第4話 ジョンの子供時代
ケビン父さんもミミ母さんも決して口うるさい親ではありませんでした。ジョンが5歳位になると二人は話し合って子供の育て方を決めました。二人とも大学時代に児童教育のカリキュラムを選択したお陰で、自然に学術的見地の教育方法を身に付けていました。子供は「危険である事」 「人に迷惑をかける事」、以外に叱ってはいけない、と云うものです。注意する時は、子供でも一人の人間として意見を尊重しながら話し合う事に決めていました。子供だからと言って頭ごなしに叱ってはいけない、ということです。ジョンも幼児の頃は、訳の分からない事をいっぱいしてきましたが、それは、自分なりの好奇心への対応の方法であったという事です。今では、何でもかんでも質問してきます。特にミミ母さんが大変ですが、母親の方が父親より「話すこと」に優れている為、あまり苦にならなかったようです。
聞いてくる事の多くは大人の会話でわからない言葉とスポーツや遊びに関する事、食べ物に関する事、虫や動物に関する事が多かったのですが、ミミ母さんは根気よく説明してあげました。ケビン父さんの楽しみはウィークエンドにスポーツをテレビで一緒に観戦し、ルールやプレーの説明をジョンにする事でした。週末なら、エイドリアン爺さんやクリスティーナ婆さんも加わる事もありました。マクドナルド一家はなんといってもスポーツを一家でした。
ヤンキースファンのエイドリアン爺さんやクリスティーナ婆さんにとっては1977年のワールドシリーズは忘れられない事が起こりました。ボルティモア・オリオールズから移籍してきたレジー・ジャクソンは3打席連続本塁打(第5戦最終打席にも本塁打を放っているので、通算ではワールドシリーズ史上初の4打席ホームラン)、それもすべて初球打ちという離れ業でヤンキースに久々のワールドチャンピオンをもたらし、名実ともにミスター・オクトーバーの称号を得ました。しかし、レジーは当時のヤンキース監督マーチン、オーナーのジョージ・スタインブレナーとよく揉め事を起こし、その関係は度々メディアに取り上げられました。レジーはメディアや審判、自分のチームなどの野球関係者とは時々、問題を起こしましたが、球場にきている観客やファンには紳士な選手でした。そういうレジーをエイドリアン爺さんは好きでした。自分が若い頃、苦労した時に一緒に働いた競馬場の労働者に黒人が多く仲の良い友達も多くいたので、彼らに対する扱いに十分理解していましたし、本当に一生懸命な姿に好印象を持っていたので余計にレジーを気に入っていたのです。レジーはジャッキー・ロビンソン以来の大選手でした。エイドリアン爺さんはジョンにプロスポーツ選手の「心意気」たるものをよく説いて聞かせました。ジョンはあまりよく理解していたかどうか判りませんが、真剣に聞いていました。しかし、そのお陰で、ジョンはレジー・ジャクソンの連続ホームランを忘れる事はありませんでした。同じく黒人のハンク・アーロンがベーブ・ルースの「714本」のホームラン記録を更新した時もよく覚えています。ファンが期待し、それが実現した時や、まさかここまでは.….と思っている事を選手が成し遂げると人は興奮するものです。つまり、期待した事も予期しなかった事にも人は興奮する様です。そんな哲学的な事を会得したのは6歳の時でした。
ジョンはこの頃からスポーツ万能の才能を発揮して行きました。もちろん、マクドナルド一家の血統であるばかりでなく、家族のスポーツファンと云う環境も影響していました。ジョンが7歳の頃、テレビを見ていて、家族が全員驚いたニュースを見ました。丁度、エイドリアン爺さんも一緒に見ていましたので、大変な話題になりました。ミミ母さんが日系である事もあったのですが、サダハル・オーと云う日本の選手が1977年にハンク・アーロンの記録を抜いて756本目のホームラン記録を打ち出したのです。このニュースは全国のネットワークを通じて流れ、大反響を呼びました。「日本は球場が小さいから」、とか「日本のピッチャーはスピードが遅いから」。など、否定的な意見もありましたがジョンが目を見はったのは「片足打法」でした。フラミンゴが睡眠を取る時や、足を休める時に片足しを上げるところから、「フラミンゴ打法」、とか「一本足打法」、とか呼ばれていましたが、ジョンは「Cool‼ - かっこいい!」、と言って真似をしました。ケビン父さんは「体重移動と着地のタイミングが合えば合理的だ」、と人体の機能的観点から分析し、エイドリアン爺さんは「東洋の人は集中力が西洋人より優れている」、とか、議論に花が咲きました。翌日から、ジョンは当然の如く真似をしました。自分も日本人の血が流れている事を知っていましたので、頑張って真似をしましたが、その日は芯に当たったのは45球中2本でした。
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