第27話 ジョンの将来とダスティンの苦しみ(1)
ダスティンのリハビリは順調とは言えませんでした。やることはやっているものの、握力や腕の振りの力が入らないのです。勿論、全力で投球はまだまだできませんが、順調とは思えませんでした。彼は、暖かいフロリダに残りリハビリを、チームが手配したマッスース(マッサージ師)やリハブ・ドクターとともに過ごしていましたが、絶好調の時にはなかったホームシックにもかかっていて、精神的に不安定な状態でした。アレクサンドラが傍にいると違ったのでしょうが、電話や手紙だけでは、心のもやもやは晴れませんでした。
ただ、同じチームに同じトミー・ジョン手術を受けた若いピッチャーが同じコンデミニアムにいましたので二人でいろいろな話をしたり、食事を一緒にしたりすることで気分を紛らわせることができました。トム・ジョーダンという選手です。トムは直球派の投手で、100マイル近いボールを投げられる投手で、投法は全く違うのですがどこどこの誰々は内角が撃てない、とかあいつは変化球が弱い、とか話題には尽きませんでした。時には二人でアルコールを飲むこともありました。同じような境遇の相手が見つかると、とても近い存在に感じるものです。
ここで、二人は大きな、人生を狂わすような経験をしてしまいます。全米では合法となっている州があるようにフロリダでは、大麻(マイファナ)は比較的簡単に手に入りました。医療用マリファナも存在するくらいです。二人とも、落ち込んだ時に、「ジョイント(大麻)」を吸うようになりました。法的な観点で厳密にいえばまだ違法ですが、そんなに世間的に取り上げられるようなことではありませんでした。大したことはないのです。しかし、法的な問題より怖いのは、二人のように精神的に不安定な状態にいると大麻だけでは済まなくなることです。いわゆる導火線の役目を大麻がするのです。そのうち、コカインの粉末を鼻から吸引するようになりました。鼻から吸引すると直に脳に作用し「ハイ」になれ、手術の後の肘の痛みを忘れ、気分も晴れて陽気に過ごす事が出来ました。
ところが、球団の職員が二人との会話で「妙」だと思われ始めました。会話のつじつまが合わなくなってきたのです。注射での接種ではないので針の跡などがないため、確かなことは分かりませんでしたが、
「君たち二人とも、酔っぱらっているのか?」
と、突っ込まれることがありました。この職員は、過去にも麻薬におぼれた選手を何人も知っていましたので、「ピン」と来ていました。当然、ヤンキース球団へ
「麻薬接種の疑いあり」
との報告になりました。球団は法的に問題にならない状態なら、なかったことにできるのですが、それも、ちゃんと投球ができるか、が問題でした。今後、ヤンキースにとって二人が役に立つ見込みがあるか否かが重要でした。球団は即座に二人の主治医に連絡を取り術後の進展を確認し、二人にもニューヨークに呼び寄せ、肘が完治する見込みの一年から一年半もの期間、球団が待てるかどうかを決めなくてはなりません。二人は、別々に球団関係者面接しました。
「ダスティン、君が麻薬をやっていることを認めるなら、今後のことを話し合わなければならないのは判るよな?」
「はい、分かります。フロリダで職員に髪の毛を提出したとき、これで終わりか、と思いました」
「ドクターは、今まで通りの変化球を多投する投球は無理だが、何とかプロで通用する投球ができるだろう、と言っている。君は復帰するために、真剣に取り組めるか!?」 もちろん、できます、と言わざるを得ません。ダスティンにとっては野球を続けるか、ほかの道に進むかの決断の時でした。野球しかなかったダスティンには、転職はあり得ないのでした。トム・ジョーダンはすでに解雇されたことを知った後ですので、ダスティンが真剣にならざるを得ないのは当然のことでした。
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