社内総会

「──いやぁ、ランシェッタ面白かったよ」

「本当に日本じゃないみたい! また来たい!」

「ありがとうございました!」


 客を見送り、俺たちは特に大きなトラブルも抱えず本日も無事に営業を終えた。





「そんなわけで、本日は社内総会をやろうと思う」

「なにをするんすか?」


 本日は休業日。そしてオープンして1ヶ月。珍しく全員揃ったところで話を始める。

 全員揃うのが滅多にない理由はもちろんモモンガが向こうの世界へ行きっぱなしだからだ。


「まずは今月の売り上げの報告を頼む」

「ほーい」


 オシコがノートパソコンをプロジェクターに繋げる。するとエクシャルだかパゥワートインポで作ったグラフと表が壁に表示された。


「今月の売り上げはこれくらいだよー」

「「「おおーっ」」」


 1日10人、2日に1回の営業だ。これがフルに入ってくる。その金額を見せたらみんな驚いていた。もう少しで億に届く。

 現物がこの場にあるわけじゃないからいまいちピンとこないが、とにかくかなりな高額を1ヶ月で稼いでしまった。


「こ、こんな大金どうすんすか?」

「まずはこれでセキュリティ関連を一気に充実させようと思う。フェンスや監視カメラ、番犬などで、とりあえず初期投資に7割ほど使う。山を全て囲いたい」


 必要経費ということで申告できるから、使えるときにがっつり使っておこう。こういうところでケチって無駄に税金を納めるのもつまらんし。


「だがこの予算で山を囲うフェンスは厳しいだろう。むしろ小屋の周囲だけしっかり守るほうが有効だ」

「なるほど。少し深めに掘って下からも入れないようにするのも重要だし」


 松茸泥棒とかは下からくぐる奴もいるらしいからな。広く浅くでは意味がない。

 後々拡張などもできるようにそれなりの幅をもたせてやれば邪魔にもならないし、その案を採用するか。


「そこらへんはカンダラ君に任せよう。予算内で調べて欲しい」


 彼のことだから軍の払い下げとかいうわけのわからないものを仕入れそうだが、安く使えるものがあればいいか。


「じゃあ残りが利益っすね」

「いや、雑費もあるし、更にここから給料を出すから」


 雑費はログハウスにある業務用冷蔵庫のようなでかいものから、穴を通る客が向こうへ持ち込むために入れる袋まで、値段問わずたくさんある。基本的に俺の持っている相続金からの貸付となっているから回収しないと。それを細かく計上してあとで税理士と相談する予定だ。

 そして給料なんだが、これには少し悩んでいた。


「能力給といきたいところだが、みんなそれぞれの分野でがんばってくれている。みんな欠かせない存在だから、あまり比較したくないが……」

「差があるんすね?」


「ああ。個人的に最も働いていると思っているのはモモンガさんなんで、彼女には少し多めに考えている」

「えっ、ええーっ」


 モモンガが驚いている。俺はこういうのをこっそりやるのに向いてないからな。それにもし他のメンバーがそれに不満を持つのなら意見を聞いておきたいというのもある。


「いやいや、俺もそうすっべきだと思うっすよ」

「うん、モモンガちゃんは向こうに住んでるんだから、24時間働いてるようなものだしね」

「正直モモンガはコミュ力のバケモノだしな。あれはむしろオレには無理だ」


 俺の意見をみんなが賛同してくれた。

 言葉を覚え、あちらの世界で人脈を作り、全ての橋渡しをしてくれているのは彼女だ。決して肉まんのおかげではない。


「で、でも私、向こうに住んでるからこっちのお金もらっても使い道ないよ」

「……あー……」


 みんな納得してしまった。

 あちらへ送る食事などは経費で落とせる。モモンガ自身も食うが、それでも大した量じゃない。

 送った品物は贈与に使う場合もあるが、大体は販売目的だ。そこで手に入れた金でランシェッタなどを買う。

 向こうの世界の金もそこそこ稼げているみたいだから、そっちからモモンガへの給料を払えばいいか。


 そうなると余剰分が発生することになるな。もちろん蓄えは多いに越したことがない。だがこれだけ余るのならいっそもうひとりくらい雇ってもいいのではないかと思う。


「ハッシャク君。もうひとりくらい雇いたいと思うんだけど」

「そっすね」

「相変わらず軽いな……。誰かいい人いるかな」

「どんな人がいいっすか?」


 どんなと聞かれると困るな。

 客を駅から迎えるドライバーは俺とカンダラ。あと色々調達するのもカンダラの仕事だ。

 そしてあちらの世界での案内役はモモンガとハッシャク。

 受付と事務作業、そして雑務とネット関連がオシコの役割だ。


 ……オシコの負担が一番大きいかもしれない。


「事務と受付ができる人が欲しいな」

「えっ、あたしクビですか!?」

「ち、違う違う。今考えてみて一番大変なのはオシコだと思ったから、補佐できる人物が欲しいかなって」

「あー……。確かにちょっと作業多い気もするけど特に問題ないよー」

「いや、それじゃ困るんだ」


 カンダラとハッシャクの代わりはかなり劣化するが俺でもなんとかできる。だがオシコとモモンガの代わりは無理だ。もし病気にでもなったら立ち行かなくなる。

 だからといってモモンガの代役を見つけるのは非常に難しい。要求スペックが高すぎる。

 それと病気はわからないが、あっちなら怪我はしないようなものだ。ある程度は大丈夫であろうと高を括るしかない。

 そんなわけでオシコのサポート役を付けたいと思っているというような話を説明した。



「そっすね。HPの更新とかは問題ないっすけど、管理と受付はなにかあったときのために必要っすね」

「あー、うんー、考えてみりゃそうだねー」


 オシコも納得してくれた。まさか自分が病気にかからない無敵の超人だなんて思いこんでいなくてよかった。

 だけどここで問題がでてくる。もちろん新しく入る人のことだ。


 それほど長い時間ではないが、俺たちはそれなりに密度の高い時間を過ごした。議論することもあったし、寝食を共にしていたりもする。

 こんな中に加わるのは簡単ではない。特にオシコとしっかり連携を取れる人物でなくては──。


「あっ、じゃああたしの後輩呼んでみるよー。なかなか器用な子だから大丈夫じゃないかなー」


 本人の知り合いか。それなら問題ないだろう。

 とりあえず誘ってみてもらい、やってくれるかどうか判断してもらう。駄目なら駄目で他の人を探すしかないな。


 そして最大の問題である、モモンガの代役も見つけなくてはならない。どうしたものか。

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