第21話 比類なきピッチャーへの脱皮(3)

    ケビン父さんは続けます。「さて、最後はダスティンに身体的欠陥についてです」。ダスティンは「ビク」しています。「身体的欠陥!?」 本人には全く何のことか心当たりがありません。

「ダスティン、安心していいよ。そんなにたいした事じゃないから。君は左足のシューズのサイズが合っていないはずだよ。左足のシューズの外側のヘリがやけに早いと思ったことはないかね?」

「はい、いつもシューズを新品に履き替えるときは左足が傷んだ時です」。3監督は顔を見合わせて笑っています。

「今サイズはいつかね?」

「はい、10(日本では28cm)です。」

「では、これから右が10で左を10.5(28.5cm)にしてくれ」

スタンプ・メリル新監督は一軍の選手にはシューズメーカーが選手の希望通りのシューズをそろえてくれることになっているとみんなに伝えました。マイナーリーグではそんな贅沢はできませんが、ショーウォルター監督は一軍に上がるまで何とかすると約束してくれました。

    さて、最後に残った問題です。キャッチャーとのサインです。チームによって違うのですが、通常アウトサイドかインサイド、それに球種をサインにしてピッチャーに送るだけです。サインが盗まれると打たれる可能性が高まるため各球団とも秘密扱いですし、その日その日によってサインを変えます。通常、キャッチャーは右投げが多いものです。(内野では左利きが良いとされているのはファーストだけです)従って、右手の指で例えば人差し指一本を両足の間でサインを送り、その指をバッターのアウトサイドかインサイドを指さす、という具合です。しかし、ダスティンの場合、球種が多く、オーバースロー、サイドスロー、そしてアンダースローを駆使して投げ分けるわけですから、サインの種類が多すぎるわけです。

   ケビン父さんが、アイディアを出しました。「みなさん、証券取引所の人が売り買いをするときにどういうサインを送っているかご存知ですか?」 誰も知りません。

「実は簡単なのです。まず親指が「1」です。人差し指が「2」で両方の指で「3」となります。中指で「4」、薬指で「8」、そして小指で「16」となります。それらの組み合わせで最高「31」種類のサインが作れます。ただし、「4」は誤解を与えますので使わないほうが良いでしょう!」 みんなは真剣な顔で、今聞いた数字と指のパズルで「4」、つまり中指を立てています。その直後、全員が馬鹿笑いしたのは想像できます。

「ダスティンにはオーバースロー、サイドスローそしてアンダースローの、投げ方に、直球、カーブ、スライダー、シュート、シンカー、スプリット・フィンガー、チェンジアップの七種類の球種を掛け合わした21種類のサインだけをキャッチャーに送ってもらいます。ただし、「4」を抜きます。左右どちらで投げる、またプレートのどこから投げるは見れば分かりますのでサインはいらないでしょう。キャッチャーはストライクゾーンを9つのブロック分け、それをキャッチャーのサインとしてダスティンに送ればかなり簡単にサイン交換ができます。」 一同唖然としています。もちろん、頭で整理しているのですが、ケビン父さんが見せた次のスライドでようやくすべて理解できたようです。

    これでケビン父さんとジョンの発表は終了しました。3監督には想像もできないくらい緻密な内容に心が震えていました、

「いやー、驚いたね。ケビン、ジョン本当にありがとう。ダスティンもご苦労さん。また、お嬢さん方も、よく興味のなかったかもしれないのに、付き合ってくれてありがとう。お礼と言っては何だけど夕食をおごらせてくれ!」とショーウォルター監督が言いました。もちろん、二人の監督も誘いました。

   8時から、ショーウォルター監督行きつけのスポーツレストランで食事です。話題は今後のダスティンの練習内容と2~3人の特別キャンプ、そしてショーウォルター監督とスタンプ・メリル新監督が作る目標をクリアしたときの一軍、つまりメジャーへの昇格のスケジュールです。若者はそれぞれカップルで別途、アイスクリームを食べに中座しましたが、残るケビン父さんと3監督は深夜までトロピカルドリンク、そうあの傘と花が乗っているカクテル、を深夜まで飲みながらプロのアスリートとしての話題で盛り上がりました。

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