第17話 ダスティンの欠陥

     ケビン父さんはダスティンには内緒にしていたことを打ち明けることにしました。

「ダスティン、あそこにいるのは誰かわかるかい?」

ダスティンは内野の観客席に目をやりました。そこには、シドニーとアレクサンドラが手を振っています。

「アレックス(アレクサンドラのニックネーム)!!!」

アレックサンドラとシドニーは最前列にまで駆け寄ってきました。もちろんアレクサンドラはダスティンと抱擁していますが、客席とグランドでは高低差が大きくてうまく抱擁できません。これを見ていた警備員は「こっちへ来い」と言わんばかりに手招きしています。それに従って、シドニーとアレクサンドラは金網ゲートを通りグランドまで降りてきました。ダッグアウトの奥にいたジョンはすかさずシドニーとハグしましたが、ジョンは朝からあっていたので軽いものです。ダスティンは思いがけない再開を準備してくれたケビン父さんに礼を言ってから、二人の空間に移動する為、アレクサンドラの手を引っ張って、金網ゲートをくぐり、客席に移動してしました。

「ジョン、こっちへ来なよ」と言ってミーティングを進めようという諭す目で見ています。

    ジョンは、ダスティンの投球について気になることを言いました。一つはオーバースローの時に首を振ることです。サイドスローの時は、ボールのリリースの前に頭が膝当たりまで下げるのであまり首を振る余地はないのですが、オーバースローの際に首を振ると、投げる的が狂うのです。

「父さん、ダスティンはサイドスローよりオーバースローのほうがボール1つ分ずれることがあるんです。どうしてか、と考えると、ダスティンはワインドアップしたときに頭がボールの方向に引っ張られ、目が的から外れるのではないか、と思うんです。」

「よく気が付いたね。ちょっとこれを見てくれ」と言ってビデオカメラの記録媒体をつないだパソコンの画面を見せます。よく観察すると、確かに首の振れが多きいようです。

「これだと、ジョンの言う通りコントロールが狂うし、肩の疲労も大きくなる。ダスティンは左右投げですので普通の選手より疲労は少ないが、それでも、疲労は蓄積する。これは、なおす必要があるな。」

「もう一つあります。ダスティンは肘が下がる癖があるみたい。(肘が下がると体全体を使うのではなく小手先で投げることになり、肩や指を痛めたり、長期的には腰まで痛めたりします) ケビン父さんはしばらく考えてから自分のバッグに手を突っ込み、何やらごそごそしています。

「分かった。これを両肘と眉間に貼ってくれ」と白いシールをジョンに3枚渡しました。「後で高速で撮影したダスティンの投球をスロー再生して調べてみよう」。 (現在はモーションキャプチャーという手法があり、3次元グラフィックスにおける手法のひとつで、人間などの動きを測定してパソコンに取り込み、人間の動きを再現するので非常にリアルな動作をさせることができます)」。

    その時、アレクサンドラに手を引っ張られてダスティンが戻ってきました。

「ダスティン、やけに「ごゆっくり」だったなぁ!」とニコリとジョンが見ると、ダスティンはベロを出してお道化ています。 「まぁ、久しぶりだからしょうがないか。残り、30球ほど投げてもらうよ」

「分かった」と観念しているダスティン

「その前にこれを眉間と両肘に貼ってくれ」と言って3枚のシールを渡しました。妙な顔をしているダスティンを尻目に、そのシールを取り上げたアレクサンドラが3か所にシールを貼っています。ダスティンのためになるのなら…と何でもする気です。もちろん、ケビン父さんとジョンのやっていることがダスティンにとって重要であること十分理解し、二人を信頼している証でもあります。さあ、これで準備完了です。

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