とある土曜日、魔がさしまして。
その日は、とても穏やかな気候で、実に過ごしやすい良い日だった。土曜日にも関わらず、補講があり、僕は大学へ行かなければいけなかった。聞くところによると、母と父は二人で出かけるらしく、アキは一人で家に居るらしかった。大方、彼女も二人の外出に誘われていたのだろうが、気をきかせたのだろう。
僕が家に帰ると、家の中は静寂で包まれていた。ただいま、と呼びかけてみるも、特に反応が無い。玄関の鍵は開いていたから、アキが外へ出掛けている、と言うこともないだろう。ただいま、の声が聞こえなかったのか、はたまたついに無視されるようになってしまったのか、など色んな方向へ思考を巡らしながら、リビングを覗いた。
アキは、ソファで眠っているようだった。母の一存で決まった、明らかに無駄な大きさのソファに横になり、穏やかな寝息を立てていた。
何で、そんなことをしたのか、今でも分からない。彼女の可愛らしい寝顔に、つい魔がさしたのだろうか。気がつけば僕は彼女の頭を一心に撫でていた。彼女の、手入れされた長髪が、実に心地よい手触りで永遠にこうしていたいと思った。気持ち悪いとは思うが、その時は確かにそう思ったのだ。
しかし、そうは言っても、いつまでもこうして居るわけにはいかない。年頃の女の子の頭を撫でるなんて行為は、それこそ、恋人のみの特権である。家族とは言っても、父親や兄貴からされて嬉しいものであるまい。気持ち悪がられるだけでは済まない可能性だってある。さて、そろそろ止めなければ、と手を離そうとした矢先。
「……兄さん……?」
終わった、と思った。
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