第49話「美少女グラップラー!デンジャラス・文那」
夜の
普段ならば、この
片や、
天に
今、流星と彗星の激突が迫っていた。
「ごめんなさい、いづる君。手間をとらせてしまうわね」
「い、いえ」
突発的な勝負、しかも初めて玲奈から文那へと挑戦状が叩きつけられた。予期せぬ遭遇戦であった証拠に、玲奈のあれこれは借り物だ。そう、柔道着も中のシャツも、いずるのものなのだ。
なんだか、ちょっと、不謹慎な想像が広がってしまう。
どこまでもムッツリスケベないづるだったが、
「じゃ、じゃあ、僕が……審判、の、
「ええ、構わなくてよ。なにかあるといけないもの、危ない時は……私を、私達を止めて」
「は、はいっ」
いつものように
そして、同じ気迫を
「わたくしからもお願いしますわ、いづる様……玲奈とは常に、真剣勝負。
ああ、やっぱり柔道着も赤なんだ……などという、間抜けで場違いな印象を感じさせない。今の文那は、通り名が示すままの赤い彗星だった。
紅白
いつもなら、二人の対決は学園の風物詩、誰もが歓声を送るお祭り騒ぎなのに。なのに、夜の柔道場には、殺気にも似た緊張感が満ちていた。
――狂騒も熱気もなく、ただ
「え、えっと、じゃあ、中央に礼っ!」
共に英才教育を受けてきた、本物のお嬢様だ……当然、帝王学の
では、果たして柔道ではどちらに軍配があがるのか?
今まで無敗を誇る玲奈からの、初めての挑戦。
柔道という競技……格闘技を指定したのも、彼女なのだ。
「双方に、礼……はっ、始めてくださいっ!」
いづる自身が、
息苦しさに
決して暑くはないのに、
それなのに、肌は凍えるように鳥肌が立っている。
二人の少女は、いづるの声と同時に構えた。
そして、動かない。
「あ、あの……始めて、くださいって……あっ」
武術に
目に見えるような錯覚さえ感じたのだ。
もう、戦いは始まっていた。
「――ッ、フゥ――!」
「! ――ッ!」
身構えたまま動かぬ両者の間で、無数の未来が交錯して
共に有段者、よく見れば二人共黒帯を締めている。
静かに凍った空気が、二人の呼吸と鼓動で
柔道とは、明治を契機に生み出されたスポーツ、競技化を前提とした格闘技である。今まで武家の人間だけで
欧米人も驚く、力学を用いた鋭い投げがその
「そうだ、確か柔道は……組んで、崩して、投げる。この三つの基本動作で繋がっている。でも、最初に組むためには……自分に有利な組手を作るためには、間合いを」
そう、玲奈と文那の制空権は
なにもしていないように見えて、間合いを
だが、先に動いたのは文那だった。
「ガンダムで柔道と言えば……ハヤト・コバヤシッ!」
鋭い踏み込みだった。
「
「柔道を選ぶとは、萬代の白い悪魔も命運尽きたわ……わたくし、柔道は得意でしてよ! そしてっ!」
文那が玲奈の重心を崩しにかかる。
柔よく剛を制す、この極意の真髄は崩しにある。どんな巨漢も、重心を崩されれば必ず投げられるのだ。こと、達人の域になれば体格差など関係ない。
僅かに玲奈が表情を歪めた。
涼し気な美貌を
「その連邦のハヤト・コバヤシはっ! ネオ・ジオンのコロニー落としで、倒れた! そのことにヒントを得た、これがわたくしの……必殺技ですわ!」
――危ない、玲奈さん!
思わず叫びそうになった。
そして、言葉を飲み込んだ。
いづるは今、公正な中立の立場でジャッジを任されているのだ。二人の少女が自分を信頼してくれている。であれば、どんな想いも今は心に沈めて勝負を見極めるのみ。
だが、凡人の目では……文那の必殺技は見えなかった。
「え、えっと……技あり、かな? 速い! 速いですよ!」
なにをしたのか、わからなかった。
だが、辛うじて一本を防いだ玲奈の表情が戦慄に固まっている。
彼女は身を起こしながらも、小さく
「今のは……空気投げ」
「ええ! そうよ……正式名称は
ダブリンへ落下する、ネオ・ジオンのコロニーを
思うように組み手を作れず焦った玲奈が、
どうやら文那は、柔道にかなりの自信があるようだった。
だが、玲奈の目はまだ死んではいない。
試合再開をいづるが
「文那さんっ! ハヤト・コバヤシは当時……連邦軍の将兵ではないわ。所属は、エゥーゴの地上支援組織、カラバよ!」
「細かいことをっ! ならっ、
まただ……また、文那が誘うように玲奈の重心を崩す。
だが、必殺の隅落、コロニー隅落に二発目はなかった。地球環境すら破壊するコロニー落としも、ダブリンを最後に一度も成功していないように。
玲奈は、コロニー隅落を一度で見切っていたのだ。
そして、技の不発を悟った文那が声なき声を絶叫する。
「くっ、玲奈っ! 貴女は、わたくしの! ……全てを、奪いましたの!」
「……技には技で、奥の手には奥の手で応じます。そうっ!」
柔道において、もっとも危険な瞬間。
それは、自分が相手を投げ損なった時である。組んで崩しても、投げることができなかった時……その刹那、攻守は入れ替わる。
玲奈は電光石火の組手で文那を崩した。
「ジュドー・アーシタの名が、当時の金メダリスト、柔道の山下選手から……ジュウドウ・ヤマシタから取られたように!」
「はっ、初耳でしてよ! ソースは!」
「いずれ、お茶でもしながら……今はただ、そこからヒントを得た気がする、この技で!」
玲奈が沈み込む。
背後に倒れながらの、これは
まるで、ガンダムに巻き付くグフのヒートロッド……絡み付いた玲奈の妙技が、あっという間に文那を裏返して、自分の上に落とした。
その時にはもう、
当然だが、柔道は投げ技と同時に、絞め技や固め技がある。
「グッ! 玲奈、貴女……」
「降参して、参ったと!」
「い、や……絶っ、た、い……嫌……ジーク・ジオン!」
「遊びでやってるのではないの! もうっ!」
ここだと思った。すぐにわかった。
もう、片羽絞めが極った時点で、真剣勝負の空気は霧散していた。
いづるは間髪入れずに、勝負アリの声をあげる。
そして、すぐに手を離した玲奈を見た。
そして、勝者と敗者とを宣言し、その片方の手をいづるは高々と上げた。
宿命の対決が、その闘争の連鎖が
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