第25話 ダスティンの迷いと離脱
1995年度のシーズンではすっかりスターティングピッチャーのポジションを獲得したダスティンとホルヘのバッテリーは防御率を1点以下に抑えるという超エース級のバッテリーとしての芽を出しつつありました。すごいことです。新人の二人がリーグどころか、ア・リーグとナ・リーグの両方で一番の成績です。シーズン半ばでは競っていたほかのチームのピッチャーを抜いて安定した成績で一位の座を譲りませんでした。これは、世紀の大ピッチャーおよびバッテリーとして脚光を浴び、オールスターにも選ばれました。ダスティンの祖父であるジャッキー・ロビンソンのようなすごい選手の再来としてメディアは取り上げ、特に、ダスティンは「蝶よ、花よ」とちやほやされ、有頂天になりました。
監督のバック・ショーウォルターは東部地区の1位と2位をボストン・レッドソックスと競っており、確実に勝てると計算してダスティンを多少、無理でも登板させてしまいました。 スタインブレナーとの確執はひどくなるばかりで、バック・ショーウォルター監督としても東地区で優勝し、何とかスタインブレナー・オーナーに「ひと泡」吹かせたいところです。オールスターでは登板回数は1回だけですし3回投げただけで交代しましたので、疲労がたまったというわけではありませんでしたが、シーズン中の過労の上の登板で、腕全体に違和感を覚えましたが、ナショナル・リーグからはバリー・ボンズ(サンフランシスコ・ジャイアンツ)、マイク・ピアッツァと野茂秀雄(両選手ともロサンジェルス・ドジャース)などがいましたし、アメリカンリーグにはエドガー・マルティネス (シアトル・マリナース)、フランク・トーマス (シカゴ・ホワイトソックス) 、アルバート・ベル (クリーブランド・インディアンズ)、カル・リプケンJr. (ボルチモア・オリオールズ) 、 ウェイド・ボッグス (ニューヨーク・ヤンキース) 、カービー・パケット (ミネソタ・ツインズ)、イバン・ロドリゲス (テキサス・レンジャーズ)、ランディ・ジョンソン(シアトル・マリナース)など普段は敵チームの代表的な選手ばかりでした。興奮しすぎて肩の痛みなんて、忘れていました。
シーズンの後半に入ってバック・ショーウォルター監督はオールスターの先発に一人も選手を送れなかったボストン・レッドソックスの猛烈な逆襲を受け、チームドクターやトレーナーの意見を無視しても、そして、スタインブレナーへのエゴも手伝いダスティンを、前半戦と同様に酷使しました。そんなころ、シリーズが終盤に移るころになるとダスティンは強烈な肘の痛みに苦しむようになりました。特にダスティンの場合、多種の変化球を多投しますので、肘への影響が強すぎたのです。ドクターでもあるトレーナーは監督に提言し、病院で検査することになりました。その間、ジョンが提案した「肘が下がる」傾向の矯正トレーニングをシーズン中、やり続けてきたダスティンはジョンへ電話で相談しました。ケビン父さんの意見も勘案したジョンは、
「ダスティン、君の肘はチームドクターが言うように、側副靱帯が炎症しているのかもしれないよ。炎症だけなら時間をかければ治るかもしれないけど、悪くすると大きな手術が必要かもしれない」。
ダスティンはそんなに悪いとは思ってもいなかったために、そして、結果が怖かったために、病院の検査を渋っていましたが、怖くなって結局検査しました。結果は最悪でした。側副靱帯を施術しない限り今シーズンの投球は無理、という結果でした。バック・ショーウォルター監督は、
「こんな大事な時に…」
と臍を噛んで悔しがりましたが、後の祭り。ダスティンは手術を受けることになりました。世に言うトミー・ジョン手術です。ジョンはその知らせを受けて、すぐに、アレクサンドラとシドニーに連絡し、ダスティンが手術を受ける病院に駆けつけました。球団関係者がメディアを遮断する為、ガードマンを何人か配置していたためすぐには面会できませんでしたが、やっとダスティンの病室に到着しました。ジョンは、
「生死を問うようなことではないさ!」
と慰めようとしましたが、もちろん本人にとっては、手術が失敗に終わる恐怖と将来への不安で黙っていました。ジョンはアレクサンドラと二人だけにするためシドニーを連れて部屋を出ました。そこにはショーウォルター監督も駆けつけていたので、再開の握手のあと一緒に主治医と話をすることにしました。現在のトミー・ジョン手術は殆どが成功し、リハビリも先端技術と器具によって回復も早いのですが、当時のトミー・ジョン手術の成功率は五分五分でした。しかし、今のままではダスティンは投球おろか、日常生活にも支障をきたす事にもなりえません。選択の余地はなく、ショーウォルター監督は酷使した反省と後悔の念でげっそりしていました。いずれにしても、今シーズンはダスティンの登板はなくなってしまいました。
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