン氏は、ダスティンの肘のことをなんと言っていましたか?」
「たぶん、大丈夫だといっていました。ただし、肘が下がる投法は治っておらず、今後、リハビリの専門トレーナーをつけて、注意深く見守る必要がある、とも言っていました」。
「そうですか。では球団やピッチングコーチとも話し合いましょう。まだ、シーズンが終わったばかりですから、時間は十分にあるでしょう」。
「では、今後この件について、ご連絡を取り合いましょう。お願いします」。
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