第28話 ジョンの将来とダスティンの苦しみ(2)

   一方、ジョンは、将来の身の振り方についていろいろ考えていました。シドニーやケビン父さんとも話しましたが、「自分がやりたいことをやればいい」と言うだけです。勿論、自由にさせてくれることの裏には、家族としての愛情があるからで、それには感謝していました。本当に!

「しかし、自分の将来と考えたら、何が一番やりたいかが分からないんだ」。 これが本音です。

   ジョンは好きなこと、やりたいことを整理して考えることにしました。まず第一番目は、野球に関することでした。プロの野球、つまりメジャーにチャレンジすることも含みます。そんなに強くない野球部で得た知識は学業の目的と一致しているので、これが最も好きなことと言えます。第二番目は一番目と似ていますが、野球以外のスポーツに関する仕事です。そして、完全にスポーツから離れ、学業で得た知識の職業です。栄養管理し、肉体的なインストラクター、教育者、スポーツコメンテーター…、と職種には困りませんが、何が一番やりたいことなのかが分からないのです。

   そんなある日、日本人の2人のプロ野球関係者がシカゴ・ホワイトソックスに表敬訪問する際、ジョンとケビン親子と会いたいといっていることを聞きました。

「なんでも、日本ではヤンキースみたいなチームでその監督と4番バッターが視察のために来るんだって」 ということでした。ケビン父さん妻、つまりジョンの母親は「美佐江」(通称ミミ)ということもあるんですが、メジャーリーグの次には世界で最もしっかりとした野球の体制後整っている国だ、ということぐらいしか知りませんでした。シカゴ・ホワイトソックスの関係者で、ケビン父さんと友好を持っていたトレーナーから連絡がきた、というわけです。

   その二人の名前は、監督の長嶋茂雄と四番打者の松井秀喜という二人でした。セントラルリーグでは優勝したものの、日本シリーズではパシフィックリーグのオリックス・ブルーウェーブというチームに負けたそうですが、二人ともメジャーリーグに大変な興味を持っていたので、お忍びで(とはいっても、報道関係者が何人もくっついてきたようですが…)で来米したようです。日米両方ともオフシーズンに入ったばかりで、実際の試合は見学できませんが、チームづくりやバッティング・ピッチングのシステムを研究しに来たようです。松井秀喜というスラッガーはコーチでもないので、報奨旅行程度なのかもしれませんが、長嶋茂雄監督は二度目の監督業ということで、相当勉強してくる、と聞いていました。資料も何点か送られて来ていましたが、唯一のビデオにはジャイアンツではないオリックス・ブルーウェーブの選手が写っていました。「いちろう・すずき」という選手でした。

   ケビン父さんとジョンはそのビデオを見てびっくりしました。小さく細い体でボールに食らいつき、足が速くて、守りも完璧な選手です。アメリカにはこんな選手は一人もいません。勿論、アメリカの野球は「力と力の勝負」でドカーンと一発のホームランをファンが一番求めることなのです。このイチロー選手がバントからホームラン、ヒットから盗塁、守備ではレーザービームのバックホーム…ということができるのです。なぜ、ジャイアンツの監督と4番のスラッガーと話し合うのに他球団の選手を見せたがるのかは不明ですが、とにかく、こんな非凡な選手をジョンは見たことはありませんでした。

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