11#トキに抱かれて

 ・・・ん・・・?


 ・・・ん・・・?ここは・・・?


 ムウガは目が覚めた。


 ・・・誰かに抱かれている・・・

 ・・・淡いピンクの体と翼・・・

 ・・・長細い嘴・・・

 ・・・真っ赤な顔・・・・

 ・・・その赤い顔の優しい目が、僕を見守っている・・・


 ・・・君は・・・


 子オオカミのムウガは、再びうとうと眠くなった。


 ムウガはぐっすりと眠りこけた。


 優しい翼に抱かれ、ひとときの安らぎを得た。


 ・・・朱鷺色の空。


 何処までも延々と拡がる草原を、子オオカミのムウガは駆けていた。


 「見えてきた・・・!!」


 兄のボウガ。


 姉のモウガ。


 妹のバルガ。


 「おーい!みんな待ってよおー!!」

 

 子オオカミのムウガは、必死に兄弟達を必死に追いかけた。


 はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・


 「なかなか追い付かない!?」


 ムウガは更にスピードをあげた。


 はあ・・・はあ・・・はあ・・・


 「やっと追い付い・・・ん?」


  ムウガは、兄弟それぞれ口に風船の吹き口をくわえ、吐息を入れながら走っていたのだ。




 ふー!ふー!ふー!ふー!




 兄弟の膨らます風船は、次第に大きくなっていった。




 ふーふーふーふー・・・




 風船はどんどんどんどん大きく大きく大きく膨らみ、遂に兄弟達の体より大きく膨らませた。


 「わ、割れる!!!」




 ふうわり・・・




 兄弟達は、巨大に膨らませた風船をくわえて宙に浮いた。


 「まさか・・・?!」




 ばっ!




 そこに、両親が疾風のように現れ、膨らませた風船で宙に浮く兄弟の尻尾に噛みついた。


 「前に見た夢のシュチュエーションだ!」


 風船に浮かぶ兄弟と両親は、どんどん空へ舞った。


 

 「おーい!待ってくれぇーー!!」


 風船で朱鷺色の空に飛んでいく親兄弟を追いかけようと、子オオカミのムウガはジャンプした。


 何度も何度もジャンプした。

 何度も何度も・・・


 「うわっ!」



 ドスン!!



 

 ・・・・・・はうわ?


 地面に頭をぶつけた子オオカミのムウガ、むくっと起き上がった。


 「夢か・・・」


 ムウガは、やけに鼻がムズムズしてきた。


 「ふぇ・・・ふぇ・・・ふぇっくしょんん!!!!!!!」くしゃみが出た。

 

  子オオカミのムウガは、とてつもない大クシャミをした。


 はらり・・・


 「鳥の・・・何の羽根?」


 ムウガは、その羽根を口で拾い上げた。


 「これは・・・トキの羽根・・・トキと寄り添ってたのか!?自分は。」


 ムウガは、トキの羽根の匂いをそっと嗅いだ。


 「優しい、甘い匂いだ。」


 ムウガはうっとりした。

 ふと、子オオカミのムウガは、足元を見た。


 ・・・あれ?膨らませた風船がある・・・?


 それは、ピンク色の大きく膨らませた風船だった。

 子オオカミのムウガは、きつく結ばれた吹き口の匂いを嗅いだ。

 ゴムの匂いに混じり、羽根と同じトキの甘い匂いがした。


 「これは、トキが膨らませた風船だ。」


  子オオカミのムウガの胸はキュンとなり、目から涙が溢れてきた。


 ムウガはトキの吐息が入った風船をくわえ、鉛色の空を見上げた。


 ・・・ありがとう、トキさん。見付けるよ、僕の家族と風船を・・・




 びゅうう・・・



  再び風が吹いた。


 ムウガは風の匂いを嗅いだ。


 ・・・僕が行くべき方向が分かった・・・!行こう!トキの風船と共に・・・!!


 ムウガはそう思うと、山林を駆け出し、草原を抜け、荒野を駆け抜けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る