10#嵐の中の子オオカミ

 「ふんふんふーん!」


 カワウソ達と別れた子オオカミのムウガは、パンパンに膨らんだ5色の風船に見とれていた。


  ・・・あの中に、カワウソの息が詰まってるんだ・・・


 そう思うと、脚が軽くなった。

 スキップする位に軽くなった。


 鉛色の空から放つ淡い光が風船の光沢に映り、美しく艶を醸し出した。


 だが、それも束の間。


 淡い光は輝きを失せ、雲行きが怪しくなった。




 ぴゅうう・・・ごおおお・・・




 雨風が強くなった。




 ぴゅううう・・・ごおおお・・・




 「うわあああっ!」


 子オオカミのムウガがくわえた風船の束が激しくなびいた。




 ぼん!ぼん!ぼん!ぼん!ぼん!



 

 雨に濡れた風船は、お互いぶつかった。


 

 ・・・ぶつかった拍子に割れちゃったらどうしよう・・・!!

 ・・・せっかくカワウソが膨らませた風船を・・・

 ・・・父ちゃん母ちゃん兄弟達にあげたい風船を・・・飛ばしてたまるか・・・!!


 ムウガは牙を食い縛った。




 ぼん!ぼん!ぼん!ぼん!ぼん!




 5色の風船は激しくなびく。


 ぐいぐい引っ張られる子オオカミのムウガの口には、血が滲んできた。


 ・・・放すもんか!放すもんか・・・!!


 ムウガは更に牙に力を入れた。




 ぐぐっ・・・!!ぐぐっ・・・!!




 ムウガはくわえている風船に煽られて、少しずつ体が暴風に持っていかれた。




 ぐぐっ・・・!!ぐぐっ・・・!!




 ・・・うわっ・・・!!


 遂に、脚が暴風で地面から離れた。

 子オオカミのムウガは、風船の束の紐をくわえたまま、暴風雨に吹き飛ばされた。


 ・・・く、口が…き、牙が・・・!!


 ムウガの口は血まみれになりながらも風船を飛ばすまいと、ぐっ!と噛み締めていた。

 突然、暴風雨が更に激しくなった。


 ・・・しまった・・・!!


 子オオカミのムウガは、宙に浮いた。


 風船の束の紐に食らいついたまま、嵐の空に吹き飛ばされて舞い上がった。


 ・・・この風船を放すもんか・・・!!

 ・・・僕の大切な風船・・・!!

 ・・・どんなに風が吹いても、この風船だけは命に替えても守ってやる・・・!!

 ・・・この風船を親兄弟に見せるまでは・・・!!


 眼下には、森や荒野がうねりをあげて風雨に晒されいた。




 びゅうううう・・・!!ごおおおおお・・・!!ごおおお・・・!!



 まだ子オオカミのムウガは、風船の束をくわえて暴風に吹き飛ばされていた。




 ぼん!ぼん!ぼん!ぼん!ぼん!




 風船はお互いぶつかり、激しく揺れた。




 ・・・やばいな…風船がパンパンだからこりゃ割れるぞ・・・


 ムウガは心配になったとたん、




 ずるっ・・・



 ムウガの牙が限界を超えた。


 ・・・口の力が抜けていく・・・



 するり・・・



 ・・・ああっ・・・!!


子オオカミのムウガの口から、風船の束の紐が離れてしまった。


 「うわああーーっ僕の大切な風船がああっ!」


 ムウガは、暴風に吹き飛ばされてながらもがいた。


 どんなにもがいても、ムウガは前に進まなかった。


 ムウガが空中でもがいているうちに、風船の束は、どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんムウガから離れて吹き飛んでいった。


 「待ってくれぇー!!僕の風船!!」


 ムウガは、暴風に煽られてながら大声で叫んだ。


  「僕の・・・僕の・・・僕の風船が・・・」


 子オオカミのムウガは声が枯れ、もがき疲れ、今度は墜落した。


 ムウガは墜落する途中、気を失ってしまった。なすがま、そのまま墜落していった。




 びゅううう・・・ごおお・・・

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