17#風船が運んだ奇跡

 ムウガは、深く深く息を吸い込んだ。


 ムウガは、思いきり大空へ鼻を突き上げた。


 そして、




 うおおおおおおおーーーん!!


 うおおおおおおおーーーん!!




 「さあ、もっと吠えてみろ!!」


 体にまだ結ばれた割れた風船や、爪に結わえた風船の破片から、ムウガの脳裏に大声で反響してきた。


 その割れた風船のひとつひとつに、ムウガの風船の束を、そして家族を探していた時に出逢った仲間達の『心』が吹き込まれていたかのように。




 うおおおおおおーーーん!


 うおおおおおおーーーん!


 うおおおおおおーーーん!




 すると・・・




 うおおおおおおーーーん・・・


 うおおおおおおーーーん・・・




 遥か彼方から、オオカミの遠吠えが聞こえてきた。


 ムウガはさらに息を吸いこみ、大きく遠吠えした。




 うおおおおおおーーーん!!


 うおおおおおおーーーん!!


 うおおおおおおーーーん!!




 遠吠えは、更に近くなってきた。




 うおおおおおおーーーん!!




 荒野の岩場から、数頭のオオカミのシルエットが見えてきた。

 そのシルエットにはやがて、黒い鼻や精悍な目、鋭い牙、逞しい体の輪郭が現れてきた。


 「ムウガや・・・ムウガや・・・どこにいたの?探してたんだよ!!」


 「父ちゃん!!母ちゃん!!そして、ボウガモウガバルガ!!」


 子オオカミのムウガの目から涙が溢れた。


 ムウガはもう子オオカミではなかった。


 既に立派な威厳あるオオカミへと成長していた。


 「何してたの?心配したわ!」


 母オオカミは、ムウガの顔を優しく舐めた。


 「僕・・・大きな『木の実』いや、風船をみんなに見せようと思ってたんだけど、ここに来る途中で全部割れちゃって…」


 ムウガは、体に結ばれた風船の束を見ようとした。


 あれっ…?!風船の束が取れてる・・・!!


 

ムウガは、爪に結わえた割れた風船の破片を見ようとした。


 あれっ・・・?!これも無い!!


 微かに爪に、ゴムの匂いがこびりついていただけだった。


 ムウガは呆然とした。


 辺りを見ても風船の破片もなかった。

 ムウガは思った。


 ・・・そうだ!この風船達は、僕を家族に会わせようと『道標』を教えてくれたんだ・・・!!

 ・・・そして役目を終えた風船達は、何処かともなく風に飛ばされるなり消えていったんだ、きっと・・・

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