第9話 ハイスクール

ミドルスクール(第6学年〜第8学年)を終えたジョンとのダスティンは、ハイスクールに進む事になりました。アーリントン・ハイツ(シカゴ郊外)のリバティー高校です。こと、野球を含むスポーツに関しては、日本の様に「甲子園」の大会のような全国大会はあまり無くて、その高校が所属している地域のリーグくらいです。しかし、全国の高校野球選手の優秀な人材の情報は大学やプロチームのスカウトに流れているため、試合毎にスカウトが観戦(偵察)にきている事もありました。

ジョンとのダスティンのバッテリーは全国のスカウトの注目の的になっていました。勿論、ダスティンの両手投のピッチャーと云うのは派手な興味を引く題材であるばかりではなく、ジョンの父親があのプロバスケットボール選手のケビン・マクドナルドとなれば注目度は高くならざるを得ません。スカウトも最初は興味本位で集まってきました。左右の手を投球に使い分ける選手なんて聞いた事がないからです。更に、ダスティンがあのジャッキー・ロビンソンの孫となれば報道関係もほっておく訳がありません。実力が伴えば、当然プロの道が開かれる訳です。

しかし、ジョンとのダスティンは、周りの騒音が徐々に不愉快になってきました。二人は、単に野球が好きで、一緒にプレーするだけでよかったのです。特に、繋がりのなかったジャッキー・ロビンソンという偉大な祖父を持つダスティンには理解しがたい事でした。それに反して、ジョンは父も祖父もプロのスポーツで生きてきた環境に居ましたので、ダスティンより、納得はせずとも理解はしていました。

「ダスティン、プロはお金が大きく動く団体で色々な組織が関わっているため、『金のなる木』は自分のものにしたい、と思うものさ」。ジョンが説明します。「プロの団体、球場やアリーナの関係者、広告主、コマーシャル企業、報道機関、などなど、数えたらキリがない」。

「ジョン、解っているんだけど、チームメイトやコーチに失礼だし、俺はお前と野球を楽しみたいだけ。今は、プロに行くかどうかなんて考えてもいない」。

「それでいいと、思う。将来を意識して、つまりプロの世界で生きていくかどうかで悩むのであれば、エイドリアン爺さんやケビン父さんに相談に乗ってもらえるから、今は、俺とチームメイトとの野球に専念しよう。俺もそうするから」。それ以降、コーチに話してスカウトからのインタビューは禁止にしてもらいました。(現在はスカウトが直接選手と話せるのはドラフトなどの制度が出来たため、解禁日が設けられており直接に話し合う事は禁じられています。)

この会話以降、二人は野球の事に専念しました。野球には常套手段と呼ばれるセオリーが山ほどあります。それにダスティンの特異な投球方法をどの様に生かすかが何時ものテーマでした。ダスティンは、左右用法で投球できる事に加え、オーバースロー(通常のピッチャーのほとんどはこの投げ方)、サイドスロー、アンダースローを投げ分けました。さらに、軸足を固定する80cmのピッチャープレートの立ち位置を変えて投げています。さらに、ボールの握り方も2シーム、4シーム、ノーシーム(指を縫い目に当てない)を使い分けていました。勿論、全てが完璧ではありませんでしたが、何より相手バッターが次のボールが何なのか予想できない事が重要でした。これでは、相手選手は「山を張る」。事しか出来ませんが、全く想像できないために大振りをするか、凡打をしてしまいます。ジョンは相手バッターの立ち位置やスイングの特性などを瞬時に分析して次の玉のサインを出すため、三振の山を築きました。野球では最少バッター数は三人x9回で27人ですが、ジョンとのダスティンのバッテリーの場合、35人前後でした。たまにホームランを打たれる事もありますが、「事故」的な内容でいわゆる「出会い頭の一発」でした。フォアボールも少なく「0」更新を続けるバッテリーなのです。

ダスティンは比較的、投球数が少なく一試合100球以上投げる事は稀でした。従って、投球をしないインターバルは一日で十分でしたが、アメリカの高校野球では「中2日」は休ませる事が決まっていました。ケビン父さんも、医学的に言っても2日は休め、と言っています。ダスティンは、意味は理解していましたが、ジョンは毎試合出場できるので羨ましい一面もありました。休みの日はブルペンで他のキャッチャー相手に軽く30球位投げる程度でした。その反面、ジョンはホームランを打つような派手なバッターではないものの、ミートの上手な中距離ヒッターでした。犠牲 バントも惜しまず、チームプレーに徹するジョンは次第にヘッドコーチの信頼を得て重宝がられました。ダスティンもバッティングをしましたが、三振を多くする、大振りのバッターで目だった働きでしませんでした。DH制度 ‐ 指名代打制度がアメリカンリーグに導入されたのは1970年になってからですが、高校野球では地区によって異なりますが、ほとんどがDH制度を採用していませんでした。

イライラが爆発した事件をダスティンが起こしてしまいます。試合中に「ニガー」、と云う、決して使ってはいけない言葉を浴びせた相手に打者にビーンボール(頭部への投球)を投げてしまったのです。あたりはしませんでしたが、乱闘となってダスティンは退場を命じられたのです。さらに、一カ月の試合出場停止処分も受けてしまいました。


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