第4話

「どういう意味だ?」


ホームルーム後、悟仙はさっきと同じ質問を竜二にする。


「まあ落ち着けって」


「俺は十分落ち着いてる」


「かわいげのない奴だな」


「わかった。もう聞かない」


なかなか本題に入ろうとしないので席から立ち上がろうとすると慌てた竜二から手を取られる。


「わー!待てって、待てって!ちゃんと話すからさ!」


「最初からそう言え」


悟仙が不機嫌さを隠そうともせず席に座り直すと竜二はようやく本題を話し始めた。


「もうすぐ林間学校があるだろ?」


「ああ」


そのことついては知っている。さっきのホームルームでも、担任から今日の六限に班決めがあるという話があったばかりである。

そこで、閃いたことがあった。


「お前と同じ班になれと言うなら、いつものことだろう」


そう、悟仙と竜二はそういうものはいつも同じだった。原因は竜二が強引に決めてしまうからだ。


「それもあるが、それだけじゃないんだ。さっき話した井上麻理さんとも同じ班になって欲しいんだ。」


「理由はなんだ?何で俺なんだ?」


ここですぐに断ってもいいが、理由を聞かないと納得しないだろう。


「あの子さナツの中学の時からの親友らしいんだわ。

で、すげぇ可愛いだろ?だから今回の林間学校でお近づきになりたいって奴が多いらしくてさ、それをナツが気付いて何とかしろって言われたわけ。」


「それで俺に協力しろと?」


「そうだ、林間学校の班って男子四に女子四だろ?」


それを聞いて悟仙はようやく合点がいった。


「その四人のうちの二人を俺達で埋めて、残りの二人がその女子に近付かないようにしろってことか?」


「そうだ。相変わらず察しが良くては助かる」


正直その女子がどうなろうとどうでもいいのだが、借りがあるのでその分は働かないといけないだろう。

それに、その女子に全く関心がない悟仙が適任であるというのも頷ける。


「やってもいいが、その近付かないようにするのはお前がしろよ。俺はそこまではせんぞ。」


「助かる」



☆☆☆



竜二は悟仙から了承の返事をもらうとすぐに夏子の席に向かった。


「とりあえず、一人は確保したから」


そういうと夏子は麻理との話を止めてこちらを振り向く。そして切れ長の眼を細めて言う。


「竜ちゃん、それってやっぱり陸奥?」


「そうだけど」


「あいつで大丈夫なの?」


「いや、あいつしかいないだろ?」


「まあ、確かにそうね」


夏子が悟仙の方をちらりと見て言った。

そこで今まで話を聞いていた麻理が口を開く


「何かあったの?」


その声の方に竜二が目を向けると、ふわっとしたボブカットの黒髪を揺らして麻理がこちらを向いていた。


「いや、たいしたことじゃないんだ」


答えながら麻理の顔をまじまじと見る。

透き通った肌にツンとした小さな鼻、黒目がちのぱっちりとした大きな目。それにスタイルも良いときた。

これはお近づきになりたいと思う男子の気持ちも分かるような気がする。

思わず見惚れていると夏子に声を掛けられた。


「竜ちゃ〜ん?」


その声に若干の怒りが含まれていると感じたのは気のせいだろうか。



☆☆☆



その後、他愛もない話をした後自分の席に向かう竜二の後ろ姿を見ていると夏子は後ろの席の麻理から声を掛けられた。


「あの人がなっちゃんが言ってた加藤くん?」


「うん、そうよ。あたしの幼なじみなの」


「そっかー。優しそうだったね」


「まあ、そうね。もしかして麻理ちょっと気になるとかないよね?」


少し慌てて聞くと麻理は小さく首を振った。


「そうじゃないよ。ただ、仲が良さそうだなって思っただけ」


それを聞いて少し安心する。麻理相手では絶対に勝てそうにない。


「それに、私そういうのよく分かんないし」


麻理は高校で初めての共学なのである。それまでは同じ年頃の男の子と話したこともないらしい。


「大丈夫よ。その辺はちゃんとあたしが探すから!」


「うーん、嬉しいけどそういうのはやっぱり自分で決めないと」


「まあ、そうね。でも!悪い虫がつきそうになったらすぐ追い払ってあげるからね!」


「ありがとう、なっちゃん」


麻理の机に手をつき勢い込んでそう言うと麻理はにっこりと笑った。

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